「アインズ様、セバスからの報告で監視されているとのことです。」
「ほう、そうか。相手は分かるか?」
「はい、ヘルメスファミリアの団員ルルネ・ルーイ。二つ名は【
「なかなかの相手が喰いつてくれたかな?」
「情報を抜き取るにはよい相手かと思います。」
アインズは現在、セバスを囮にして釣りをしていた。目標はならず者の冒険者だ。さらに言えば神の恩恵を受けた冒険者が発現したステータスやスキル、魔法だ。わざわざセバスにアインズがダンジョンで得た魔石を裏のルートで大量に売らせ、その情報をエサに相手がかかるのを待っているのだ。
「本当なら消えても良いような犯罪者が良いんだが、あまり弱すぎても使い物にもならんしな。それに団員が失踪した場合、神の反応が分からん。今回はキャッチアンドリリースってやつだな。」
「ではセバスがオラリオから出るタイミングでオラリオの外まで釣れれば作戦を決行したいと思います。」
アインズが本日の仕事を終わらせ、一息つく。最近の専らのリラックス方法は入浴だ。しかし、体の洗い方についてブラシでは肋骨や背骨など細かすぎて逆にストレスが溜まり新しい洗い方を模索中だった。
「・・・アルベド?本日の仕事はもう終わっただろう?退室しないのか?」
「アインズ様、前日アウラとマーレを連れてデートに行かれたとお聞きしました。」
「デ、デート?いや、そう言うわけでは無い。あれはオラリオの冒険者の実力を図るためにだな・・・」
アインズがアルベドの気迫に圧されながら答えると、本日のアインズ当番のメイド、シクススがシャルティアの訪問を知らせる。
「ご機嫌麗しゅう、我が君。」
「今日はどうしたシャルティア。」
「はい、それはもちろん愛しのアインズ様にお会いするためにまいりんした。」
「そう、じゃあ早く出ていきなさい。今、私とアインズ様とで重要な話をしているところよ。」
「これだからおばさんは、賞味期限が近いせいか見境がなくて嫌でありんす。」
「そういうあなたには賞味期限があるのかしら・・・」
「アインズ様、以前お話になられた
シャルティアがアルベドの話を遮り、アインズに話を振った。アルベドはシャルティアの発言に口を開けて固まっている。逆にアインズは急に話を振られ戸惑っている。
「前回、ミノタウロスをナザリックに転移されたときにお約束していただいたのをお忘れになりんしたか?」
「ああ、あの時か。いやもちろん忘れてはいないぞ。」
アインズの返答にアルベドは白目をむいて立ったまま失神をしている。アルベドのライフは0だ。
ニヤリと笑みを浮かべるシャルティアはさらに畳み掛ける。
「アインズ様、今度ダンジョンに潜られる際はぜひ妾と一緒に行きんしょう。」
「ア、アインズ様。それでしたらアインズ様をお守りできる私の方が相応しいかと。」
アルベドが意識を取り戻し、慌ててアインズに涙目で訴える。
「アインズ様!妾が先にお願いしたんでありんすから先にご一緒するのは
「いえ、アインズ様をお守りするには守護者最硬の
「児戯は止めよ。」
「「申し訳ありません、アインズ様。」」
「ダンジョンに潜るメンバーは考えている。」
メンバーはナーベラルを考えていたが、それを口にするとまた争いが起きそうなため、あえて口にはしない。
すると助け舟のようにセバスからメッセージが入る。
《アインズ様。現在、滞在している宿に監視をしているファミリアの主神であるヘルメス及び団長のアスフィ・アンドロメダが向かっているとのことです。いかが対処しましょう。》
《何、神自らが動いたのか?》
《はい。あと三十分ほどでこちらに着くかと。》
(やはり神の行動原理が読めん。どこまでがバレている?くそ、どうする。)
「アルベド、現在セバスの所に監視していたファミリアの主神が来るようだ。」
「ではナザリックに迎えいれてはいかがでしょうか?」
「この神聖なナザリックに下等生物を迎えるのでありんすか?」
「ええ、アインズ様のご計画を進める良い機会になるわ。」
(へー、アインズ様のご計画なんだー。そのアインズ様ってのは誰だ?ぜひ話を聞いてみたいものだ。)
アインズが現実逃避をしていると、シャルティアから質問が飛ぶ。
「ア、アインズ様。ぜひ妾にもそのご計画をお教え下さい。」
先程と攻守が交代しシャルティアが必死にアインズに詰めよる。
シャルティアに問われるが、そもそもそんな計画などないアインズはアルベドに丸投げする。
「アルベドよ。シャルティアに分かるように伝えてやるのだ。」
「しかし、アインズ様。これはまだ
アインズに見えないようにシャルティアにチラリと笑みを見せつける。
(えー、なんだよ草案って。しかし余り聞くと分かってないと思われるし・・・)
「アインズ様、それでは準備の方を整えますがよろしいでしょうか?」
「え、・・・ああ、頼む。」
「それとナザリックの威光を見せつけるために、玉座の間にナザリックの精鋭を集めたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「・・・許可する。」
「聞いた、シャルティア。あなたも早く玉座の間に入れる配下を選びなさい。これはナザリックの名誉に関わる問題よ。私は他の階層守護者に連絡するわ。急ぎなさい。」
「は、はいでありんす。」
「それでは私も準備に取りかかりたいと思います。」
そう言うと、アルベドとシャルティアはアインズの部屋を後にした。残されたアインズは一体何をすればいいか分からず無いはずの胃をキリキリとさせるのだった。
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アスフィはナザリックという組織の力に圧倒されていた。まず、先程くぐった鏡のようなマジックアイテムだ。くぐった者を別の場所に転移させるマジックアイテムなど
そして転移した先の光景だ。人よりも審美眼はあるつもりだった。しかし、置いてある調度品は今まで見たことも無いような細やかな装飾が施され、価値など図ることができない。それが何でもないように無数に飾られ、さながら神の神殿に来たような錯覚すら覚える。
「へー、これはすごいね、アスフィ。一つくらいお土産にもらえないかな?」
「ちょっ、ちょっとヘルメス様!壊したら私たちのファミリアでは弁償は不可能です。フラフラしないで下さい。」
「こちらにあるものなどたいした物ではありませんよ。壊した位であれば、わざとでなければ我が主はお怒りにならないでしょう。流石に私の権限でお渡しはできませんのでお会いになってご確認下さい。」
相変わらずマイペースの主神に落ち着くと同時に、これのどこがたいした物ではないのか聞きたくなる。
しばらく歩くと、審判の門とタイトルをつけたくなるような見事な扉が見えてきた。自然と唾を飲み込む。この先にどんな
「じゃあ、行こうかアスフィ。」
「はい、大丈夫です。」
アスフィの覚悟が決まったのを確認するように扉がゆっくりと開かれた。
そして世界が凍りついた。いや、凍りついたような気がした。Lv.4のアスフィが見ただけで勝てないと判断できる程の異形のモンスター達がヘルメスを、アスフィを睨み付ける。一段上の玉座の回りにいる幹部であろう者達では遊び相手にもならないだろう。そして玉座に座るアンデッド、正に死の象徴だった。ヘルメスを守ろうと前に出ようとするが、まともに体が動かない。そんなアスフィをしりめにヘルメス様はつかつかと前に出て、帽子をとり、挨拶をした。
「初めまして、お会いできて光栄です。私の名はヘルメス。そんなに注目されては恥ずかしいじゃないか。ほら、彼女も固まってしまったようだ。ああ、彼女はアスフィ。うちのファミリアのエースだ。」
ヘルメスの挨拶に最初に答えたのは死の象徴の横に控えるカエル頭の異形のモンスターだった。
「アインズ様の前で不敬ですよ。《跪きたまえ》。」
するとアスフィは自らの意思とは無関係に身を屈めようとする。なんとか意思で留めるが、気を緩めれば直ぐに跪いてしまうだろう。逆にヘルメスはあっさりと跪いていた。視線がアスフィに余計に集まる。
「よせ、デミウルゴス。神に対して失礼ではないか。」
「は、申し訳ありません。アインズ様。《楽にしたまえ》。」
その声に体が軽くなる。モンスターが理性をもって話していることに軽く衝撃をうけるが、それ以上に納得もしてしまうほど隔絶した力量を感じた。
「いやー、助かったよ。」
「申し訳ない、私の部下が失礼をした。」
「何、うちの団員もあなたの部下を監視していたみたいなんだ。お互い様さ。」
「そうか、ではこれでお互い遺恨はないな。こちらこそお会いできて光栄だ、神ヘルメスよ。私はナザリック地下大墳墓の主、アインズ・ウール・ゴウンだ。」
「よろしく、ゴウン様…でいいかい?ところで今回はあなたに一つ提案があるのだがよろしいかな?」
「ほう、なんでしょうか。」
「うちのファミリア、ヘルメスファミリアに入らないかい?」
次回、さすデミタイム・・・の予定。