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サタケ君の結婚
作者:麓惜

僕にはサタケ君という後輩がいる。彼はド天然、超ピュアなのだが、それゆえ空気を読まない発言をすることが多々ある。記憶に新しいところだと、この前、ボウリングに行った時に僕の同期の女性社員が

「このハンカチいいでしょ、シルクなの」

と言ったところ、サタケ君は

「でもシルクって蚕の唾液ですよね」

と言ってしまった次第である。この後は無論お通夜ムードで、そんな中彼は

「先輩、見てください!ストライクですよ、ストライク!」

と一人はしゃいでいたのである。その前に君が何をストライクさせたのか考えてほしい…


そんなサタケ君であったが、ある日、僕にこう言ってきた。

「先輩、僕、結婚するんですよね」

へ、は?としか言えなかった。本当に突然、あのサタケ君からそんなことを言われてしまった。

「え、あぁ、お、おめでとう…」

とデクレッシェンドをかけて中身のない返事をした。

「んで、式はハワイです!」

何事だ。あのサタケ君が海外挙式なのか。それともサタケ家には新婚旅行を式という風習でもあるのか。どこの民族だ。

「ハワっ、ハワ、ハワイ??」

それはもうハワイという単語を初めて聞いた人間そのものであった。この単語を存分に噛み締めた後、僕は「それは結婚式をハワイで挙げるってことだよね…?」

と、恐る恐る確認した。

「はい!」

それはそれはサタケ史に残る勢いのある素晴らしい返事だった。

「……で、式はいつだい?」

「1年後です!!」

理解が追いつかない。一つだけわかったのは、一年待ちの結婚式場は実在するということだ。異国の地、つまりハワイに。

この出来事はちょっとした社内ニュースになり、サタケ君にはめでたく、『一年待ちのサタケ』、『一年待つ男』の異名がついた。


あれから一年後、つまり挙式の日、僕はハワイの地を生まれて初めて踏んだ。そんなことで感動する間も無く、式に出た。

サタケ君の結婚相手の話は一切聞いていない。怖くて聞けないのだ。あのS級天然記念物と噛み合う人間なんているのだろうか、なんて考えると或いは結婚詐欺かとも思ってしまった。

「新郎新婦の、入場です!」

と日本語でアナウンスが入ると、白い晴れ着に包まれた美しい女性と、いつものサタケ君がそこにいた。二人とも照れ笑いをしている。


そこからは淡々と式が進み、なんだかんだで次の日にはいつものジャパンの地を踏んでいた。

本当に愛し合っていそうだったし、お互いデレデレしてたし、サタケ君はケーキカットの時に

「いや僕こんなに長くて危ない武器持てないっす…」

と若干躊躇していた。僕はあの包丁の正式名称を知らないが、少なくともあれを武器と表現したのはウチの会社では彼が初めてだろう。


というわけで、サタケ君の結婚式は無事に終わった。因みに、お相手の美女とのその後は本人曰く

「3分の2円満です」

とのことで、そういう意味でも無事だったようだ。めでたしめでたし

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