アインズはウラノスとの会談を終え、隻眼の竜・黒竜を倒すために作戦を考えていた。しかし、早々に問題にぶち当たった。アインズが討伐に行っている間、モモンをどうするかだ。答えは出ている。アイツをモモンの代わりにすればいい。ただ、まだこの世界に来て一度も会っていなかった。
「はぁ」
肺がないためため息のしようがないが、人間だった頃の残滓のせいか思わずついてしまう。アインズは覚悟を決め立ち上がった。
「アルベド、ついてきてくれ。宝物殿に行く」
「宝物殿ですか?」
「ああ、パンドラズ・アクターに会いに行く」
ついにこの時が来たとアルベドは身を構えた。
「パンドラズ・アクターといえばアインズ様が御自ら創造された
「知っているのか?」
「はい。会ったことはありませんが、守護者統括という立場上、全てのNPCは把握しております。宝物殿の管理者として、ナザリックの財政面での責任者であり、私たちと同様の強さと頭脳を持ったアインズ樣が創造された唯一のNPCだと存じています」
アルベドはモモンガが直接創造したパンドラズ・アクターに嫉妬していた。愛する者に創造される、すなわち被造物主のことを考えその全てを知るということ。羨ましすぎる状況に怒りすら込み上げる。
しかし、今は違う。モモンガ様とは自他共に認める夫婦となったのだ。パンドラズ・アクターはモモンガ様の子、つまり私の子でもあるのだ。子に嫉妬する親などいない。アルベドは広い心でパンドラズ・アクターを受け入れることにした。
つまり今日は初めて家族揃って団欒をとるということだ。何事も第一印象は重要である。しっかりと母親として認めて貰えるよう身なりを整えた。
「そうか会うのは初めてか」
「はい、宝物殿に行く許可も手段も持ち合わせておりませんので」
「確かにそうだったな、すまないな。確かにアルベドには早くこれを渡すべきだったな」
そう言うとアインズは
アルベドは超位魔法【
「【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】だ。これがあればナザリック内の特定の箇所以外なら回数制限なく転位出来るぞ」
アインズはアルベドに指輪の効果を説明するが、感動に内震えるアルベドは全く耳に入ってこなかった。
その様子にアインズは戸惑ったがアルベドが嬉しそうなのであえて口にはしなかった。
「さてそろそろパンドラズ・アクターに会いに行くか」
「くふー、ゴホン。はい、アインズ様。────あの、二人きりの時は『あなた』の方がよろしいでしょうか?それとも『お父さん』の方がよろしいでしょうか?」
アルベドの突飛な発言に固まるアインズだが、しばらくフリーズした後、アインズと呼ぶように頼んだ。それはそれでアルベドは凄く嬉しそうだった。
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リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで宝物殿に転移したアインズとアルベドは無造作に山積みにされた金貨の山の前に来た。ここにある金貨だけでもジャガ丸くんを無限に食い続けることができる量だが、ナザリックの秘宝はさらにこの奥にある。アインズは一面黒い壁の前にやって来た。
「えーとっ、解錠方法はなんだったかな?───アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」
アインズの言葉に黒い壁に文字が浮かんだ。
「たしか、かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、・・・暗き者は全て、汝より離れ去るだろう、だったか?」
アインズのうろ覚えの合言葉だったが、正しかったのか黒い壁が消滅しさらに奥へと進める通路が出現した。
「この先が目的地の霊廟になる」
「霊廟ですか?」
アルベドには『同じお墓に入ろうね』と言われてるようにしか聞こえなかった。例えプロポーズの言葉でも愛するモモンガ樣が死ぬことなど想像したくない。しかし、あくまで例えであることは明確だ。ここは妻として諌めるべきか『はい、喜んで』と答えるべきか悩んでいた。
そんなアルベドを無視してアインズは目的の場所に着いた。
そこには人の体に蛸のような生物が頭部のついた歪な生物が居た。その姿を見たアルベドは思わず目を見開いた。
「タブラ・スマラグディナ樣!?───いや、違う。いくら姿形を似せても創造主までは間違えたりしない。お前は誰だ?」
「もうよいパンドラズ・アクターよ、元に戻れ」
アルベドがアインズを守ろうと全力で警戒しているのをよそに、アインズは声をかけた。
すると姿がみるみる変わり、ピンクの卵のような頭にドイツの軍服を着たドッペルゲンガーが姿を現した。
「ようこそおいで下さいました。私の造物主たるモモンガ様!」
つるんとした頭に目と口の部分だけ穴の開いた顔に似合わず、敬礼を決める姿はなかなかのギャップを感じる。
「ところで今日はどうされたのでしょうか?」
「少しお前に手伝ってもらいたい、それと
「ワ~~ルドアイテム!!至高の御方々の証。ついにそれを使うときが来たと?」
パンドラズ・アクターの一挙手一投足にアインズの精神が削られていく。
「後で必要な時と物を選出する。それと、私は名前を変えた。これからはアインズ。アインズ・ウール・ゴウンと呼べ」
「承りました。我が創造主、ん~~~アインズ様!」
いちいちポーズを決めるパンドラズ・アクターにアルベドは思わず顔をしかめた。
(頭がおかしいのかしら?・・・はっ、いけないわ!母として子の個性を尊重しないと。モモンガ様が創造されたのですもの、きっと何か特別な意味があるのだわ。モモンガ様も子供に会えて嬉しくて震えてるもの)
「おい、ちょっとこっちに来い」
モモンガはたまらずパンドラズ・アクターを呼び寄せた。
「その服は格好いいからいいとして、敬礼はやめないか?」
アインズの迫力にさすがのパンドラズ・アクターも圧倒される。
「
「ドイツ語だったか?それも止めような」
また一つパンドラズ・アクターのアイデンティティーが消えかけようとした時、救世主が現れた。
「アインズ樣、よろしいでしょうか?私はパンドラズ・アクターの個性は素敵だと思いますよ」
アインズはその言葉に戸惑いを浮かべた。横から口を挟むアルベドにパンドラズ・アクターは尋ねた。
「そちらのお嬢様は?」
お嬢様扱いされたことにアルベドは少し怒りを覚えたが、我慢し自己紹介をした。
「私は守護者統括アルベドです。そしてアインズ様の妻であり、あなたの
アルベドの衝撃発言に二人は固まっていた。
「驚かせてごめんなさい。でもこれは事実なの。私の二つ名は【
「アインズ様、事実なのですか?」
「確かにそうだ
アインズが続きを言おうとしたが、感動に内震えたパンドラズ・アクターにかき消された。
「えーと、今のは何て言ったのかしら?」
わざとらしく口に手を当て左手薬指の指輪を強調する。
「おぉ、これは失礼しました。『ご結婚おめでとうございます』と言わせていただきました、
「クフーーーーー!」
アルベドの奇声が宝物殿に高く響いた。