やっぱり神様はすごいよ。
「これが三千万ヴァリス?」
モモンはショーケースの奥に並べられている武器を眺め、素直な感想を口にした。
鍛冶神ヘファイストスが作る武器と考えればある意味、ユグドラシルで考えるなら
それにエイナの講習で発展アビリティというものを知った。ランクアップ時にその人物の行動により何が選択できるかは違うが、その中から一つだけ得られるスキルとのことだ。その中には「鍛冶」や「耐異常」、「魔導」さらに「神秘」というのもあるらしい。
ますますナザリックの強化ができないのは残念だが、できないのなら仕方がない。ナザリックに引き入れれば済むことだ。
この世界に来てダンジョンばかりに気をとられオラリオの町を散策していなかったついでに商業系ファミリアを回って見ることにした。
そうと決まれば次は誰を連れていくかだ。NPC達を連れていくと騒ぎになるのは困る。カルマ値が善よりのNPCを連れて行けば良いという簡単な話ではない。オラリオの神たちからちょっかいをかけられることもある。さすがに短くないオラリオの生活で少しずつ神の考えが理解できてきたアインズは再び悩んだ。
しかしたった一人、神の食指に触れない僕がいた。そう、アルベドだ。角と翼を隠すため全身鎧を身に纏っていたため、神達は興味を示さなかった。しかもアルベドは防御に特化しており、余り僕を連れ回したくないアインズにとってはうってつけだ。ただ一つ懸念があった。暴走しないかだ。以前の冒険者登録のようなことがあれば、間違いなくアインズはアインズでなくなってしまう、そんな気がした。しかし、あれから謹慎期間を経て反省をしているとアルベドの姉のニグレドから報告をうけている。アインズは賭けに出た。
《アルベドよ、用件がある。私の部屋まで来てくれ》
《はっ、アインズ様。早急に参ります》
良い感じてはないかとメッセージのやりとりで感触をうかがう。しばらくしてアルベドがアインズの自室にやってきた。
「失礼します、アインズ様」
「ご苦労、アルベド。して用件なのだが近いうちにオラリオの商業系ファミリアの視察をしようと考えている」
「分かりました。早急に警護のメンバーを召集します」
「いや、今回は目立ちたくない。私とアルベドで行こうと思うが予定は空いているか?」
アインズは自分の発言を恐る恐る口にし、そしてアルベドの様子を確認する。
「いつでも問題ありません。引継ぎ等の問題はまた上申させていただきます」
普段と何も変わらないアルベドにアインズは肩透かしをくらった。天井に張り付いているエイトエッジアサシンも警戒姿勢を緩めた。
「そ、そうか。忙しい所すまないな。まあ、普段ナザリックに籠りきりなのだから、たまには気分転換になると良いがな」
余り嬉しくはないのかとアインズは労いの言葉を加え、アルベドの様子を見てみた。そしてアインズは気づいてしまった。アルベドが必死に歓喜の衝動を隠そうと腰の羽を抑えているがバサバサと羽ばたいていることに。そして同様に体もプルプルと震え、不自然な動きをしていた。
「ありがたき御言葉、それでは失礼します」
「ぁ、ああ、それでは頼んだぞ」
アルベドは羽をバサバサと撒き散らしながらアインズの部屋から出ていった。アインズは内心不安にかられているがアルベドが喜ぶのであれば良しとした。
「よっっしゃぁあぁーーーーー!!!!」
アルベドが退室した直後、アルベドによく似た奇声があがった。しかし、アルベドはそんなはしたないことをする子ではないと信じ、アインズは努めて無視をした。
ーーーーーーーーーーー
こうしてオラリオの地に全身鎧のカップルが現れたのは話し合いをしてから数日後のことだった。
ダンジョンに行くわけでもないのに揃ってフル装備をして並んでいる姿は冒険者の街であるオラリオでも奇異に見えた。ただし、冒険者には様々な事情を抱えている者も多いためあえて声をかける住民はいない。
「アルベド、こっちにヘファイストスの店があるみたいだぞ!」
「アルベド、これはエレベーターになっているみたいだ。近くにこい」
「アルベド・・・」
「アルベド・・・」
アルベドは今、正に幸せの絶頂にいた。最愛のモモンガ様と二人きりでデートをする日がくるとは、あの謹慎を言い渡された日には想像もつかなかった。このまま手を繋いでいただけたら同意を得たようなものだと勘違いしてしまいそうだ。
しかし、アルベドは自分を戒める。まだ、まだ早いと。今は釣りで言えば様子見で餌をつついている程度だ。まだガッツリと食い付いてはいない。焦ってはいけない。少しずつ少しずつモモンガ様が気付かないように既成事実を作っていくのだ。もう逃げられないところまで来たらその時は一気に釣り上げれば良い。
アルベドは虎視眈々とスリットの奥に隠した激情を悟らせないように今回のデートを成功させることを姉のニグレドに誓うのだった。
そんなこととは知らずアインズはヘファイストスの店の前で一つ一つ武器を見ていた。ナザリックにはいくらでも金貨や財宝はあるが、まだ冒険者となって一ヶ月程度しか経っておらずオラリオでも有数のヘファイストスの店で買うほどヴァリスは貯まっていなかった。
モモンが店の前で様々な武器を眺めていると、その姿が店の中から見えたのか店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませー!今日は何のご用でしょうか、お客様?」
「ああ、いえただ眺めているだけですよ・・・、あれ?」
モモンはいつぞやに見かけた幼女に驚く。ジャガ丸くんの露天でバイトをし、その見た目には似つかわしくない二つの双丘が特徴的なベルの主神であるヘスティアだった。モモンはバイトの掛け持ちをする神の姿にやるせない気持ちになった。
「き、君はっ!僕のファミリアは入れないよ。これ以上ライバルを増やす訳にはいかないんだ」
ヘスティアはモモンのことを思いだし、そしてそれに追従していた美女に危機感を募らせた。
「いや、もうヘルメス様のファミリアに入ってるんで大丈夫です。それよりもここにはヘファイストス様が作られた武器はないのですか?」
「なんだ、そうなのかい。それならいいんだ。ヘファイストスの?無い無い、そんなのまともに値段なんかつけられないし、つけたとしても誰も買えないよ」
「そうなんですか?ベル君が大切に持っていたナイフを見てヘファイストス製の武器が気になってたので」
モモンの話を聞き、ヘスティアの顔がにやけてきた。
「へ、へへぇ~。あれかい。あれは僕とベル君の愛の証だからね。
「え?二億?」
「いやいや、なんでもないよ。まあ、まだ冒険者になったばかりなんだ。君達にはまだこの店は早いよ」
「確かにそうですね。・・・そうだ、ヘスティア様にならこれをお預けしても良いですね。これで武器、・・・そうですね、ナイフを作ってもらいたいんです。こちらはサンプルです」
そういうと、モモンは懐から神聖な輝きをしたインゴットとその素材で作られたナイフを取り出した。
「それかい?おっととっ、スゴい武器だね。君は相変わらず不思議な感じがするけど、不思議な物まで持ってるんだね。僕もそれなりにここで働いてるけど初めて見るよ」
ヘスティアの小さな体に金属の塊とナイフが手渡される。
「ええ、とある理由で手に入れたのですが私では加工できなくて。神でありベル君の主神である貴女であれば信用できますしね」
「そうかい、じゃあ大船に乗った気で待っててくれ。ただし、ヘファイストスがやってくれるとは思わないでくれよ。」
「えぇ、それで構いません。お代は受け取り時にお支払いしますので」
モモンは用が済むと礼を言ってヘスティアのもとを離れていった。一部始終を見ていたアルベドはアインズに質問をする。
「よろしかったのでしょうか?あのようなものにナザリックの秘宝をお渡しして」
「よい。それに
こうしてモモン達は再びオラリオの街の散策を再開していった。