ナザリック in オラリオ   作:タクミ( ☆∀☆)

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嵐の前の静けさ

時間は少し遡る────

 

シャルティアに邪魔をされないよう歩き回っていたアルベドだが、完全に撒けた、そう確信し早速行動に出た。

 

「モモ()「ん、あれはベル君か?どうしたんだ、こんなところで?」」

 

アルベドの声に被せるようにベルに気付いたアインズが声をかけた。

 

「やあ、久しぶりだな。戦争遊技(ウォーゲーム)見たよ。すごい活躍じゃないか」

 

「あ、モモンさん。お久しぶりです」

 

「忙しそうだね。邪魔をしたかな?」

 

「あ、いえ。引っ越し作業が少し残ってたんですが、ほとんど終わったところです」

 

「引っ越し?」

 

「この前の騒ぎで前のホームが壊れてしまって。それで神様が試合に勝ったら相手のアポロン・ファミリアのホームをもらうことになってたんです」

 

「そうか、それでは戦勝祝いと引っ越し祝いを兼ねて何かあげないとな」

 

「いえいえいえ、そんな悪いですよ」

 

全力で断りを入れるベルだが、たいしたものじゃない、とモモンはベルにあげるものを考えている。ベルはモモンの『たいしたものではない』という言葉が説得力の無いことは既に知っていた。

 

「そうだ、このナイフなんてどうだ?ちょうど同じものを作ってもらって余っているんだ」

見ると神秘的な輝きのナイフを見せられた。ベルに鑑定する力は無いが、ヘスティアのナイフと同じくらい高価に見える。

「いえ、僕にはこのナイフがあるんで。それにヴェルフっていう僕の仲間の鍛冶師(スミス)が作った武器を使いたいんです」

 

慌てて否定するベルにモモンは残念だと再び考える。

 

「じゃあ、前に渡せなかった無限の背負い袋(インフィニティ・ハブァザック)はどうだ?」

 

「荷物なら自分達で持ちますから。そんな貴重な品を持っていたら心配で冒険なんてできません」

 

ベルの答えにアインズは再び悩む。適当に袋の中を探っていると、一つのゴミアイテムを手に取った。

 

「これは・・・」

 

アインズは金色に輝く顔の大きさくらいの卵を取り出した。

 

「何の卵なんですか?」

 

「ああ、これは【一欠片の希望(ピース・オブ・ウィシュ)】と言って持ち主の想いによって成長する卵だ。まあ、ペットみたいなものだな」

 

ユグドラシル時代に大型アップデートの一つとして追加されたペットシステムより加わったアイテムだが完全にランダムで外装を決めるこのアイテムは誰得?、と運営の頭を疑うゴミアイテムだった。

 

一応、モモンはベルに進めてみた。ベルは相変わらず高価なものはと受け取りを拒否しようとした。

「っっ───!!!」

ベルは異常に鍛えられた直感が働いた。殺気を放つのはモモンの後ろにいるアルベドだ。ヘルムのスリットから極寒の視線を送っている。

ベルは理解した。もしこれ以上長引かせるならただでは済まないと。

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「ん、こんなものがいいのか?」

 

「はい、ありがとうございます。邪魔をして申し訳ありませんでしたあぁぁーーー!」

 

ベルはモモンから卵を受けとると何回もお辞儀してから逃げるように走っていった。モモンは駆け足で去っていくベルの後ろ姿を見ながら何が起こったのか理解できずにいた。

 

「ん?どうした、アルベド?」

「モモン()様、あの男(邪魔者)も行ったことですし、あの公園で落ち着いてお話がしたいのですが」

 

「ん、おぉ、分かった」

 

アルベドに引っ張られながらモモンはベンチに座らされた。

 

(後、少しよ、アルベド!多少の邪魔は入ったけど、この場所で決めてみせるわ。フフッ、シャルティア、あなたは良いライバルだったわ)

 

最初は警戒していたアインズだったが、他愛もない会話でアインズの警戒を徐々に緩めていった。計画通り、心の中で悪魔の笑顔を見せるアルベドは最高の雰囲気ができていることを確信した。

その時、図らずもアルベドの肩に羽虫が止まり、それを見つけたアインズが払い除けると、偶然にも肩を掴む形になった!

 

来たあぁぁーーー!アルベドは心の中で叫んだ。アルベドを見つめるモモンガに思いきり顔を近付けた。

 

ドォォーーンッ!!!!

 

巨大な物体に衝突されたような大きな音が響き渡った。回りの住民はその音がした方を振り向くと、そこには吹き飛んで倒れているモモンの姿があった。

今までフルプレート同士のカップルであるモモンとアルベドはそもそも鎧を脱がない限りキスなどできるはずもない。さらに興奮したアルベドの勢いのついたキスはヘッドバッドと化し、リラックスをしていたモモンを襲った。

 

尻に敷かれてるんだ、回りの住民達はモモンに憐れみの目を送る。アルベドはアワアワとしながらモモンの無事を確かめると、バルディッシュを首にあて自殺しようとする。それを見たモモンは慌てて止めている。

 

病んデレなのか、アルベドの性格を推測し異常(アブノーマル)な夫婦の形を暖かく見守る住人達だった。

 

──────────────

 

 

「何なんだこいつは?」

 

女主の神娼殿(ベーレト・バビリ)イシュタルは自室にてシャルティアの背中を見て疑問を浮かべていた。シャルティアの背中には神聖文字(ヒエログリフ)で書かれたステイタスがどこにも無かった。もちろん(ロック)され他人に見えなくしている訳ではない。素の力でフリュネを殺害したのだ。

 

(ありえん!フリュネはLv.5の上級冒険者だぞ。それが手も足も出なかった。それにこの感覚、ヒューマン(子供)では無い。感じる雰囲気はモンスターに近い)

 

虚ろとしているシャルティアにそっと触れる。触れた手が感じるのは人の温もりではない。そして生者であれば必ずある心臓の鼓動も無かった。神にも予想できない異常事態(イレギュラー)に困惑する。

 

(くそ、ヘルメスは何を隠している。ギルドは、ウラノスは知っているのか?確か、この前の神会(ディナトゥス)でヘルメス・ファミリアの団員が一度にランクアップしていたな。確かその時の一人がシャルティアだ。ということは他にもこんな化け物が居る可能性が高い)

 

「おい、タンムズ!前回の神会(ディナトゥス)でランクアップしたヘルメス・ファミリアの団員を確認しろ!すぐにだ!」

 

イシュタルの従者が慌てて確認に走る。

 

(───ヘルメスがいくら隠そうが私の魅了の前では無力。そして襲ってきたとしてもそいつを魅了すれば済むこと。クックックッ、ツキはどうやら私に向いてるようだね。フレイヤァ、もうすぐお前をそこから引きずり下ろしてやるよ)

 

イシュタルはオラリオの中心にある摩天楼(バベル)を見上げながら、高笑いをしていた。

 

 

───────────────

 

「ウラノス、不味いことになった」

 

ギルドの最奥、祈祷の間にて黒衣を纏う男、フェルズが慌てた様子で隠し通路から現れた。ウラノスは変わらず不動の姿勢を崩さないが、普段とは違うフェルズの様子に重大な問題が起こったことを予想した。

 

「イシュタル・ファミリアがアインズ・ウール・ゴウンの配下の【鮮血姫(ブラッディ・プリンセス)】シャルティアに喧嘩を売っている。その中で、イシュタル・ファミリアの一人が殺されたようだ」

 

そうか、ウラノスは短い返事だったが、フェルズは危惧していたことが起こったのだと感じた。しかし、フェルズはウラノスさえ想像していなかった事態を伝える。

 

「悪いがウラノス、それだけじゃない。イシュタルの手によりシャルティアが魅了された」

 

「何っ!!!」

 

予想していなかった事態にウラノスも動揺の色を隠せなかった。これから起こりうる事態を想像すると、この前のファミリア同士の抗争、戦争遊技(ウォーゲーム)どころでは済まない。最悪の場合オラリオ事態の危機になる。

 

「急いでヘルメスを呼んでくれ」

 

分かった、と答えるとすぐにフェルズは部屋から飛び出ていった。ウラノスはアインズに残された希望(人間性)に賭けるのだった。

 

 





アインズとアルベドのデートの行方が書きたかったので、今回は休み回です。


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