ユグドラシルのサービス終了からの異変で鈴木悟ことモモンガは混乱していた。現状の確認、身の安全、NPCの忠誠心など確認することは膨大だった。その中にセバスへナザリックの外の確認と知的生命体との接触および情報収集のためなるべく穏便に連れてくることを頼んでいた。
セバスから回りが草原になっていることを聞き、ますます異世界へ来た可能性を考えていると、人間らしい生物がいるとの報告を受けた。
(もしかしたら他のプレイヤーかもしれない。警戒レベルを引き上げなければ。)
セバスからの報告を忠誠の儀が終わったアルベド達に伝え、玉座の間で迎えるよう伝えた。アルベド達からは危険とモモンガの同席を拒まれたが、プレイヤーの場合プレイヤー同士でなければできない話もある。完全武装で同席することで認めてもらった。
セバスから連れてきたとの報告を受け、緊張しながら扉が開くのを待った。そこにいたのは兎だった。いや、セバスが連れてきた少年はウサギのようにぷるぷると震えていた。
少し緊張感が弛緩するが、まだ警戒心を解くわけにはいかない。
「ようこ「うわぁーーーーわーー!!」」
少年は一目散に逃げ出した。
(……え、俺なんかしたっけ?)
何気にビックリして精神が安定したのは内緒だ。
(もしかしたらプレイヤーじゃない?現地の人か?だとしたらうまく話をして情報を引き出さないと。まぁいきなりこんなところに連れてこられたらビックリするよな。なるべく大人の対応しないとな。)
モモンガが違う方向で認識しているとデミウルゴスが少年を連れてきた。
(っていきなり幼い子を支配してるじゃねーか!なんか泣きそうな顔してるし。出会いが最悪だよ、ここからどうやって取り戻そう。先ずは謝った方が良いよね。)
「…部下がすまなかった。」
(ん、少し顔が明るく……なったか?よし、先ずは自己紹介だよね。………そうだな、みなさん、この名前使わせてもらいますよ。文句があるなら帰ってきてから言ってくださいね。)
「我が名はアインズ、アインズ・ウール・ゴウン!!」
(ってヤベー、思わず絶望のオーラ出ちゃったよ!)
少年はコトリと倒れ込んだ。まだ碌な挨拶もしないままモモンガとベル・クラネルのファーストコンタクトは終了した。
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「申し訳ありません、いきなり倒れてしまって。」
「いえいえ、気にしなくて良いですよ。それよりお体は大丈夫ですか?」
アインズは現在、応接室にて最初の会合の時には無かった仮面を着けた状態で少年と向かい合っていた。アインズは玉座の間の一件のあとベルに《記憶操作》を使用し初めから仮面をつけていたこと、さらにモモンガとセバス以外の人物の記憶を消していた。現在、部屋にはアインズとベル、さらにベルが緊張しないようにと見た目が人間に見える階層守護者のシャルティア、アウラとマーレ、後はセバス、プレアデスのユリが居るだけである。
(まさかアバターの姿に恐怖していたとは、ユグドラシルでは普通だったんだけどな。それにしても記憶操作の効率悪すぎだろ。なんか魔力が一気に減った気がするよ。まぁこれも実験だと考えるか。)
「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「いえ、もともとはこちらがお呼びしましたのですから。それでは改めて自己紹介させていただきます。私はアインズ・ウール・ゴウン。この墳墓の主です。」
「ぼ、僕はベル・クラネルです。よろしくお願いします。」
お互いの紹介を終え、同席しているシャルティアやアウラ、マーレの紹介もする。ベルはどこか照れたような顔をして笑っていた。
「失礼します、オレンジジュースで宜しいでしょうか?」
よく冷えたジュースを持ってきたユリに緊張した面持ちで答えるベルはアインズから見ても顔が真っ赤だった。
「クラネルさんは魔法はご存知ですか。」
「え、はい。見たことはありませんが、冒険者の方が使うと言うのを聞いたことがあります。」
「冒険者?……そうですか、それでは話が早いですね。私は魔法使いです。実は魔法の研究で長年籠っていたのですが、最近失敗をしてしまいこの墳墓ごと別の場所に転移してしまったみたいなんです。それでこの辺りの知識もないためクラネルさんが知っている範囲の知識を教えて欲しいのです。」
「え、えーーーー!!!!!…………ゴウン様は魔法を使えるんですか!!!?す、凄いです。しかもこんな大きな建物を転移させちゃうなんて聞いたことないです。凄すぎます!!」
「え、…えぇ。しかし失敗しただけなのでそんなことないですよ。」
「それでこの辺りの話を聞きたいのですが………」
アインズはベルの話に驚き、落胆し、感嘆した。
(やはりユグドラシルでは聞いたことの無い地名だな。通貨もことなるようだし。やはり異世界の可能性が高いか。しかしかなり気になる話が聞けたな。冒険者という職業にかなり興味はあるが、それ以上にこの世界には神が地上に降りてきているだと。しかも神の恩恵を受けるのか。俺はユグドラシルでは最高レベルの100レベルだが恩恵を受ければさらに強くなれるのか?この少年はまだオラリオに行ったことが無いみたいだから、そこまで詳しくは分からないから近いうちにオラリオに行くべきだな。)
「ありがとうございました。とても参考になりました。お礼と言ってはなんですが、何かお渡ししたいのですが生憎手持ちの通貨はこの辺りで使えないみたいですので、どうするべきか…………」
そう言ってアインズがチラリとセバスの方を振り向く。その行動にセバスが何か伝えようとするよりも前にベルから提案を受けた。
「ご、ゴウン様。……その、できれば魔法を一度見てみたいのですがダメでしょうか?」
「魔法ですか?別に良いですが、それで良いんですか?」
「はい!僕も冒険者になったら魔法をいつか使ってみたいんですけど一度実物を見てみたいなって思って。」
(まぁ、それくらいならいいか。欲が無いというかなんかこの子を見てると裏を考えてる俺が悪く見えてくるな。いつの間に俺ってこんな汚れたんだろ、なんか落ち込むな)
アインズ達はベルに魔法を見せるため第6階層の円型闘技場に向かった。
「ではいきますね。《マジック・アロー》」
アインズの回りに10個の光球が発生し、藁人形に突き刺さる。さらにアインズは別の魔法を唱えた。
「《ファイヤーボール》」
火の玉が着弾した藁人形は燃え上がり、余りの威力に跡形もなく消え去った。
「こんなところです。クラネルさん、どうですかね?」
ベルは跡形もなく消え去った藁人形の痕を茫然と眺めていた。
「クラネルさん?」
(あれ、やっぱりこんな低位階の魔法じゃダメだったか。ガッカリしたかな。ここはド派手に超位魔法でも………)
「ん~~~~~~~、す、凄いです!!カッコいいです!!!」
「そ、そうですか。満足して貰えたみたいで良かったです。」
「僕も冒険者になったら魔法使えるようになりますかね?《バーニング・トルネード》みたいな。あー早く使いたいな。」
キラキラと遥か遠くを見つめるベルにアインズは少年の夢を壊さないように答えてあげた。
「え…、えぇ、きっと使えますよ。」
「はい、ありがとうございます。僕もいつかゴウン様みたいに凄い冒険者になって、ゴウン様みたいなハーレムをつくってみせます!」
「は?………ハ、ハーレム?」
「はい、おじいちゃんに言われたんです。ハーレムは男のロマンだって。モンスターに襲われている女の子を颯爽と助けて運命の出会いをするんです」
アインズは固まっていた。ユグドラシルでクリスマスに一定の時間過ごすと強制的に貰える嫉妬マスクを持っているようなリアル魔法使いのアインズにとって女性と付き合うどころかハーレムを夢見るこの少年に。
その言葉に控えていたシャルティアがベルに語りかける。
「人間風情がアインズ様と同等になれると思い上がるのは不敬でありんす。ただ心がけは良いことでありんすね。この私はこの身も心も全てアインズ様のものでありんすからね」
「まぁ確かにあんたにできるかは置いといて、アインズ様の凄さを理解できたみたいだね。当然、私もアインズ様の物よ」
「ぼ、僕もアインズ様の物です」
シャルティアに続き、アウラやマーレも肯定している。さらにセバスやユリまで肯定の頷きをしている。
(おいーーー、何勝手なこと言ってるの?非リア充ですよ、魔法使いですよ。ってかセバスまでハーレムに入れてると思われる言い方したら、どれだけ守備範囲が広いと思われるんだよ。ほらなんか変な目で見てるじゃん?)
「す、凄いですね。確かに僕ではゴウン様みたいにはなれないと思いますが頑張りますね」
「いや、なんか勘違いしてるよね?違うよ、みんな家族って意味だよ?」
なんとかベルの勘違いを必死でといたアインズだった。