新型コロナウイルスが拡大する中、政府がマスク転売禁止を決めた。法に基づく措置で高額転売防止に強い効果が期待できる。ただ一月には顕在化した問題で、対応の鈍さも指摘せざるを得ない。
転売禁止は国民生活安定緊急措置法の規定を適用して実施する。同法は第一次石油ショックが起きた一九七三年に制定された。当時頻発したトイレットペーパーや洗剤などの買い占めに対処するのが制定の理由だった。
今回は同法に基づきネット上などでのマスク転売を禁止する。さらに従わない場合、罰則を科す方向性も打ち出している。
マスク不足は医療機関や介護施設のほか高齢者を介護している家庭などでも深刻化している。マスク着用は患者や高齢者らへの感染を防ぐ意味で必要不可欠だ。いずれも命に関わるケースであり、思い切った転売禁止は一定の評価ができる措置だ。
ただマスク不足については、新型コロナが確認された早い段階から、供給難を指摘する声が相次いでいた。マスクは大半が中国からの輸入に頼っており、在庫不足は簡単に予測がついたはずだ。政府は三月に入ってようやく本格対処した形で、後手に回ったとの印象は避けられない。
また転売の大半はネットで行われたが異常な高額での出品が目立っていた。ネットを運営する事業者側の認識も甘いと指摘したい。
政府の方針発表後、ネット上でため込んだマスクをはき出そうと駆け込み転売が増えている。一箱六十枚入りのマスクをネットで買い、それをほぼ同額で売ろうとしていたコンビニ店もあった。さらにマスクを盗んで売ろうとしたケースまで出た。
マスク不足で困窮を極めている人々がいる中、なぜこのような行為ができるのか。高額転売をした人には猛省を促すとともに、二度としないよう強く求めたい。
一方、法の適用には課題もあることを指摘したい。物品の転売は一定のルールを守れば違法ではない。確かに感染症拡大時の医療関連物資の高額転売は論外だ。だが医療関連の転売であっても、通常時にはどこまで法の網をかぶせるべきか細目を詰める必要がある。
さらに医療品以外の転売まで敵視するような風潮が広まる可能性も否定できない。経済行為としての転売を改めてどう規定するか、事態の収束後深く議論する必要があるだろう。
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