温暖化対策目標引き上げの期限とされた二月を過ぎた。日本政府は提出すら見送った。日本の現行目標は、あまりに低い。異常気象は激化の一途をたどる。今のままでは気候危機を克服できない。
二〇一五年に採択されたパリ協定は、参加する国それぞれが対策目標を立て、互いにその進捗(しんちょく)状況を評価し合いながら、五年ごとに見直す仕組みになっている。
現行の目標水準は皆低く、速やかに引き上げていかないと「気候危機」を逃れることができないというのが、大前提だ。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は一八年、今のまま温暖化が進行すれば、早ければ三〇年にも、世界の平均気温の上昇が産業革命以前から一・五度に達する恐れがあり、人の健康や食料供給、経済成長などに多大な影響が出るとの警告を発した。
今や「一・五度」は、気候危機回避の目安であり、三〇年がその期限とみられている。ところが、今提示されている目標がすべて達成されたとしても、気温は三度上昇してしまい、何が起きるかわからない。
世界五位の温室効果ガス排出国である日本の現行目標は一三年度比26%削減。それすら、排出量の多かった一三年度を基準年にした数字であり、「一九九〇年比40%削減」という欧州連合(EU)の基準年に合わせると、18%にすぎず、そもそも世界から「低すぎる」との批判を浴びてきた。
日本政府は現行目標のまま、再提出するはずだったが、提出自体を見送った。大量排出源の石炭火力にこだわるからだ。「原発再稼働ができないから」とも言うものの、福島の現状を見、世論に耳を傾ければ、言い訳にはできない。
二月までに目標を再提出した国は少ない。だが百を超える国々が見直しを表明している。EUは、55%に引き上げるための法整備を進めている。
日本の場合、法律どころか、目標見直しの議論の道筋すら見えてこない。今からでも遅くはない。十一月に開かれる気候変動枠組み条約第二十六回締約国会議(COP26)をめどに、目標引き上げへの工程表をまずつくるべきである。
一・五度目標の達成には「五〇年時点で二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」のシナリオが必要だ。容易ではない。しかし、この現実を直視しなければ、世界的な気候危機への取り組みに背を向ける国になる。
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