「怪物祭(モンスターフィリア)?」
「はい、アインズ様。何でもダンジョンで捕獲したモンスターを民衆の前でテイムする祭のようです。」
「ホゥ、面白そうだな。」
報告したセバスの目がギラリと光った。
「ウム、分かっている。今度はちゃんと護衛を連れていくとする。」
「私の我儘を聞いていただきありがとうございます。」
(目が怖いよ!そりゃー、勝手に出てったのは悪かったけどさ。)
今、ナザリックでは情報収集のためセバスとプレアデスのソリュシャンでオラリオに潜入している。ファミリアや冒険者の情報、生活水準など多岐に渡る。その中でセバスから近くに開かれる祭について報告を受けたところだった。
セバスの視線も仕方がないと理解している。アインズが夜中にダンジョンに勝手に出掛けた際のナザリックのNPC達の動揺は凄まじかった。アインズが呑気に帰ってきた時には危うくオラリオに全面戦争を仕掛ける直前だった。
(モンスターフィリアか。なかなか面白そうなイベントだな。冒険者の実力者を見る良い機会だ。連れてくならアウラが良いな。アウラなら実力も図れるだろうし。でもアウラだけ連れてくとマーレが可哀想だな。ナザリックの防衛でも頑張ってくれたし、アウラとマーレで行くか。)
「よし、決めた。アウラとマーレを呼んでくれ。」
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「へぇーーー、これが闘技場かぁ。ナザリックの円形闘技場に比べれば全然大したことないね。」
「お、おねぇちゃん、声が大きいよ。」
「何?マーレ?あんただってそう思うでしょ?」
「そ、それは、…そうだけど。」
「ハ、ハ!誉めてくれて嬉しいぞ、アウラ、マーレ。」
「いえ、アインズ様、当然のことです。」
「そ、そうです。」
「それはそうとして、この姿の時はモモンと呼んでくれよ。」
「「はい!」」
(うーん、子どもとこうやって出掛けるのは初めてだな。リアルではこんな風に過ごすなんて夢のまた夢だったけど、この子達にちゃんと教育できるように頑張らないとな。本当なら屋台のお菓子やジュースでも買ってやりたいんだが………。やはり現地通貨の獲得は急務だな。)
闘技場ではガネーシャ・ファミリアの団員がモンスターと格闘し大人しくさせていた。モンスターの攻撃を避けながら戦う団員の一挙一動に歓声が上がっている。
「どうだ?アウラ?」
「全然大したことありませんね。あの程度のモンスターなら欲しいとも思いませんが、私ならもっと効率良くできます。」
「まぁ、そうだろうな。」
確かにアインズから見ても大して強そうなモンスターではない。ショーという部分もあるので客に分かりやすく戦っているのもあるのだろうが、それを加味してもお粗末に見えた。
「ん、コイツはなかなか良いんじゃないか?」
「確かに今までの中で比較すれば良い動きをしていますね。」
見ると藍色の髪の麗人が自分の身よりもはるかに大きなモンスターを相手に颯爽と振る舞っていた。どうやら今回のショーの中でも一番人気らしい。
(やはりナザリックのレベルにはいかなくても強いものたちは揃っているな。やはり警戒はするべきだな。)
アインズがオラリオの冒険者について考察していると、メッセージが入った。
(アインズ様、ご報告がございます。)
(ん、セバスか?どうした?)
(はい、どうやらモンスターフィリアで使用するモンスターが逃げ出したようです。現在、ギルドの職員や近くに居た冒険者がこれに対応しているようです。)
(分かった、ご苦労。)
「アウラ、マーレ。どうやらモンスターが逃げ出したらしい。ある程度目的は達成した。厄介事に巻き込まれる前に帰るか。」
「「はい」」
アインズ達が闘技場を後にすると直ぐに退場規制がかかった。ギルドの職員達が慌ただしく市民達に説明をしている中、一匹のミノタウロスがアインズ達の近くで暴れだした。慌ててアウラとマーレがアインズの護衛のため前に出る。
「アウラ、マーレ、ここで暴れるわけにはいかん。アウラ、すまないが気付かれないように大人しくさせてくれ。」
「はい、アインズ様。」
アウラはモンスターをテイムするべく、ふぅーと口から誘惑のフェロモンを出した。本来であればレベル差もありこれで完全に服従できるはずだった。しかし、一瞬動きを止めるもののアウラのテイムを上回るかのように再び暴れだす。再度、アウラが服従させようとするが結果は同じだった。
「ほう、面白いな。」
「こいつ・・・、アインズ様の前で恥をかかせやがって!」
みるみるアウラの表情が怒りに覆われていく。硬く握られた拳が今にもモンスターを襲わんとしていた。
「アウラ、良いのだ。どうやら少し検証が必要なようだ。こいつを人のいない路地に引き込む。ナザリックで丁重に扱おう。」
そう言うとアインズはグレートソードの腹でモンスターを思い切り吹き飛ばした。
「みなさん、ここは危険です。私がモンスターを引き付けますので、安全な場所に避難してください。」
避難誘導をしていたエイナはその光景に驚愕する。以前冒険者組合に来て対応した時に彼はまだ冒険者になっていなかった。そして、冒険者になったという話も聞いていない。神の恩恵を受けていない状態でミノタウロスを吹き飛ばす力があるとしたら、とんでもない逸材だからだ。一緒にいる仲間は前回とは違いダークエルフの双子だが親子なのだろうか?そんな疑問を抱きながらも、まだモンスターが暴れている状況を思いだし市民の避難誘導に勤める。
「アウラ、この辺りに人は居るか?」
「はい、アインズ様。こそこそと建物の中から伺っているようです。不敬な奴らですね、私が行ってぶっ飛ばしてきましょうか?」
「いや、そこまでしなくてもよいぞ。」
「じゃ、じゃあ・・・僕がこの辺りを一面綺麗にしてしまえばよろしいでしょうか。」
「マ、マーレもそこまでしなくて良いのだ。そうだなどこか隠れられる場所があればそこに行くとしよう。」
呑気に行き先を決めながら喋っているが、まだ目の前にはミノタウロスが狂いながら暴れている。しかし、この三人の前では子供が癇癪を起こしている程度の認識でしかない。襲ってきても適当に薙ぎ払われて転げ回っていた。
「アインズ様、この下に地下空洞があります。この中なら気配も無いため問題ないと思います。」
「そうか、では向かうとしよう。」
そうしてまたグレートソードの腹でミノタウロスがボールのように地下の空間に吹き飛ばされる。
(シャルティア、今からこのモンスターをナザリックに連れていく。ゲートを開いて、一先ずニューロリストに預けてくれ。)
(ア、アインズ様。分かりんした。それと今度は妾もアインズ様とデートがしたいんす。)
(え、ああ、そうだな。考えておこう。)
アインズの目の前にゲートが作られ、アウラがミノタウロスの頭を鷲掴みし、ゲートに放り投げる。一応言っておくがミノタウロスは決して弱いモンスターではない。下級冒険者では決して勝てない中層域のモンスターだが、如何せん相手が悪かったのだ。
「さて、そろそろ我々も戻るとしようか?」
「アインズ様、こちらに近づいてくる者がいます。」
「「ほあぁああああああっ」」
アインズがその間の抜けた声がするほうに目を向けるとベル・クラネルと屋台で働いていた少女、神であるヘスティアがモンスターから逃げ回っていた。どうやらこちらには気付いていないようだ。
相変わらずトラブルに巻き込まれる少年に同情するが、神であるヘスティアがいるため遠くから様子を伺うだけに留めた。ヘスティアをお姫様だっこで抱えながら逃げ回るベルだが、ついに行き止まりに追い込まれた。
アインズは助けることを考えるが、ベルとヘスティアはまだ何か手があるかのように作戦をたてているようだ。しかし、モンスターがその隙を見逃す筈がない。ベルとヘスティアが何をするか気になったアインズはアウラに指示を出す。
「アウラ、少し時間を稼いでやれ。」
「はい、アインズ様。」
そう言うとアウラからモンスターに向けて殺気が向けられる。一瞬にして死を直感したモンスターが身を縮め隙が生まれた。その間にベルはライトアーマーを脱ぎ座り込む。
(何をするつもりだ?まだ闘うのを諦めたようには見えんが。)
するとヘスティアがベルの背中に文字のようなのを書いている。アインズにはそれが何をしているかが分からなかった。しかし、アウラの一言で理解できた。
「アインズ様、誤差の範囲ですがあの人間の力が僅かに上がりました。」
「クックック、そうか。あれが神の恩恵というやつか。面白い。もう少し見学させてもらおうではないか。」
始めてみる神の恩恵に興味を惹かれる。アインズにはベルの成長率は分からないがまだ冒険者になって半月も経たない少年が格上のモンスターに挑んでいるのだ。
今まで貯めた
「ーーーぁああああああッッ‼」
「ガッッッ!」
モンスターの核を貫いた一撃に、勢いを殺せずベル自身も吹っ飛んだ。しかし、先程まで明らかに格上だったモンスターをベル自身や武器の性能もあるかもしれないが、神の恩恵が少なくない影響を及ぼしたことにアインズは満足した。
「アウラ、マーレ、それではナザリックに戻るとしよう。今回の件を早急に検証し、次の行動を決めるとしよう。」
市民の歓喜の声を受けヘスティアに抱きつかれているベルに称賛を送り三人はオラリオから姿を消した。
もうすぐだんまちの番外編のソード・オラトリアのアニメが始まる(^^)
楽しみ(*´ー`*)