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【埼玉】

<あなたは悪くない 性暴力に苦しむ人へ> (番外編)「出来心」家族も苦悩

女性が毎日メモしてきた、娘の不安な言動や口にできた食べ物の記録

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 女性の地位向上を訴える「国際女性デー」の8日、各地で性暴力根絶を願うフラワーデモが開かれる。2月の本紙連載「あなたは悪くない 性暴力に苦しむ人へ」でも、性暴力に遭った女性3人が言葉を紡いだ。読者からは共感や応援のほか、「朝から読みたくない」といった不快感を訴える声まで、さまざまな感想が寄せられた。関東地方に住む70代の女性は、幼少時の性暴力が原因で30年近く自宅に伏せる娘の将来を案じているという。出口の見えない家族の苦悩とは-。

 小学生だった娘がある日突然、過呼吸になったんです。「気持ち悪い」って、食欲不振も始まって。アイスや果物しか食べられなくなってしまった。そのことで学校でいじめられ、次第に行かなくなりました。

 夫は学校に行かないことを、わがままだと思っていたみたい。今でこそ「不登校」って言うけれど、当時は「登校拒否」だと思っていた。私も子どもが心を病むなんて思いもしないから、行くように説得したんです。一つ一つ乗り越えさせないと強い子になれないって。

 性暴力が原因だったと知ったのは、大人になってから。具体的には言わないけれど、親戚の男からわいせつなことをされたって。私もそれ以上は聞いちゃだめかなと思って、聞けていません。すごく怒りが込み上げてきて、飛んでいって首根っこつかんで「何したの」って言ってやりたかった。もっと早く気づいていれば、娘を抱き締めてあげられたのに。

 夫に相談したら、「おっぱいを後ろから触られたくらいだろ」って言うんです。分からないんですかね、何十年たっても続く苦しみが。本人は言わないけど、小学校の頃に病院でつらいことがあったみたいで精神科に行きたがらず、カウンセリングを受ける機会も逃してしまった。

 四十代になった娘は今も家から一歩も出られず、幻聴や不安感にさいなまれています。「死にたい」と口にすることもあるし、実際に包丁で自殺しようとして、家族で必死に止めたこともあります。よく警察沙汰にならずにこれまで暮らしてきたなと。

 私も体が重くて、朝起きられない時があってね。幸い不登校の親同士が集まる会で、悩みを聞いてもらえる仲間がいることが大きかった。でも、そのメンバーも年をとって、一人、また一人と来なくなる。私もいつまで通えるか…。

 娘は病院に通ってないから、障害年金ももらえない。この先の生活をどうしたらいいんだろう。あの頃は「死なないで」とばかり思ってたけど、今は「あの子を見送らなきゃ死ねない」って、変なこと考えちゃう。「私の人生、何だったんだろう」とかね。加害者のほんの出来心が三十年たってもトラウマ(心的外傷)で苦しませるんだと、分かってほしいですね。

◆偏見が2次被害に

 県内で昨年12月に初めて開かれたフラワーデモ。勇気を振り絞り、花を手にした当事者が自らの性被害を語りつなぐ中、こんな声が聞こえたという。「レイプがなんだ」。通り掛かった男性が叫んだらしい。

 人前で話せたからといって、苦しみから抜け出せたわけではない。精神科でもらう薬をいつもより増やし、震える手でマイクを握った人もいた。

 被害を明かしたことで傷つけられる「セカンドレイプ(2次被害)」は、性被害への理解不足や偏見から生まれる。ある女性は、思い切って電話した相談員から「いつまでも被害者意識を持たないで」と言われたという。

 連載では「なぜ取り上げるのか」という声も寄せられた。でも、苦しみからはい上がろうとする力を奪う周囲の偏見は、今も根強い。まずは目を背けたくなる現実を知ることが、性暴力に「NO」と言える社会を目指す一歩になると考えた。 (浅野有紀)

 

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