東京2020 祝祭の風景
アスリートや市井の人々の思いに耳を傾けながら、この国の風景を見直す
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【社会】<女性に力を>2020年女性幹部30% 達成遠く 一橋大学教授・佐藤文香さん/ジェンダー専門家・大崎麻子さん二〇二〇年までに、社会のあらゆる分野で指導的地位に占める女性の割合を30%にする-。十七年前に小泉政権が掲げ、安倍晋三首相が国際的に約束した数値目標「202030」の期限を今年迎えたが、現状は程遠い。世界経済フォーラム(WEF)が昨年発表したジェンダーギャップ指数でも、百五十三カ国中、百二十一位と劣等生だ。男女不平等を是正できない原因を、二人の識者に聞いた。 (竹谷直子) ◆高度成長モデルいまだに 一橋大学教授・佐藤文香さん百二十一位に落ちても驚かない。政治、企業、家庭の三つどもえの悪循環で女性が社会に出られない仕組みが続いているから。 子育てや介護などのケアワークを女性が多く担う社会の中、企業は女性より男性をがんがん働かせる方が得で、長時間労働の職場環境は改まらない。政治も、票にならないワークライフバランス政策に本腰が入らず、女性をパート労働に押しとどめる税制をやめない。家庭では、妻が税金で損しない程度の働き方を選んでケアを担い続け、悪循環は強化される。 日本には、この「働く夫」と「支える妻」の組み合わせで高度経済成長した一九七〇年代初頭までの強烈な成功体験があり、いまだに抜け出せない。多くの国が共働き中心へシフトし、時間をかけて男女格差を縮めてきたのと対照的だ。 企業でばりばり働く女性ももちろんいるが、少数派のため正当な評価を受けられなかった。失敗すると多数派の男性は「だから女性は」と言い、功績を挙げれば「彼女だから」と個人の能力を褒める。どっちにしても女性の評価は低いままで、昇進しにくい。 だから、女性を最低三割に増やす202030は大事だったはず。最近あまりアピールされないが、目標を掲げた政治家や官僚のメンツをかけて事実と向き合い、検証するべきだ。 <さとう・ふみか> 一橋大教授。社会学、ジェンダー研究。著書に「軍事組織とジェンダー 自衛隊の女性たち」。 ◆格差解消世界潮流なのに ジェンダー専門家・大崎麻子さんなぜジェンダー平等が必要なのか、日本は理解できていないのではないか。 WEFがジェンダーギャップ指数を発表するようになったのは、男女格差を縮めることが経済合理性にかなうと分かったためだ。国連の持続可能な開発目標(SDGs)はもとより、先進七カ国(G7)や二十カ国・地域(G20)の首脳宣言もジェンダー平等は持続可能で公正な経済の要件だと明言している。だからこそ各国は貪欲に政策に取り入れている。格差を放置する日本は、持続可能性を重視する投資家からは敬遠されるだろう。 取締役会が男性ばかりでは、多様な視点からの意思決定はできず、イノベーションが起こりづらい。「女性に人材がいない」と理由付けるが、「あなたならできるから、やってごらん」とサポートする体制があれば、適任者はいるだろう。「女性向き」とされる部署や職務だけではなく、営業や経営戦略など中枢の意思決定にかかわる仕事をさせ、育成するべきだ。 安倍首相は「女性活躍」を掲げた。労働参加率が向上した点は国際的に評価されているが、大半が非正規労働やパートで男女の賃金格差の解消には程遠いと指摘されている。メディアの責任も大きい。国際潮流を正確に伝えるのはもちろん、自らの組織でもジェンダー平等を進めてほしい。 <おおさき・あさこ> 関西学院大客員教授。2004年まで国連開発計画(UNDP)でジェンダーと女性のエンパワメントを担当。 <202030> 2003年、小泉政権時代に政府男女共同参画推進本部が定めた数値目標。社会のあらゆる分野で指導的地位の女性比率を2020年までに少なくとも30%程度にするとした。1990年に国連が95年までの目標に掲げた「30%」を受けた数字。2014年には安倍晋三首相がスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)で達成を約束、成長戦略にも盛り込んだ。 ◆中日新聞の女性管理職4.9% 東京本社記者は24.1%東京新聞を発行する中日新聞社の女性管理職の比率は、現在4.9%。2019年の3.6%より上がったが、日本新聞協会に加盟する新聞・通信96社の平均(19年、8.5%)には届いていない。役員は22人中、女性が1人(4.5%)だ。 主に記者で構成する東京本社編集局を見ると、女性は24.1%で約4分の1を占め、新聞協会の平均(同21%)より高い。ただ、編集局内の部長・室長以上の管理職では、女性の比率は8.3%にとどまる。 「社説」を担当する論説委員は、東京本社16人のうち女性は1人。名古屋本社の論説委員11人は全員男性だ。 従業員全体の構成は、男性が76%、女性が24%。2020年度の新規採用予定では、男性が7割、女性が3割となっている。 (小嶋麻友美) PR情報
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