「で、できた~~~~」
「はい、お疲れ様でした。ではモモンさんもそろそろ終わりにしましょうか」
ベルはエイナに用紙を渡すと机に伏した。隣にいるモモンは終始、エイナから講習を受けていた。というのもモモンはこの世界の言語である
アンデッドであるアインズと違い、朝から晩までダンジョンに潜りエイナのスパルタ教育を受けたベルはクタクタになっていた。
「すごいですね、モモンさんはまだまだ余裕そうですね」
「いや、そんなことはないさ。まさかこんな遅くまで付き合ってもらえるとはエイナさんには感謝しないといけないですね」
アインズはダンジョンのイロハを丁寧に教えてくれるエイナに素直に感謝した。アンデッドとなり人間への共感が薄れている感覚があるため、余計に強く思わないと人間だった鈴木悟としての感覚を忘れてしまいそうな気がした。
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翌朝、モモンは今日も別のNPCを引き連れダンジョンに向かっていた。今日のメンバーは反省を生かし、カルマ値の高めのメンバーを連れている。セバス、ユリそしてシズだ。今日はトラブルが起こりようもない布陣に安心をする。
しかし、アインズの期待は簡単に裏切られた。モモン達がダンジョンの入り口の広場にやって来た時、セバスから喧騒に素早く気付いた。
「モモン様。よろしいでしょうか」
「この姿の時は様を付けるな。どうした?」
「申し訳ありません、モモンさん。あちらでクラネル氏がトラブルに巻き込まれているようです」
セバスが指す方向を見るとベルが男性冒険者に詰め寄られていた。ベルのトラブルを呼び寄せる体質に呆れるが、セバスとユリは鋭くモモンを見据えている。
(カルマ値が高いとこういう事があるのか・・・)
「仕方がない、仲裁に入るぞ」
「「ハッ!」」
「このクソガキがぁ・・・」
二人はにらみ合い一触即発だった。童顔のベルもありったけの力を眉間に込めている。それが気に障ったのか男が腰にさした剣を抜こうと手をかけた。咄嗟にベルも及び腰だが対抗してナイフに手をかけようとした。
「それくらいにしたらどうですか」
「あぁ?なんだジジィ、邪魔をす・・・」
続きを言おうとしたが自分の置かれた状況に気付いた。既に周囲は囲まれており、何より目の前の老人の鋭い視線に怖じ気づいた。
男は自分の不利を悟り、舌打ちをしてベル達から離れていった。
「どうやら余計なお世話をしてしまったようですね、クラネルさん」
「いえ、とても助かりました。ありがとうございました」
「ところでどうしたんですか?ベル君は相手に絡むような性格ではないと思っていたが。あの男は何で君に絡んで来たんだ?」
ベルはモモンの質問に一瞬顔をあげ何かを言いそうになるが、すぐに下を向き口を紡いだ。
「言いたくないのなら別に言わなくて良い。ただ、一つ年上の者として忠告しておこう。昨日、君といたサポーターとは余り一緒にいない方がいい。君は優しすぎる」
モモンの忠告にベルはハッと顔を上げた。
「すまない。盗み聞きをするつもりはなかったのだが、耳はそれなりに良い方なのでね。彼女にどのような背景があるかは知らない。ただあんな小さな子が生きていけるほどダンジョンとは生易しいものではない筈だ。ましてや落ちこぼれと言われるサポーターとしてだ。君には想像できない事もしているかもしれない」
「そ、それでも、それでも僕は・・・」
そう言ってベルは悔しそうに俯いた。
「すまない、君を責めているわけではないんだ。君のパーティーだ。君がしたいように決めれば良い」
そう言うとモモン達は先にダンジョンへと向かった。ベルはまだ何かを考えているように下を向きながら立っていた。そしてその一部始終を見つめる小さな少女の姿があった。
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翌日、モモンもまた変わらぬ日課を過ごしていた。
(昨日はベル君は勉強会には来なかったな。まあ、いろいろと考えることもあるだろう。あの子は優しすぎる、いや、甘さと言うべきか)
「どうかなされましたか?モモンさーーーん?」
「相変わらずナーベラルはその癖抜けないね」
「そっすよ。ナーちゃん。リラックス。リラックス」
「そう言うルプスレギナは気を抜きすぎ。いくらなんでも不敬でしょ」
「いやよいのだ、アウラ。今はモモンとして、同じパーティーのメンバーだ。固くなる必要はない」
モモンはアウラの頭をポンポンと頭を撫でる。アウラは嬉しそうな顔でモモンを見つめている。これには二人も羨望の眼差しを送った。
「さてそろそろダンジョン探索に行くとしよう」
モモン達がバベルに向かうとエイナが冒険者に何かを訴えて居るのが見えた。軽く挨拶をし通り過ぎようと考えたが、エイナはモモンに気付くと小走りで走ってきた。
「すいません、モモンさん。こんなことをモモンさんに頼むのは筋違いなのですがベル君がトラブルに巻き込まれる可能性があるんです」
「それはもしかして例のサポーターの件ですか?」
エイナは軽く驚き、小さく頷いた。
「それでは協力はできません。私は既に彼に警告をしています。その上で彼女と関係を持つのであれば、それに関する厄介事は彼が責任を負うべきだと思います」
エイナはモモンが正しい事を言っていると理解できる。これはベル自身の問題である。それにそもそもモモンには関係がないことだ。
「ただ、それでも、どうしても私はベル君に居なくなって欲しくないんです」
モモンは少し考えていた。依頼を断る理由ではない。エイナがベルを想う気持ち、自分が失いかけている人間への共感を。
(やはり人間は眩しいな・・・)
「分かりました。エイナさんには恩があります。恩には礼で返さなくてはいけませんからね」
「ありがとうございます!」
「ところで先程話していた女性は?」
「ご存知ないですか?彼女はロキファミリアの第一級冒険者のアイズ・ヴァレンシュタイン氏です。彼女もベル君とお知り合いというか・・・ちょっと微妙な関係なんですけど今回の件をお願いしております」
(そう言えばこの前ベル君をひざ枕していた子に似ているな。彼女か?)
「分かりました。そんな方が手助けしているのならば私など必要ないと思いますが出来る限りのことはしましょう」
モモンはエイナと別れ、ダンジョンに入った。
「ではアウラ、どの程度探索範囲を広げられる?」
「上層程度であればほぼ把握はできるかと」
「分かった、最短経路で行くぞ。案内を頼む」
「はいっ!!!」
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「リリ、何を言ってるの?」
「ごめんなさい、ベル様。もうここまでです」
ベルは未だに信じられないような顔でリリを見つめる。
「さようなら、ベル様。もう会うことはないでしょう」
リリはベルからヘスティアのナイフを奪い、霧の中に消えていった。すぐにでもその後を追いたいが囲まれたオークの群れに対応を余儀なくされた。
「モモンさん、こちらです。」
「だろうな、所々にモンスターが死んでいる。恐らく先に向かった第一級冒険者を襲って返り討ちにあったのだろう」
まだ灰にもならず一撃で倒されているモンスターが通路に転々と転がっている。最短で進んでいるモモン達がまだ追い付けない事を考えると、さすが第一級冒険者と思える。
モモン達が10階層に到着した時、既にアイズがベルを囲うモンスターを倒し包囲を破っていた。その一瞬の隙をついてベルは無理矢理包囲網を破っていった。
「ルプスレギナ、ナーベラルはベルを追跡せよ。私は少しあの者を観察する」
その命令に即座にルプスレギナ、ナーベラルはベルを追いかけた。
(・・・見られている?)
アイズは自分を観察するような視線に気付いた。オークを一撃で沈めながら視線のする先を目指す。
「・・・あなたは?」
「私はモモンといいます。先程、ギルド職員から貴方と同様の依頼を受けたものです。ですが私は不要だったみたいです。さすがは第一級冒険者ですね」
「私の後をついてきたの?」
「ええそうですが、何か?」
アイズは自分がほぼ全力でここまで来たことを思い出す。ベルを探し、モンスターを倒しながらと言ってもそれほど時間をかけたつもりはない。ましてやそれはこのモモンという冒険者も同じ条件だ。しかもモモンという冒険者など聞いたことはない。冒険者はランクアップすれば嫌でも名前が売れる。逆に言えば名前を知らないものはランクアップをしていない可能性が高い。目の前のモモンという男に興味を示しているとモモンから声をかけられた。
「これは・・・ベル君のつけていた装備みたいですね。アイズさんが渡した方が良いでしょう。宜しく頼みます」
彼女と決めつけているモモンにアイズは首を傾げながらもベルが落としたプロテクターを受け取った。
《ナーベラル、ベルの様子はどうなっている?》
《ハッ、モモンさーーん。現在、ボロ雑巾のようになった蛆虫を助けています》
《ん、どういうことだ?》
《そ、それはすいません、分かりかねます。あ、あのルプスレギナから報告があるとのことです》
《モモンさん、ルプスレギナが報告するっす。恐らくですがリリちゃんは今まで盗んできた被害者にリンチされたんだと思うッス。まあ、自業自得って所ッスね》
《ほう、よく分かったな》
《そりゃー、私ならどうすれば一番面白くなるかって考えれば想像はつくッスよ》
《・・・そうか。所でそいつらは特定できるか?》
《大丈夫ッス。残り香は覚えてますから。うまくいったと思った所を突き落とす。さすがアインズ様ッス》
《もうベルの方は本人に任せればいい。そいつらの所に案内してくれ》
「ギャハハハッ、うまくいったな、カヌゥ。」
「あそこまでうまくいくとはな。最後に俺達のサポートができたんだ。アーデも本望だろうよ」
カヌゥはリリから奪った貸金庫の鍵を見て下卑た笑みを浮かべている。
「フフフ、安心したよ。この世界にもお前らのようなヤツが居てくれて」
突然聞こえてきた声にカヌゥ達は一気に警戒心を高める。
「だ、誰だ?出てこい!」
暗闇から現れた全身鎧の男は躊躇することなくカヌゥ達に近づいてくる。明らかに自分達より格上の相手に身を固くする。
「おいっ、それ以上近づくんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!!」
威嚇をするが全く効果がない。
「何、気にする必要はない。私には別に君達の行いを責める権利はない。私だって必要があれば似たようなことをするしな」
「じゃ、じゃあ見逃してくれるんだな・・・」
カヌゥは少しだけ安堵する。警戒しつつ横を通り過ぎようとした。それを最後にカヌゥ達はダンジョンから姿を消した。
「悪いな。私は非常にワガママなんだ」
気づけばもう11話・・・
原作だとまだ2巻くらい・・・
もっとサクサク進むと思ったのに(´・ω・`)