「静かにせよ!」
アインズの一声に守護者達は一斉に静かになる。しかし、グスッと鼻をすする音だけが静寂な空間に響いた。その音の主はシャルティアだ。いや、アルベドも泣いていた。
きっかけはアルベドがシャルティアにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを見せつけたことだった。ただでさえシャルティアはアルベドの二つ名に散々文句を言っていた。なんとかアインズがなだめ、おさめた経緯があった。そんなところにシャルティアを挑発するように指輪を見せ、妻だ義母だとのたまった。
シャルティアは暴れた。泣きながらアルベドに飛び付き、リングを奪おうとした。回りの守護者達も流石にこれ以上は不味いと二人を抑える。二人を止めたのはやはりアインズだった。
「何をしているのだ!?」
二人の言い分を聞き、沙汰が下りた。アルベドの指輪はしばらく没収することになった。これにはアルベドも泣きながら慈悲を求めた。しかしアインズは認めずアルベドは泣き崩れた。そしてシャルティアも任務終了後に謹慎が言い渡されることになった。
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二人の泣き声が響く気不味い会議の中、一人だけ笑みを浮かべる男がいた。デミウルゴスだ。
「デミウルゴス、すまないな。ではさっそく報告を聞かせてくれ」
「はっ、アインズ様。黒竜の居場所についてですが居場所は特定できておりません。しかし、居場所を見つける手掛りはございます」
今までアインズ様の役に立つ機会が少なかったデミウルゴスはここぞとばかりに興奮した様子でプレゼンをしていた。
デミウルゴスはアインズ達がダンジョン攻略をしている間、アインズから許可を貰いオラリオだけでなく世界の情報を手に入れていた。デミウルゴスの得た情報は国家の勢力、貴族が破滅するような情報やファミリアが隠す不正、女神の借金まで様々なことを手に入れていた。
「さすがはデミウルゴスだな。よくやってくれた。なにか褒美をしなければな」
「いえ、そんなもったいなき御言葉。主に仕えるのは家臣の役目です」
「そう言うな、信賞必罰は組織には必要だ。何でもいいぞ」
しばらく考えた後、デミウルゴスは欲しい褒美を答えた。
「では、アインズ様より二つ名を決めていただければ幸いです」
守護者達に衝撃が走った。その手があったかと。冒険者では無いコキュートスはもちろん、既に二つ名がある守護者達もアインズ様が直接決める二つ名など垂涎物だ。
「そんなもので良いのか?」
「もちろんでございます。アインズ様に二つ名をつけていただけるなど光栄の極み。何物にも代えがたい栄誉です」
「ではデミウルゴスの二つ名は考えておくとしよう。それで黒竜の情報はどんなものがある?」
「はい、黒竜がダンジョンから地上に進出し多くの場所で被害を出している情報を掴んでおります。数年前にも村が壊滅し、ほぼ全ての人間が死んだようです。特定の棲みかがあるわけでなく、定期的に棲みかを変えていると考えられます。ですが、オラリオの北側にある村に時折、『竜の鱗』というものを持った人間が現れるそうです」
「ふむ、竜の鱗か・・・、世界中を歩き回るよりは行く価値がありそうだな。では案内を頼む」
「アインズ様、私モゼヒオ供ニオ連レ下サイ」
ナザリックの防衛を任されているとはいえ、他の守護者達より目立つ活躍ができなかったコキュートスはいつにもまして主張した。
アインズはコキュートスの気持ちもよく分かるが、まだ相手を見つけたわけではない。あまり目立つ行動は控えるためにも許可するわけにはいかなかった。
「すまんな、コキュートス。お前にはナザリックの防衛を任せたい」
コキュートスの表情は分かりにくいが明らかに落ち込んでいるのが分かった。
「しかし、もし黒竜と戦うときは私の手助けを頼むぞ」
「オ任セ下サイ!」と力強く答える姿にアインズも満足げだ。
「では、デミウルゴス、シャルティア、マーレ。私と共に北の村に赴くぞ。その間、アルベドを中心にナザリックの防衛を厳にせよ。パンドラズ・アクター、お前はモモンとしてダンジョン探索を任せる。メンバーはお前の好きに決めよ。ただし、中層以下に行くことは許さん。モモンの存在をアピールする程度で構わん。決して無理をするな。では各自、行動を開始せよ」
「「「ハッ!!!」」」
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アインズ達は竜の鱗を持った者が現れるという町に来ていた。
「アインズ様、お手を握ってもよろしいでありんすか?」
アインズはシャルティアの突然の発言に警戒するが、シャルティアは微塵も後ろめたいことがないかのように天使の笑顔を見せている。流石のアインズも断りきれず了承した。
ニヤリ、シャルティアはアインズが見えないところでほくそ笑んだ。シャルティアは今回の旅に賭けていた。これ以上アルベドのリードを許す訳にはいかないと。
「ん、どうしたマーレ?」
もじもじと何かを言いたげなマーレに気付きアインズが尋ねると、マーレがアインズとシャルティアの手を見ていることに気付いた。
「なんだマーレ、手を繋ぎたいなら言えば良いぞ。遠慮する必要はない」
アインズはシャルティアの手を握っている反対側の手を差し出しマーレの手を握った。嬉しそうなマーレとは対称的にシャルティアはマーレを睨み付けている。デートを想像するシャルティアの思いとは裏腹に、アインズ達を見た村人は子供を連れて歩いているようにしか見えなかった。
デミウルゴスの情報によりオラリオの北にある町を
もちろん、シャルティアには難しいため、アインズ自ら話を聞いて回った。
どうやら『竜の鱗』を持つ者は定期的にやってくるらしく、山菜や民芸品を売ったお金で薬や食糧、農具などを買いに来ているらしい。さらにほぼ決まった人物が買いに来ていたらしいが、最近別の者に代わったとのことだった。
「さて、ある程度情報は手に入れた。どうやら目的の人物はこのベオル山地に居るようだな」
アインズが見る方向には険しい山々がそびえ立ち、道はあるがまともに舗装されていない。この道を通る人物など見る限り誰もいなかった。
「わざわざ住むほど価値のある場所には見えんがな。まあいい、【下位アンデット創造】
アインズは上空から発見するためにモンスターを召喚した。
「あ、あの、アインズ様。僕達が飛んで探しに行かないのですか?」
「そうだな、マーレ。確かに我々が上空から探した方が早い。ただし、相手の方が先に見つかる可能性の方が高い。迂闊に魔法や転移を使用するのも危険だ。今回の敵がユグドラシルに関係している以上、細心の注意をするべきだぞ」
アインズの話を聞き、理解できたのか元気よく返事をした。しばらくアインズ達が道なりに歩いていくと、先程召喚した監視用のアンデットから反応があった。しかし、しばらくしてアンデッドの反応が途切れてしまった。
「なんだと!」
突然声を荒らげたアインズにNPC達は驚いた。
(さっそく反応があるとは運がいいな)
「先程召喚したモンスターが消滅した。普通の人間程度で倒せるモンスターではない。注意して前進せよ」
アインズの号令と共に守護者達は召喚したモンスターが消滅した場所へ警戒しながら進んでいった。そこにいたのはハーピィの群れだった。半人半鳥、女面鳥体のモンスターだ。半人と言っても顔は見るのもおぞましい醜い顔をしており、とても人と呼べるものでは無いが。
アインズは気づいた。召喚したモンスターを襲ったのはこいつらだと。今更、自分の失態に気付いたアインズはどうNPC達に伝えれば良いか悩んだ。その間にもシャルティア達は愚かにも襲ってくるハーピィを何の苦労もなく葬り去っていった。
(そ、そうだ、私でも失敗するというメッセージにすればよいのだ。そうすれば、これからもう少し相談がしやすくなるかもしれん。───いや、それでは守護者達が想像するイメージが崩れてしまうかもしれん。どうすれば・・・)
異世界転移してから悩み続けている命題に陥るが、デミウルゴスの一言で解決された。
「アインズ様、我々のことを気遣って頂きにありがとうございます」
「「えっ!?」」
それに驚いたのはシャルティアとアインズだ。デミウルゴスはシャルティアに分かるように丁寧に説明した。
「シャルティア、君はここに来るまで少し注意が散漫じゃなかったかい?それはもちろんマーレもだ」
デミウルゴスの言葉にシャルティアとマーレがここまでの行動を振り返り頷いた。それを確認するとデミウルゴスは再び説明を始めた。
「アインズ様はわざわざあのような攻撃力もないモンスターを召喚し、野生のモンスターに襲わせたんだよ」
デミウルゴスの発言に理解ができず二人は疑問を浮かべている。
「もしこのまま黒竜と遭遇してしまった場合、相手を弱いと決めつけて隙を見せることになるだろう。そうなればアインズ様はどうなる?」
デミウルゴスの質問にシャルティアとマーレは顔が引き締まった。
「そう、アインズ様は私たちを信頼していただいて少数精鋭で来たんだ。アインズ様に危害が加わる様なことは万が一にも許されない。それを教えて頂いたのです」
デミウルゴスの話にシャルティアとマーレは頭を深く下げ謝罪した。
「い、いや、分かってくれれば良いんだ」
しばらく歩くと特に何事もなくエダスの町に着いた。
キャラクターの考えを想像しながら書くのは難しいですな(ーー;)
さて、これからどうするか・・・