5Gではどうして通信が速くなる? 仕組みから探る可能性と限界

米Engadgetのビデオ番組「UPSCALED」を元に解説します

石井徹(TORU ISHII)
石井徹(TORU ISHII), @ishiit_aroka
2020年02月27日, 午後 03:15 in 5G
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5G
次世代のモバイル通信サービス「5G」が日本でもいよいよ今年の春からスタートします。

Engadgetでも5Gについてはさまざまな角度からレポートしてきましたが、ここで「なぜ5Gで高速になるのか」をモバイル通信の仕組みからおさらいしてみましょう。携帯電話がどのように通信しているか、その仕組みを考えることは、5Gがどのような技術なのか、期待に値するものなのか、そして普及していくのかまでを理解する糸口になるはずです。

米Engadgetのクリストファー・スコットによるビデオ番組「UPSCALED」をもとに、日本での現状などを補記して紹介します。動画でサクッと把握したい方はこの記事の末尾から再生できます(約15分、音声は英語のみ)。

「5Gはここにある!」ただし......


「5G is Here!」──このかけ声と共に、2019年に世界の多くの携帯キャリアが5G通信サービスをスタートしました。しかし、5Gが「ここにはない」場合も往々にして存在します。

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携帯キャリアが5Gサービスをスタートして約1年になる米国では、適切な都市で適切なスマートフォンを使えば、実測1Gbpsとなる5Gの高速通信を体感することができます。これは4G LTEの20〜30倍の速度です。

この「適切な都市で、適切なスマートフォンで」というのは、5Gを理解する上で重要なポイントです。

そう。スタート当初の5Gは幅広い場所で使えるというわけではありません。そして、機器を買い替えずに使えるというものでもありません。5Gを支える技術要素は1つではなく、アンテナ設計、電波塔の配置、周波数帯の組み合わせなど、多くが組み合わさって構成されています。一部の技術要素には今後どのように進化していくのか、まだはっきりしない部分もあります。

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また、5Gが始まって間もない今のタイミングでは、世界のキャリアが「これぞ5G」として取り上げる体験もバラツキがあります。

実際のところ、「5G」とは何なのか。まずは大本に立ち返り「携帯電話ネットワークとは何か」をひもといていきましょう。

携帯電話ネットワークの仕組み

携帯電話によるモバイル通信はセルラー (cellular) 通信とも呼ばれる無線技術です。セルラーはセル、すなわち細胞に由来する言葉です。たくさん林立した電波塔で幅広いエリアをカバーする様子を細胞になぞらえて、セルラー通信方式と呼ばれるようになりました。この技術はおよそ10年ごとに新しい世代が登場しています。「5G」は5世代目(5th Generation)のセルラー技術ということになります。

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ここで、セルラーネットワークの中の1つの電波塔と、あなたが持っているスマホが通信するシーンを想像してみましょう。あなたのスマホと電波塔は、通信のために割り当てられた特定の無線周波数帯のうちの一部分を使って通信します。

1つの電波塔に同時につなげるスマホ(端末)の数には上限があります。周波数毎に細かい切れ端「チャンネル」が割り当てられていて、これを同時に使えるのは1台に限られます。

したがって、携帯会社が多くのユーザーに通信サービスを提供するためには、より多くの電波塔を建てる必要があります。そして、1つの電波塔から多くの周波数帯(つまり多数のチャンネル)を扱えるようにすれば、それも多くのユーザーに通信を届けるのに役立ちます。

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ここで注意が必要なのは、同じ周波数帯を扱う電波塔が近すぎる場所にあると、通信が干渉したり、電波が弱まってしまう場合があることです。電波塔の間隔が十分に離れている場合は、同じ周波数帯を利用できます。

したがって、なるべく多くの電波塔を建てる必要があるが、近すぎてはいけない――もっとも少ない電波塔の組み合わせでもっとも多くの人が繋がれるようにする、全体最適を目指した設計がセルラー通信の肝になります。

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さて、セルラー通信では電波塔は基地局と呼ばれます。地方では鉄塔の周囲に白いアンテナが3方向に取り付けられている建物を見かけることがあります。これが典型的な基地局で、鉄塔1つで周囲の広範囲を携帯電話エリアにしています。都心部ではビルの屋上にアンテナが並ぶ光景を見ることもあるでしょう。

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セルラー技術の進化には、「各基地局に接続できる人数を増やす」「一度にやりとりできるデータ量を増やす」という2つの方向性があります。

初期の携帯電話網ではアナログ音声通話で、基地局あたり最大12人が同時接続できるというものでした。現代の携帯電話ネットワークはそれと比べると飛躍的に高度なシステムになっていて、「タイムシェアリング」や、「変調」などの高度な技術を用いて、NetflixのストリーミングからFacebookの閲覧まで、基地局1つに対して何百、何千といった同時接続をサポートするようになっています。

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2つの周波数帯「サブ6」と「ミリ波」


さて、本題に入りましょう。5Gでは果たしてなにが変わるのか。

実際の変更は基地局のハードウェアを置き換えるものとは限りません。変更の中でもとりわけ効果が大きいのが、新しい周波数帯の活用です。これによってさらに多くのリソースを提供することができます。

4G LTE世代までのセルラー通信では、主に500〜2500MHzの周波数帯が活用されていました。

5Gで定義されている周波数帯「5G NR(New Redio)」は主に2種類に別れます。1つは400〜6000MHz帯で、これは「サブ6(Sub6)」と呼ばれます。もう1つは24〜50GHz帯。後者は「ミリ波」として大々的に(なかば誇張も含みつつ)アピールされています。

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また、「サブ6」の周波数帯の中でも、1000MHz以下の低い周波数帯と2500MHz以上の比較的高い周波数帯では、その性質は大きく異なります。前者はこれまでの携帯電話でも多く用いられた帯域で、後者は「ミッドバンド」とも呼ばれる周波数帯です。

携帯電話の電波は光や音などの仲間で、波のように伝わる性質を持ちます。電波の"高い低い"を表す周波数は、1秒間にある"山と谷"の回数で、単位はHz(ヘルツ)です。1GHz(ギガヘルツ)≒1000MHz(メガヘルツ)なら、1秒間に10億回の"山と谷"の周期を繰り返しているということになります。

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低い周波数帯の電波は特性として、長距離の送信に向いた性質を持ちます。障害物があっても、ほとんどのものは包み込んだり通り抜けたりして、あまり弱まりません。

これは音にたとえてみると分かりやすいでしょう。たとえば隣の家の住人が大音量で音楽をかけたとき、あなたの家ではボーカルなどの中高音は聞こえませんが、低音のベースはズンズンと響くでしょう。このベースの低音と低い周波数帯のセルラー波は、似た伝わり方をするのです。

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そのため低い周波数帯の電波は、幅広いエリアをカバーするのに使えます。米国のキャリアではT-MobileやAT&Tが600MHzや850MHzを使って、少ない電波塔で広いエリアにサービスを提供しています。日本では「プラチナバンド」として800MHz/900MHz帯が利用されています。

一方で、低い周波数帯には大きな弱点があります。帯域幅が少ないため、スピードが出ないのです。携帯電話の通信速度は、1ユーザーあたりに割り当てられた周波数の幅がどれだけあるかに依存しています。低い周波数帯ではそもそも全体で使える量が大きくないので、割り当てる単位となる「チャンネル」では10MHzといったように細切れになりがちです。

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そして、5Gで最初に割り当てられる周波数帯が限られていることを踏まえると、実際の通信速度は(すでに多くの周波数帯が割り当てられている)4G LTEより遅くなることも多いとも言えます。

5Gの隠れた主役? 「ミッドバンド」


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日本を含む世界の携帯キャリアの大部分が注目しているのは、いわゆる「ミッドバンド」と呼ばれる、2500〜4700MHz(2.5〜4.7GHz)帯です。これはサブ6でも高い周波数帯に相当し、今後7000MHzまで拡張される可能性もあります。

このミッドバンドは現在使われているほとんどの携帯電話システムよりも高い周波数帯で、もしミッドバンドだけで低い周波数帯と同じカバーエリアを実現するならば、おそらくもっと多くの電波塔が必要になります。
一方でミッドバンドは多くの帯域幅があり、1ユーザーあたりに割り当てられるチャンネルは50MHzから100MHzと大きめ。このミッドバンドを適切に整備するだけでも、数百Mbpsの高速な通信ができるでしょう。

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米国のキャリアはSprintを除いて、ミッドバンドには焦点を当てていません。その代わり注力しているのが5Gで新たに割り当てられたもっとも高い周波数帯、「ミリ波帯」(24〜50GHz)です。

ミリ波帯では多くの帯域幅があり、1チャンネル800MHzという大容量の割り当ても可能です。一方でそこには弱点もあります。

「電波が弱い」と遅くなる理由、変調の仕組み


ミリ波の弱点について言及する前に、セルラー通信の「変調」について触れておきましょう。変調とは、「0」と「1」で表されるデジタルデータを"電波のかたち"に変換(エンコード)するプロセスのことです。

セルラー通信の変調では「QAM(直角位相振幅変調)」という方式が用いられています。これは電波のかたちをパターン化して、たとえば山型なら「01」、まっすぐなら「00」というように0と1との組み合わせに置き換える技術です。

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QAM変調は識別するパターンの数が多くなるほど高度な技術になっていて、16QAM、64QAM、128QAM、256QAMといったものがあります。「4QAM」なら4つの波のパターンで「01」など4種類の0と1の組み合わせを表し、「16QAM」なら16種類の波のパターンで「0001」など4つの0と1の組み合わせを表します。

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変調を複雑にすると、同じ帯域幅でも多くの情報を送れます。送信できる電波が強いものであれば(違いを読み取りやすいものであれば)、複合して扱うことができるためです。

変調の技術的な弱点は、まさにこの「電波の強さに依存する」というところにあります。電波の強さは携帯電話と基地局との位置関係に左右されます。
理想的には基地局アンテナの真横にいる時がもっとも電波が強く、高度な変調方式が使えるシーンです。LTEなら256QAMが有効になり、256通りの波形パターン、すなわち「00000001」のような8つの0と1が並ぶパターンを送信できます。

一方、5Gでは2020年2月時点で256QAMはほとんど使われていません。実際の運用では64QAMが最大となっています。これは、特に高い周波数帯では、電波強度が弱くなりがちという性質があるためです。そのため、変調の制御を緩めて調整するのが一般的です。

まとめると、5Gの速度向上は、(1)1つのチャンネルの容量が大きいこと、(2)同時に使えるチャンネルの数が多いこと、(3)より複雑な変調方式を使えること≒電波強度を強く維持できること、の3つの要因の組み合わせで向上します。

将来的にはさらに複雑な1024QAMが実装される日が来るかもしれません。しかしEngadgetが問い合わせたクアルコムの担当者は「数年先になるでしょう」という見通しを示しています。

新しいアンテナ技術「Massive MIMO」


ミリ波帯のような高周波数帯を活用する上では、電波を制御する高度な技術との組み合わせが欠かせません。新しいアンテナ技術「Massive MIMO(マッシブ マイモ)」がその1つです。

「MIMO」とはMultiple Input Multiple Output(複数の入力と複数の出力)のこと。これは基地局側と端末(スマホ)側の双方で複数のアンテナを同時に使って、やりとりすることで同時に送れるデータの量を増やす技術です。

従来の4G LTE基地局では4個〜32個のアンテナを搭載して、一度に複数のアンテナを使って送受信するMIMO技術が使われています。

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現在のほとんどのハイエンドスマートフォンは4×4 MIMO、つまり4つのアンテナと同時に通信する技術をサポートしています。普及価格帯の多くのスマートフォンはそれより少ない2×2 MIMOか、1つのアンテナとしか通信できないものも多く存在します。

ただし、スマートフォンの側が4×4 MIMOをサポートしていたとしても、1つの基地局で割り当てられるチャンネル数には限りがあるため、常に基地局の4つのアンテナとやりとりするわけではありません。

Massive MIMOの基地局はこのアンテナの数をさらに増やして、1つ基地局で64〜256個にもおよぶ多数のアンテナを備えています。ミリ波帯には十分なチャンネル数があるため、Massive MIMOの多数アンテナを用意すれば、多くのユーザーが4×4 MIMOを使っても余裕があります。

将来の5Gスマートフォンは8×8 MIMOも実現する見込みがあり、5Gがさらに高速化するための一助となりそうです。ただし、これはスマホメーカーが多数のアンテナを備えた5Gスマホを投入するのを待つ必要があります。

現代のスマホに数十個もの多数のアンテナを付けるとするとコストがかさむうえ、バッテリー寿命を消費します。そしてそもそも、多数のアンテナを格納するスペースを用意するのもまだ課題があります。
しかし製造技術は時が経つにつれて成熟するものなので、そのうち多くのアンテナを備えたスマホも現実的な価格になってくるでしょう。

狙った方向に電波を当てる「ビームフォーミング」


Massive MIMOの設計上の利点としては「ビームフォーミング」が使える点も見逃せません。これはスマホに向けてアンテナの信号を集中して当たるように制御する技術です。

携帯電話のアンテナは一般的に、水平180度方向の球状に電波を発信しています。多数のアンテナが並んでいるMassive MIMO基地局もそれは同じです。

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ビームフォーミングは、狙った方向に強い信号(ビーム)を当てるために、電波の物理的な性質を利用する。たとえば2つのアンテナから同時に同じ内容の信号を発信すると、重なり合った部分では信号が強くなります。これを4つに増やすと、さらに強い信号になります。そしてそれぞれのアンテナの出力を調整することで、狙った方向に強い電波を送り込めるようにコントロールできるのです。

懐中電灯やサーチライトのような一方向だけの光ではなく、あくまで全体に広がるブロードキャスト(放送)のメカニズムですが、ビームフォーミングによって、狙った位置に強い信号を送り込むことができます。

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そして基地局は、携帯電話が発信する信号をすべて受信しています。その強さをもとに、壁などに反射した信号も踏まえて、携帯電話のある位置を計算する技術が組み込まれています。これを利用して、ビームフォーミングを当てる方向を決めることができます。

ビームフォーミングはミリ波だけで使われる技術ではありません。クアルコムによれば、ミリ波だけでなくミッドバンドの周波数帯でも、4G LTEの位置測位が働いている限り、5Gの方がより多くのユーザーを収容できる(1ユーザーあたりで高速化する)としています。

ミリ波帯は大容量だが、エリア拡大に課題


ミリ波には、克服すべき厄介な性質がまだあります。周波数が高い電波は物体に当たると吸収されやすいという性質をもちます。ミリ波の場合、当たったほとんどすべての物体に吸収されてしまいます。木や壁、さらにはそれらよりもエネルギー効率が高いガラスでさえも反射せず、当たると吸収されてしまうのです。

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こうしたミリ波の性質から「肌に当たるとガンになるリスクが高まるのではないか」という懸念が一部でありますが、その懸念にはおよびません。もし5Gのミリ波がガンを引き起こすのであれば、それより強力な4G LTEの携帯など到底手に持つことはできないでしょう。

むしろミリ波は「弱すぎる」のが課題です。空気でさえミリ波を減衰する要因になります。雨が降っていたり霧が出ていたりするだけで、ミリ波の信号強度が低下するという報告もあります。

ミリ波の活用は5Gの速度を飛躍的に高める可能性を秘めています。しかし、その物理的特性から、今後カバーエリアが広まるとしても、基地局の周辺1kmまで広げるのが精一杯でしょう。

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こうした物理的な性質からミリ波帯が活用されるのは、密集した都心周辺部や人が多く集まる屋内商業施設など、基地局をいくつ建ててもまかないきれないような場所に限定されることが分かります。特に屋内施設では、非常に小さな基地局を50mおきに建ててカバーするようなかたちになるでしょう。

ただし、5Gは屋内の通信環境を劇的に改善する可能性があります。今後の技術展望として、ショッピングモール、空港、オフィスビルやスタジアムなどでは、Wi-Fiと5Gがシームレスに連携して、より高速で通信できる方に自動的に切り替えていく"スーパーネットワーク"が実現する可能性があります。

米キャリアはミッドバンド軽視?


米国キャリアの5G導入状況を見ると、T-mobileとSprintはサブ6の低い周波数帯から導入を進めています。一方、Verizonは世界でも珍しく、ミリ波にフォーカスして5Gを展開していく方針をとっています。

Verizonがミリ波に注力した結果は良し悪しが混在しています。ミリ波につながれば、通信速度は1Gbpsを超え、非常に高速です。一方で、展開当初に試した人はエリアについての不満の声も多く述べています。

米国の携帯キャリアが奇妙なのは、サブ6でも高い周波数帯「ミッドバンド」をほとんど無視しているように見えることです。

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ミッドバンドは世界のほとんどの国がまず5Gを導入するときに使う帯域です。サブ6で数百Mbpsの通信を行うためには低い周波数帯だけでは不十分で、ミッドバンドの活用が不可欠です。しかもミッドバンドではミリ波のようなペナルティ(カバーエリアの狭さ)もなしでこの速度を実現できます。

5Gで実現しそうなもの


数百Mbps〜1Gbpsという高速なモバイル通信があれば何ができるでしょうか。まず、メディアストリーミングは有望な用途です。5Gなら、ありとあらゆるものをストリーミングできるでしょう。

そしてこの高速性はクラウドとの連携もさらに深めます。たとえば撮った動画をすぐにクラウドにアップしてしまえば、スマホ本体にはストレージは不要となります。再生するときもクラウドからダウンロードすれば良い。あるいは、4Kで撮った動画をそのままクラウドにアップデートする、メモリーカードの無いカメラを想像すると分かりやすいでしょう。

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もっとも理想的なシナリオでは、家庭での有線インターネットも不要となり、すべての通信が5Gに集約されていくことになるかもしれません。そして料金はすべての機器の分が統合されて、自宅のWi-Fiからスマホでの通信、あるいはそれ以外のモノの通信までを1つの料金体系で支払うようになる可能性があります。

5Gは製造業やインフラ、研究など"地味な"分野でも大きな変化をもたらす可能性があります。たとえば、そうした分野においても高解像度なイメージセンサーが利用できるになるでしょう。また、膨大な数のマシンで集めたデータを分析サーバーへ送信できるようになり、マシン同士が連携して動くネットワークが形作られるようになります。

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これら分野では5Gの大容量以外の特性も重要になります。たとえば、低レイテンシー(低遅延)という特性。これは基地局までの通信が片道1ミリ秒という非常に短い時間で完結するものです。4G LTEの場合は20ミリ秒〜70ミリ秒かかるので、大幅に短縮されたことになります。

ただし、5Gの低遅延性能を実際に享受できるようになるためには、まだ数年かかるでしょう。

低遅延性はモバイルゲーミングの分野を変える可能性もあります。特にGoogleの「Stadia」やMicrosoftの「xCloud」など参入プレイヤーが増えつつあるクラウドゲーミングサービスでは、プレイヤーの操作をゲームに素早く反応させる必要があります。ここに低遅延の価値がでてくるのです。

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さらに、"真の自動運転"の実現にも5Gは強力なツールになります。たとえば車同士で通信して、現在位置や車線変更といった情報を伝えるのにモバイル通信を活用する研究が進められています。各車から得られた情報が市の交通センターに集約して分析されることで、交通量を削減したり緊急車両を効率的に配備したりするのに役立つでしょう。

5Gの課題はコストと実現性


こうした5Gの用途は、実現したら本当に素晴らしいことばかりです。しかし、ここでいくつかの懐疑論も提起しておく必要があるでしょう。

携帯キャリアは5Gについて、理想的な環境で実現される(であろう)特長をもとに語ることができます。たとえば高速性能では「数Gbpsを超える!」とアピールするように。限られたエリアでは1Gbpsを超えるスピードも出るようになっていて、これが完全な虚飾ではないことも確かです。

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これは4G LTEが導入されたときも同様でした。4G LTEの初期の業界標準(2008年策定の3GPP Release 8)では、規格上の最高速度は300Mbpsと規定されていました。しかし実際の米国における4G LTEの速度は、2020年現在でも平均15〜30Mbpsにとどまっています。

今モバイル通信業界各社が宣伝し、メディアなどで紹介される「5G」は、基本的には構想段階の技術です。スマホや通信機器のメーカーは製造能力の増強を続けていますが、5Gで使えるスマホは未だに数十機種程度しか登場していません。そして、それらが実際にどのくらい5Gで高速な通信を行っているのか、状況を把握するすべも存在しません。

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もちろん、今後は多くの5Gスマホが登場していって、低価格なスマホでの選択肢も増えてくるでしょう。一方で、2020年初頭時点では、5Gスマホの価格は高止まりしている現状があります。ただしミッドバンド5Gを中心に展開する米国以外の国々では、より安価な5Gスマホの選択肢も増えてきています。ミリ波を諦めれば、より安価な5Gスマホが得られる可能性もあるようです。

モバイル通信の速度は、多くの国で家庭向けブロードバンド通信の速度を超えてきています。高速なワイヤレス通信が人々の暮らしを便利にしていることは疑いようがありません。

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一方で、このように主張する必要もあるでしょう。高額な通信プランと通信容量の上限設定は、特にモバイル通信に依存している人には大きな問題となります。3秒でBlu-rayディスク1本分の高画質な映像をダウンロードできるほど高速な5Gが、この問題を加速させてしまう懸念があります。

また5Gで積極的に投資が進んでいる都市部では、すでに適切なインターネットに接続できる環境が整っている場合も多くあります。

それにもかかわらず世界で5Gを展開するキャリアの多くは、もっとも高額な料金プランでもデータ利用時の上限を設定しています。そして米国では、AT&Tが段階制の5Gプランを設定する可能性さえ示唆しています。

みなさんどう思いますか?

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