世界の酒の大分類(醸造酒・蒸留酒・混成酒)
発酵形式のちがいによる醸造酒の3分類
酒の産業を知る - 世界の酒
世界の伝統的な酒の地域分布をみると、西欧諸国は果実を発酵させて造る「ワイン」圏、欧州から中東、アフリカ大陸にかけての広い地域は、穀物の種子を発芽させた「モヤシ利用の酒」圏に位置付けられます。日本を含む東アジア一帯は「麹の酒」圏とされています。
伝統的な酒つくりの分布
現在、日本の酒販店やデパートの酒売場には、数え切れないくらい多くの世界の酒が並んでいます。しかし酒は、ビンや缶など容器に詰めて販売されているものだけではありません。世界には、その何倍もの種類の酒が存在します。日常の食糧を原料とし、その地域の人たちが編み出した技法によってつくられ、その場で飲まれている酒も随分と多くあります。
たとえば、アフリカのバナナ酒、熱帯地域のヤシ酒、ヒマラヤのチャン、中南米のチチャなどいずれもその民族固有の「文化の象徴」です。したがって、この文化的価値の高い飲料を飲むということは、その土地の自然、民族の歴史、文化を楽しむことだといえます。
世界の伝統的な酒を分類すると、発酵したものをそのまま飲む「醸造酒」と、それらを加熱し蒸留してつくる「蒸留酒」と、さらに、これらを基にしてつくられる「混成酒」とに大別されます。最も代表的な醸造酒は、ワイン、ビール、日本酒です。これらの酒を蒸留したブランデー、ウィスキー、本格焼酎は代表的な蒸留酒です。また、原料のタイプから「糖分の酒」と「デンプンの酒」とに二分されます。
世界の伝統的な酒の分布をみてみると、気候条件や原料となる作物の分布、酒造技術の広まり、または独自の発生などにより、いくつかの類型が見られます。西欧諸国は果実を発酵させて造った「ワイン」、欧州から中東、アフリカ大陸にかけての広い地域は「モヤシ利用の酒」の圏内です。モヤシとは穀物の種子を発芽させたもので、その糖化酵素の作用によりデンプンを糖に分解して酒が造られます。
日本を含めた東アジア一帯は「麹の酒」の圏内にあります。麹は穀物にカビ類を生やして酵素を生成させたもので、その糖化作用により原料のデンプン質を糖に分解することができます。日本酒は米のデンプンを原料として、黄麹菌(きこうじきん)を利用する醸造酒です。
醸造酒・蒸留酒・混成酒
酒の製法による「醸造酒」「蒸留酒」「混成酒」の分類について、それぞれを詳しく見てみましょう。
醸造酒(日本酒・ビール・ワイン)
ワインなどの果実酒は、原料そのものに糖分が合まれているので、酵母を加えるだけでアルコールへと発酵させることができます(単発酵)。ところが日本酒やビールの原料は、米や麦などデンプン質です。日本酒では麹(こうじ)、ビールでは麦芽の酵素の働きによりデンプンを糖に分解させてから、その糖を酵母によって発酵させなければなりません。
ビールの場合は、デンプンを糖へと分解する工程(糖化)と、その糖を酵母により発酵させる工程を別々に進行させます(単行複発酵)。日本酒の場合は糖化と発酵を同時に進行させます。それが「並行複発酵」と呼ばれる醸造法で、日本酒が持つ、まろやかで深い味わいを醸し出すもとになっています。
▲「醸造酒」の3つの発酵方式。単発酵酒(ワイン)は果実などの糖分を酵母が発酵する、単行複発酵酒(ビール)はデンプン質を糖化してその糖を酵母が発酵する、並行複発酵酒(日本酒)は糖化と発酵が同じ容器の中で同時進行する。その代表格となるワイン、ビール、日本酒を「三大醸造酒」と呼んでいる
蒸留酒(焼酎・ウィスキー・ブランデー・ウォッカ・ラム・ジンなど)
原料を発酵させた後、蒸留してつくります。蒸留工程では、醸造酒を加熱して蒸発させ、その蒸気を冷やすことで、アルコール分を中心とする成分を液体にして集めます。
混成酒(梅酒・リキュール・べルモット・ペパーミント)
醸造酒や蒸留酒に香料や糖を加えてつくる酒です。リキュール類が代表的です。もともと薬用酒としてつくられてきました。
- 【出典】
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- 栗山一秀 「世界の酒―その種類と醸造法、歴史と本質と効用―」 『アルコールと栄養』 光生館 (1992年)
※本文は著者の了承を得て、敬体の文に変え掲載しています。
- 栗山一秀 「世界の酒―その種類と醸造法、歴史と本質と効用―」 『アルコールと栄養』 光生館 (1992年)
- 【参考・引用文献】
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- 石毛 直道 「酒と飲酒の文化」 『論集 酒と飲酒の文化』 平凡社 (1998年)