「良いわね、シャルティア。明日のアインズ様とのデートでどちらが正妃に相応しいか決めるわよ」
「良いでありんす。妾の本気を見せてあげるでありんす」
「では決定ね。ルールはこうよ。午前と午後に別れて行動するわ。勝敗はアインズ様とのキスよ!先にキスできた方がアインズ様の正妃ということにしましょう」
「分かったでありんす。ではどちらが最初にアインズ様と過ごすでありんすか?」
「貴女に先を譲るわ」
「良いでありんすか?先に妾がキスしたらアルベドの出番は無いでありんすよ」
「フフッ、私はアインズ様を信じるわ」
シャルティアは昨日のアルベドとの約束を思い出し気合いを入れていた。前日から予行練習をし、いかにキスまで持っていくか練っていた。昨日から一睡もせず手下のヴァンパイア・ブライドを相手にシミュレーションをし準備は万端だ。寝る必要はもともと無いが。イケる、シャルティアは勝利を確信した。
「あ、すいません、モモンさん。私、少し用事を思い出しました。また後で合流しますので失礼します」
わざとらしくアルベドが用事を思い出したと言い、モモンとシャルティアから離れる。計画通りの展開にシャルティアは気合いを入れた。
「───あ、そう言えばこの前モモンさんが依頼した武器ですが完成したみたいです」
去り際に放ったアルベドの言葉にモモンは思い出したかのように了解の手をあげアルベドを見送った。
「シャルティア、それではどこか行きたい所はあるか?」
「あ、いえ、オラリオに詳しくないでありんすから、特には無いでありんす」
「そうか───では少し寄りたい所があるんだ。一緒に来てくれるか?」
シャルティアはアインズに連れられ、ヘファイストス・ファミリアのお店に行った。
「すまない、以前武器の作成を依頼したモモンだが───」
入店したモモンに見覚えのある幼女の女神が近づいてきた。
「やぁ君か。───ん、今日はまた別の娘を連れてるのかい。まったく、あまり良いことじゃないよ。街で女神に声をかけてるのも見たんだ。ハーレムなんて馬鹿なことは考えちゃいけないよ」
相変わらずパンドラズ・アクターの行動に怒りすら感じるが、素直に謝っておいた。
シャルティアはアインズと話す女に目をやると、そこにはうらやま・・・もとい目を見張るほどの双丘がそびえていた。シャルティアは目にも止まらぬ速さでヘスティアの背後に回り込んだ。そしてその小さい手でその双丘を持ち上げる。その行動にアインズは思わず固まり、ヘスティアは大声をあげた。そしてシャルティアに衝撃が走った。
(やはり本物・・・)
シャルティアは自分の胸を見下ろした。そこにはヘスティアには劣るが丘がそびえている。しかし、それは人口造成物だ。シャルティアは崩れ落ちた。
「な、なんだい。この娘は?」
両腕で胸を隠すヘスティアにアインズは平謝りだ。
「まあ、いいけど、それよりヘファイストスが君に会いたいらしいよ」
モモンは気を取り直し、うまくいったことを確信した。前回渡したインゴッドはこの世界に無い材質のものだ。それを渡せばヘファイストス・ファミリアの目に必ず止まる。主神にいきなり会えるとはなかなか良い働きをしてくれたみたいだ。
店舗から執務室へと案内されると、部屋には主神の女神であるヘファイストス、そしてファミリアの団長である【
「あなたがモモンさんですか?」
「ええ、よろしくお願いします。神ヘファイストス」
「これが貴方から預かっていたナイフよ」
サンプルとして渡していたナイフを差し出され、アインズは受け取った。
「それとこちらが貴方から預かっていたインゴッドから作ったナイフよ」
ヘファイストスの手にはサンプルと同様かそれ以上の出来のナイフがあった。
「ありがとうございます。ではお代の方ですが、おいくらになるでしょうか?」
「お金は良いわ。それよりもいくつか質問をしても良いかしら?それが支払いの対価ってことにしてくれない?」
「───答えられる範囲であれば」
「ありがとう、それで良いわ。じゃあ一つ目、これはどこで手に入れたの?」
「とある鉱山で発見しました。場所は教えられません」
「───そう。そのナイフは誰が作ったものなの?」
「私の友人が試作で作ったものです。不要になったので譲り受けました」
「まだ他にもインゴッドはあるのかしら」
「ええ、ありますよ。今回お渡しした物だけじゃなく、他の材質の物も」
「分かったわ。じゃあ、最後の質問よ。良かったら、ウチのファミリアと直接契約してくれないかしら」
「直接契約?」
「ええ、貴方の持ってきたアイテムを私達が鍛え格安で譲る契約のことよ。もちろん鍛冶は上級
「その中には
モモンの強気な態度にヘファイストスと椿の視線が鋭くなる。特に椿は自分では物足りないと言われているようなものだ。
「───ええ、入っているわ」
ヘファイストスの言葉に椿は勿論、ヘスティアも驚く。
「それは光栄です。分かりました、直接契約を結びましょう。幾つか見繕って早速持ってきます」
アインズが礼を言い、部屋から退室すると緊迫した室内の雰囲気が弛緩した。
「まったく、なんなのあの子。本当にヘスティアの言った通りね」
「だろ、絶対ヘルメスのヤツ、何か隠してるに違いないよ」
「まあ、質問には全て正直に答えてたようだけど。───椿、貴女はどう思った?」
「【
Lv.5のヘファイストスファミリア、随一の椿が答える内容に二人の女神も納得した表情だ。
「まあ、直接契約を結べたし、これから少しずつ分かってくるでしょう」
今日はもう疲れたと机の上に置かれた書類を椿に渡し、ヘファイストスは机に顔を伏せるのだった。
────────────
シャルティアはヘファイストスとアインズが喋っている間、話についていけず静かに座っていた。交渉がうまくいき、アインズの機嫌が良かったのでシャルティアは満足していた。今は引き続きアインズが行きたい所があるとのことでオラリオを歩いていた。
隣で歩くモモンとは歩幅が違うため少し早歩きになっている。上機嫌に歩くモモンは気付かず先に行ってしまう。シャルティアは勇気を出してモモンに声をかけた。
「あ、あのモモンさん。その・・・手を握ってもよろしいでありんすか?」
少し後ろにいるシャルティアに気付き、慌ててモモンは手を差し出した。
「すまんな、シャルティア」
シャルティアは感激した。この前のマーレと一緒ではない、間違いなく二人きりで街を歩くデートに。しばらく歩くと目的の場所に着いたようだ。
「すまない、ミアハ様はいらっしゃるだろうか?」
「────いらっしゃい」
アインズの挨拶に抑揚の無い返事が帰ってきた。アインズ達がやって来たのはミアハ・ファミリアのお店『青の薬舗』だった。対応したのはナァーザだ。
「あぁ、貴方はこの前の・・・、ミアハ様ならまたどっかでポーションを配ってるんじゃない」
「そ、そうか。今回、訪ねたのは私と『直接契約』を結んで欲しいと思ったのだが?」
モモンのいきなりの提案に疑問を浮かべるナァーザはとりあえず話を聞いてみた。
「この前買ったポーションが素晴らしかったのでね。直接契約というものを知って、ミアハ・ファミリアと契約を結びたいと思ったんだ」
「それはありがたいけど、私が言うのもなんだけどウチは余り大きくないし、大した物も作れないわよ」
「正直に言うと他のファミリアも考えたが、余り主神が信用できなかった。その点、ミアハ様なら信頼できる」
ナァーザは何かとミアハに対抗してくる神、ディアンケヒトが脳裏に浮かんだ。少し共感を覚える。
「ウチにメリットは?」
「優先的に必要な材料を渡すことを約束する。そして、出来た商品は定価で買い取ろう」
直接契約のメリットである安く買い取ることを放棄する提案にナァーザは驚く。
「貴方のメリットが無い、貴方の要求は?」
「私に優先的に商品を売ってくれるようお願いする。特にマジックポーションだ。それと新たに開発するならマジックポーションを優先的に行うようにしてくれ」
「私達が開発したデュアルポーションじゃなくて?」
「ああ、確かにあれも素晴らしいが魔力を回復することを特化したものがいい」(そもそもポーションを使用するとアンデットはダメージをくらうし)
「分かった、ミアハ様には伝えておく。それと私は直接契約を結んで良いと思ってる」
「ありがとう、ではこれを渡しておいてくれ。これは直接契約の件とは別だ。この前のお礼だと思ってくれればいい。まあ、考える材料になってくれればありがたいがね」
そう言ってアインズはユグドラシル製のポーションを渡した。
「これは?」
「私が知っているポーションさ。だいぶここのポーションとは違うから興味が湧いてね。すまないが製法までは分からない。ぜひ開発の参考にしてくれれば良いんだが」
ナァーザはモモンからポーションを受けとると、じっくりと観察した。容器が明らかに高価な物に入っているが、それ以上に中身は真っ赤な色をしており今まで見たこともない。様々なファミリアでポーションは作られるが、どんな製法でも作られるポーションの色は青色だ。蓋を開け、一滴だけ手にたらし舐めてみた。
ポーション特有の甘味はあるが、今まで感じたことの無いほど高級な味わいがする。そして何よりたった一滴にも関わらず効果を僅かに感じた。
ナァーザはこれが作れればデュアルポーションに次ぐかそれ以上の売れ筋商品になると確信した。
「では良い返事を期待してます」
出ていくモモンにナァーザは親指を立て見送った。
その後帰ったミアハにナァーザは契約を結ぶよう強要し、モモンとミアハ・ファミリアは正式に直接契約を結べた。
「さて、これで私の行きたい所は全て行ったがシャルティアはどうだ?」
「あの・・・それでは少し疲れたので、先程通った所にある宿で休みたいです」
露骨なシャルティアにアインズが戸惑うと、モモンを呼ぶ声が聞こえた。
「モモンさ~~~~ん、すみません。遅くなりました」
アルベドだ。シャルティアは愕然とした。なぜアルベドがもう来るのだと。そして慌てて時計を見た。針は丁度十二時を指している。
シャルティアは気付いた。なぜアルベドが先を譲ったのか。アルベドはヘファイストスの所へ行くように誘導していた。アインズはそれに従い時間を過ごし、さらに別の所に行き二人で過ごす時間など無かった。一方、アルベドはアインズの用事が済み後はフリーだ。
この大口ゴリラァアアァ・・・、シャルティアの視線がアルベドに突き刺さる。しかし、アルベドは全身鎧のスリットの中から勝ち誇ったような視線を送った。
「モモンさん、シャルティアは少し疲れたようですね。少し休ませてあげましょう。───ああ、そうだ、私、少し行きたいところがあるのです。付き合っていただけませんか?」
「──ンッ!!!」
シャルティアは自ら休みたいと言ったこと、さらにアルベドとの約束によりこれ以上居れば負けを認めることになる。
「も、申し訳無いでありんす、モモンさん。妾はこれで失礼するでありんす」
了承を得たシャルティアはアルベドの背中を姿が見えなくなるまで睨み続けていた。
(フッフッフッ、妾が簡単に諦めると思ったら大間違いでありんす。徹底的に雰囲気をぶち壊してやるでありんす)
シャルティアはアルベドにバレない程度に慣れない尾行をしていた。
(フッ、シャルティア。貴女がこの程度で諦めないことは折り込み済みよ)
アルベドはシャルティアの行動を予測していたかのように細かい路地に入っていった。慣れない尾行に手間取るが、そこは持ち前の潜在能力によりなんとかついていけた。
「アッ、お前は!」
そんなシャルティアに声をかける女達が現れた。シャルティア自身は忘れているが、以前シャルティアがダンジョンで素っ裸にした
「今度は負けないよ」
「よくも恥をかかせてくれたね」
シャルティアが知らず知らず来たのはイシュタル・ファミリアのホームがあるオラリオの歓楽街だった。もちろんアルベドの策の一つである。
「妾は今、忙しいでありんす。お主達と遊んでいる暇は無いでありんす」
そして歓楽街に嬌声が響き渡った。