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 放送法に反する疑いがもたれるうえ、説明を変転させ、真相の全容を明かそうとしない。これでは、公共放送の経営トップとしての資質に欠けるというほかない。

 NHK経営委員長に就いて2カ月余りの森下俊三(もりしたしゅんぞう)氏である。かんぽ生命不正販売の報道をめぐって一昨年、NHK会長を厳重注意した経緯について、5日の衆院総務委員会で新たな説明をした。

 森下氏は昨秋の国会の会合では、経営委で「放送の中身の話は一切していない」と述べていたが、今回はその説明を翻し、「番組や動画について意見を述べた」と語った。

 放送法は、経営委が個別の番組内容に関与するのを明確に禁じている。森下氏は、具体的な制作手法などは指示していないと釈明したが、経営委が特定の番組について意見や感想を執行部に伝えること自体が問題なのは明らかだ。

 この報道については日本郵政グループが抗議し、NHKのガバナンス体制の検証を経営委に求めていた。その後、経営委は会合に上田良一会長(当時)を出席させ、その日に厳重注意していた。

 外部の圧力に応じてNHKの番組作りに経営委が介入したとすれば、致命的な信頼失墜行為である。問題の会合で何が話し合われたか、経営委は国民につまびらかにする責任がある。

 しかし、経営委はこの会合を「自由な意見交換のため」との名目で非公表扱いとしている。会長に対する異例の厳重注意処分に至る経緯を開示しないのは、公共放送の運営のあり方として不適切極まりない。

 そもそも昨年9月に厳重注意が明るみに出て以降、この会合の議事録をめぐる対応は二転三転してきた。

 初めは「作成していない」としながら、批判が強まると存在を認め、メモの類いだとして、ごく簡略な議事経過を発表した。5日の衆院での参考人質問でも概要の説明にとどめた。

 森下氏は、ことの重大さを認識していないのではないか。NHKは放送法に基づいて広く国民から受信料を集め、公益を追求する報道機関だ。放送法の厳守と経営の透明さを担保するため、国民に説明責任を尽くすのは最低限の責務である。

 NHKは経営委員長、会長ともに交代し、新体制となったばかりだ。森下氏も、前田晃伸(まえだてるのぶ)会長も、「自主自律の堅持」を繰り返すが、視聴者は言葉ではなく行動を見ている。

 経営委は該当の議事録を速やかに公表し、会長への厳重注意処分をめぐる一連の経緯の詳細を国民に開示するべきだ。

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