「え、このお酒が12万ヴァリスもするの?」
モモンは立ち寄ったお店で並べてあったお酒の価格に驚愕し、店主に聞いてみた。
「ええ、何て言っても神酒《ソーマ》ですからね。今じゃ何をやったのかギルドから酒作りを禁止されて、内にあるのもそれだけなんですよ。それでも欲しい人なんて五万といるでしょうけど」
(酒作りが趣味の神か?本当にいろいろいるんだな。それにしても酒で12万って高すぎだろ。)
鈴木悟の時に数度、アルコールを飲む機会はあったが自分から飲みたいと思わなかったし、そんなお金を掛けるくらいならユグドラシルに注ぎ込んでいたアインズにとってソーマの価値はよく分からなかった。
「私には手が届きそうにないですね、また今度にします」
モモンは当たり障りの無いことを言うと店を後にした。
(さてあと残るは・・・)
モモンが次の行き先を考えていると、アルベドに声を掛ける男が現れた。
「そなたは冒険者かな?怪我をするといけない。私が作ったポーションだ。ぜひ使ってくれ」
爽やかな美青年が心配をしてくれれば普通の女性なら高い好感を得るだろう。しかし、今回は相手が悪かった。
「下等生物風情が邪魔をするなぁぁあぁーーー!!!」
ヒステリックに声を荒らげるアルベドにモモンと声をかけた男は驚いた。モモンは男を見るとその整った容姿とセバスからの報告からその男が神だと理解した。
「お、落ち着け、アルベドよ。申し訳ありません。彼女は少し冒険の疲れで興奮しているみたいです」
「そうか。それはいかんな。ぜひこれを役立ててくれ」
そう言ってアルベドに渡しそびれたポーションをモモンに渡した。
「ありがとうございます。あのお代ですが」
「いや、それには及ばない。将来のお得意様になるかもしれない者に顔を売ると言うやつだ。こちらにも利があるんだ、気にしないでくれ。初めて見る顔だと思うが、紹介させてくれ、私はミアハファミリアの主神、ミアハと言うものだ。これからよろしく頼むよ。」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。実は今オラリオの街を回っていて、これからミアハ様のお店に行くところだったんです」
「そうなのか?それはありがたい。ではこちらだ、案内しよう」
そう言ってミアハはモモン達を先導した。モモンは快く受け入れるが、アルベドは二人きりの時間を邪魔されたことにミアハに殺意を抱いていた。
「...いらっしゃいませ」
ミアハの店「青の薬舗」に入ると戸棚を整理していた
「ナァーザ、お客さまが来られたんだ。もう少し歓迎の気持ちを出せないのかい?」
ナァーザと呼ばれた女性はモモンの後から入ってきたミアハの姿に驚いたように、眠たげで半開きだった
「これはミアハ様、まさか誰彼構わずポーションをタダで配り歩く以外にお客さまを連れてくることがあるのですね」
棘のあるナァーザの口調にバツが悪そうなミアハをしている。
「あの、そろそろ商品の方を見せていただいても良いですか?」
気不味い雰囲気を変えるためモモンは話をふった。
「ああ、すまない。これがポーションにハイポーション、こっちはマジック・ポーションだ。それとこれは新商品で目玉のデュアル・ポーションだ」
(やはり同じポーションでもユグドラシルとは違うな。サンプルとして幾つか買っていくか)
「では各ポーションを五本ずつ貰えますか」
「そんなにも買ってくれるのかい。ではサービスさせてもらうよ。」
性懲りもなく割引をしようとするミアハにナァーザはじっとミアハを見据えている。その視線を察したモモンは助け船を出した。
「いえ、これ以上は申し訳ないです。先程の件もありますしね。今回は払わせて下さい」
「ぅむ、そうか」
渋るミアハだが取引は公正にしたいアインズは袋からお金を取り出すとナァーザに渡した。不自然に左手で受け取ろうとするが、アインズはナァーザの右腕が義手であることに気付いた。彼女の過去を推測し、あえて口にはしなかった。
「また来させてもらいますよ。」
モモンは店をあとにしながら今後の計画を練っていく。
(ユグドラシルのポーションを製造できれば良い差別化ができるのではないか?欠損した一部などの治療などもできれば良いがあまり目立ち過ぎるのもいかんな。今後の検討課題にあげておくか)
「そろそろ帰るか、アルベド」
「あ、あのモモン
少し考えたアインズだったが、アルベドを信じて手を差し出した。
ガシッ!
お互いに手甲をしていため金属が接触し合う音が響く。互いの温りも何も感じないがアルベドは今日の目標を達成し感極まっていた。
「ふぇえぇん~~」
「ど、どうした、アルベド?」
突然泣き出したアルベドにアインズは戸惑った。そのような経験値が無いためどうしていいか分からず、ただ手を握ったままアルベドの頭をポンポンとなだめた。
「落ち着いたか?」
「はい、申し訳ありませんでした」
「何、気にするな。アルベドには日頃世話になっているからな。これからもよろしく頼むぞ」
二人が帰る前に広場まで手を繋ぎながら歩いていると、前方からヘルメスの姿が見えた。ヘルメスも二人の姿を見つけニヤニヤしだした。
慌ててアインズは手を離す。
「やあ、お二人さん。熱々だね。流石は夫婦って感じだよ。ただ、手を離しちゃ可愛そうじゃないかい?」
そう言ってアルベドの方に目をやる。アルベドもヘルメスに同意しているように手をモモンに出した。
モモンは恥ずかしがりながら再び手を繋ぐ。ヘルメスも意味深に頷いている。
「ところで話は変わるんだけど、緊急のクエストが入ってね。できれば手伝ってもらえると助かるんだけど」
「クエストですか?」
「あぁ、内容は冒険者の救出だ。」
「それは構いませんが、その冒険者というのは誰ですか?」
「ヘスティアファミリアのベル・クラネル、また同じパーティのリリルカ・アーデ、ヴェルフ・クロッゾの三名だ」
アインズはベルの名に軽く衝撃を受けた。詳細を聞くためヘルメスに詰め寄る。
「ベル君が帰ってきていないのですか?」
「知り合いかい?残念ながらそうらしい。昨日、中層に初探索に向かってから戻ってきていないんだ。僕たちはこれから中層に潜れる実力のある冒険者を集めて今日の夜にでも潜る予定だ。君はどうする?」
「私たちはこれからすぐに向かいます。悪いが、あまり手の内を晒したくないのもあるが、足手まといは要らない」
「そうか、すまないが頼むよ」
ヘルメスが二人の後を去ったあと、アルベドがアインズに質問をした。
「恐れながら申し上げます。わざわざアインズ様が助ける価値があるのでしょうか?」
アインズはしばらく考えながら自分自身を納得させるように語った。
「なぜ、助けるのだろうな。困っているものがいたら助けるのは当たり前、というだけなのか。いや、・・・あの子には何か期待したいものがあるのかもしれんな」
アインズはそう呟くとベル達を見つけるべくパーティの編成を考えた。アルベドはモモンに呼ばれるまで握っていた手を見つめ続けた。
書いててニヤニヤが止まらない(///∇///)