民意に沿った判断なのか。甚だ疑問だ。
石垣市平得大俣への陸上自衛隊配備計画を巡り、石垣市議会が2日、市提案の沖縄防衛局への市有地売却議案を、賛成11、反対9、退席1の賛成多数で可決した。
配備計画予定地の半分近くを占める市有地が提供されることになる。計画地約47ヘクタールのうち、市有地は約22・4ヘクタールに及ぶ。市は約13・6ヘクタールを約4億円(立木補償額を含む)で売却し、残りの約8・8ヘクタールは年間855万円で賃貸する方針だ。
中山義隆市長は2018年3月の市長選で3選されたが、選挙戦では陸自配備計画への賛否を明らかにしておらず、受け入れの民意が示されたわけではない。配備に反対する予定地周辺住民との対話を重視する考えも示していたが、周辺住民の反発が強いまま、18年7月に配備の受け入れを表明している。
市有地は大切な市民の財産である。売却するからには一定以上の市民の理解が欠かせない。住民の間で賛否両論がある中で売却の手続きを進めるのは拙速と言わざるを得ない。陸自配備に伴う市有地の売却となれば、住民の生活にも影響が及ぶ。なおさら慎重な対応が求められる。
18年9月の市議選では、配備賛成の自民や慎重姿勢を示した公明などの与党が過半数を確保した。だが賛成する議員の中でも同市平得大俣への配備に否定的であったり、地域住民の合意形成を主張したりと、温度差がある。
市議会で売却議案が可決されたことを受け、中山市長は「市長選と市議選で容認が多数を占めており、市民の意見はおおむね出ていると認識している」と記者団に答えた。
しかし直近の市長選でも態度を表明しないまま選挙戦が行われた以上、明確に民意が示されているとは言えない。
陸自配備の賛否を問おうと市住民投票を求める会が18年12月に有効署名1万4千余りを集めている。市の有権者の4割近くになる。本来であれば、それを基に住民投票を実施し、直接、市民の意向を確かめるのが筋だ。
住民投票の請求に対し、市議会は、19年2月に住民投票条例案を議長裁決で否決している。民意を明らかにする機会は否定された。
住民側が提起した住民投票の義務付けを市へ求めた訴訟は今も係争中である。
今回の市有地の売却などの議決は既成事実を積み重ね、訴訟の意味を失わせる意図があったと見られてもおかしくない。
陸自配備を巡っては行政手続き面でも疑問がある。配備計画地の環境影響評価(アセスメント)は除外され、市有地売却額などを決めた公有財産検討委員会は詳細な議事録を作成していなかった。
民主的な手続きの徹底を欠いては後に禍根を残す。市は一連の経緯について説明責任を果たすべきだ。