[PR]

 和平合意と呼ぶには時期尚早だ。アフガニスタンに平和と安定をもたらすには、まだ多くの困難が立ちはだかる。それを取り除く真摯(しんし)な努力を重ねなければ、選挙目当てのパフォーマンスとのそしりを免れまい。

 トランプ米政権は先週、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンと合意に達したと発表した。駐留米軍を来春までに段階的に撤退させるという。

 合意に伴いタリバーンは、国土をアルカイダを含む国際テロ組織に使わせないと約束した。だが、かつてアルカイダをかくまったこの組織に、どう約束を守らせるのか。具体的な道筋は示されていない。

 アフガニスタンは、2001年の米同時多発テロを機に米国などが攻撃して以来、戦乱が続く。安定した政府による統治は見られず、アルカイダは生き残り、過激派組織「イスラム国」(IS)も浸透している。

 この国をテロの温床から解放するには、恒久的な停戦と秩序の回復が欠かせない。その点、今回の合意を経てタリバーンとアフガン政府の和平協議が設定されたのは一歩前進だ。これまでタリバーンはアフガン政府を「米国の操り人形」として認めてこなかったからだ。

 だが、交渉の先行きは不透明だ。戦力ではタリバーンがアフガン治安部隊に勝るとされる。組織内には強硬派もいる。米軍の支えを失うアフガン政府との妥協に応じるのか。話し合いが難航し、再び武力衝突に陥る恐れがつきまとう。

 それは現実となりつつある。タリバーンが今週、治安部隊を攻撃し、米軍が空爆で応戦した。合意に早くも暗雲が漂う事態である。

 この背景には、米政権がタリバーンと交わした捕虜交換の約束があった。実際に捕虜を拘束しているアフガン政府は事前の調整に納得しておらず、合意後も渋っている。

 うかがえるのは、トランプ政権による交渉経過のずさんさだ。米軍撤退に前のめりなあまり、アフガン政府を含む関係組織を調整し切れないまま合意に踏み切った責任は重い。

 トランプ氏は就任以来、国際秩序を軽んじ、劇場型の外交を進めてきた。米朝首脳会談や中東和平案など、その時々の耳目を集めはしても、実際には成果があがっていない。今回の合意も11月の大統領選を前に、公約としてきた撤兵実現を急いでいるとの見方が根強い。

 国際テロの震源となったアフガニスタンの情勢は、国際社会全体の安全にかかわる。ここでも米国が自国第一主義に走らないか。日本を含む国際社会は注意深く見ていく必要がある。

こんなニュースも