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クレジット情勢の変化についての懸念が存在するなか、投資家はバンクローン資産クラスについての疑念を抱いているかもしれません。以下、役に立つ状況説明を提供していきます。

 

要旨

  • ここ数年、米国バンクローンは他の主要な債券セクターよりも高いリスク調整後リターンを生み出してきました。一方、クレジット情勢の悪化に関するメディア報道を受けて投資家は懸念を抱いている可能性があります。

  • 確かに、コベナントプロテクション水準の低下を含む最近の事態の進展により、次の債務不履行サイクル局面においてはローン回収率低下の可能性が高まりかねません。

  • しかし、もちろん、重要なのはいつクレジット循環が反転するのかという点です。米国経済が強固な基盤に立っていると見られるなか、バンクローンを取り巻く環境は引き続き好調さを維持すると我々は見ています。

 

米国変動利付きバンクローンのリターンは2018年8月もプラスとなりました。代表的なクレディスイスレバレッジドローンインデックス(ローンインデックス)は年初から8月31日までに3.65%上昇しています。対照的に、広範な投資適格ベンチマーク指標であるブルームバーグバークレイズ米国総合債券インデックス(総合インデックス)の同期間のリターンはマイナス0.96%となりました。

事実、バンクローンのパフォーマンスは過去1年、3年、5年の期間において総合インデックスを上回っており、ハイイールド債と比較した場合のボラティリティの低さを考えると、バンクローンは過去5年間において投資適格債、ハイイールド債の双方を上回るリスク調整後リターンを生み出してきたことが分かります。(図1参照)

 

図1.ここ数年、米国バンクローンは魅力的なリスク調整後リターンを生み出している
過去5年間の年率リターンとボラティリティ(標準偏差)、2018年8月31日時点

出典:モーニングスター。バンクローン=クレディスイスレバレッジドローンインデックス。米国総合インデックス=ブルームバーグバークレイズ米国総合債券インデックス。ハイイールド債=ICE BofAML 米国ハイイールドインデックス。
上図に引用されたパフォーマンスは過去のものです。過去のパフォーマンスは信頼に足る指標ではなく、また将来の成果を保証するものではありません。過去のデータは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用する特定のポートフォリオまたは特定の投資のパフォーマンスを示すものではありません。また将来の成果を予測または表現することを意図したものではありません。投資家は上記と異なる結果を経験する可能性があります。バンクローンは時に他の種類の債券商品よりも流動性が低くなる場合があります。市場のボラティリティによって、市場は将来同様のパフォーマンスを示さない可能性があります。インデックスは非マネージド型であり、手数料や費用の控除は反映されておらず、また直接に投資することはできません。

 

こうした好調なパフォーマンスの局面を通じて、特に「コベナントライト(制限条項を緩和した)」ローン(ボックス記事参照、「コベナントライトローン:より詳細に検証」)が広がりを見せている状況のなかで、この資産クラスにおける潜在的なリスクに焦点を当てた数多くの金融記事が掲載されています。最近のウォールストリートジャーナル紙はムーディーズのレポートを取り上げました。この中でムーディーズは、次のクレジット情勢下落局面における債務不履行時のバンクローン回収率予想値を61%に引き下げました。長期的な平均回収率は77%です。1

こうした状況について、変動利付きバンクローンの投資家は懸念すべきなのでしょうか? こうした記事が浮上する際に我々は投資家から多くの質問を受けますが、こうした展開は、ローン市場での豊富な経験を有する投資家にとっては目新しいものではないのです。

確かに、ローン市場におけるいくつかの側面は時間と共に変化しています。典型的なローン案件におけるコベナントプロテクションの量が減っているだけでなく、ローン市場からの借り入れを選択する企業の数がハイイールド債市場を上回って増加しているのです。レバレッジドローンがハイイールド債のシェアを奪うなか、ローン市場の規模は1兆ドルを上回るまでに拡大しており(2018年8月31日時点でのローンインデックスの市場価値に基づく)、米国ハイイールド債市場(ブルームバーグバークレイズ米国ハイイールドインデックスによる)に匹敵する規模となっています。こうした状況はローンインデックスの中で「ローンのみ」の借り手が占める割合の拡大にもつながっています。ローンは企業の資本構造の中でシニア部分に属していることから、借り入れをローンのみに頼る資本構造の増加は、シニア部分より下位にあってクッションの役割を果たす劣後債務が減少していることを意味しています。

こうしたトレンド―「ローンのみ」の借り手の増加、コベナントプロテクション水準の低下、ローンインデックスにおける格付け構成の変化―を鑑みると、次の債務不履行サイクル局面においてローン回収率の低下する可能性があることに我々も同意します。

しかし問題はそうした債務不履行サイクル到来のタイミングでしょう。それがいつ到来するかについて正確に把握することはできません。しかし、考慮すべき事由はいくつかあります。

現在の米国のクレジット情勢は極めて穏やかです。JPモルガンのリサーチによると、ハイイールド債、バンクローンとも8月に債務不履行は発生しませんでした。実際、過去4カ月間に債務不履行となった企業は2社だけでした。この債務不履行の影響は総額10億ドルの債券とローンに及びましたが、これは過去10年を超える期間の中での連続した4カ月間に起きた債務不履行としては最も小さい規模です。JPモルガンのデータによると、ここ12カ月間のローンの債務不履行率は2.0%を下回って推移しています。(図2参照)

 

図2. 米国バンクローンの債務不履行は低い水準で推移している
米国レバレッジドローン債務不履行率(出来高加重平均)、2018年8月31日時点

出典:JP モルガン
上図に引用されたパフォーマンスは過去のものです。過去のパフォーマンスは信頼に足る指標ではなく、また将来の成果を保証するものではありません。過去のデータは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用する特定のポートフォリオまたは特定の投資のパフォーマンスを示すものではありません。

 

さらに、JPモルガンとクレディスイスのリサーチによると、債務不履行はこの先1年間も極めて低い水準で推移することが予想されています。ムーディーズでさえも、ローン市場への構造的リスクに焦点を当てたレポートの中で、債務不履行率が今後も低い水準で推移し、向こう12カ月間には実際のところ低下する可能性もあるとの予想を繰り返しています。

クレジットサイクルの健全性を評価する上でもうひとつの重要な要素は、経済成長率見通しです。この点に関して言えば、足元の米国経済情勢は以下の通り引き続き堅調です。

  • GDP成長率 —米経済分析局は最近、第2四半期の国内総生産(GDP)成長率見通しを4.2%に引き上げました。これは過去4年間で最も高い水準です。
  • 雇用 —米労働統計局の8月の雇用統計によると、米国の同月の雇用水準は予想を上回る201,000人増となり、失業率は3.9%と堅調を維持しています。
  • 企業利益 —米商務省の最近の発表によると、2018年第2四半期の企業利益は前年同期比で16.1%増となりました。これは過去6年間で最も早い伸び率です。
  • 製造業 —米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した8月の製造業景気指数は過去14年で最も高い水準となり、製造業セクターが引き続き力強く推移していることを示唆しています。

しかし、いずれは景気低迷局面が到来するはずです。そうなれば、借り入れ比重が高い借り手にとっては信用面における厳しさが増すことになるでしょう。こうした場合、債務不履行の増える可能性が高く、過去のサイクルよりもバンクローンの回収率が低下することが予想されます。(ローンの回収率が61%に低下したとしても、無担保債券の平均的な回収水準である30-40%を依然として大きく上回ります。)しかし当面は、こうした情勢の発生までには、まだしばらく時間がかかると見られています。

一方でローンは、典型的な固定利付債のようなデュレーションエクスポージャーにさらされることなく、高い当座インカム源を提供し続けています。図3で示しているように、ローンインデックスの平均クーポンは短期金利の上昇に伴って上昇しています(9月6日時点で5.80%)。市場コンセンサスは2018年に連邦準備制度理事会(FRB)がさらに2回の利上げを行うと見ており、これは変動利付きローンのクーポン上昇を意味しています。

 

図3. 米国バンクローンクーポンは上昇している
クレディスイスレバレッジドローンインデックスの平均クーポン、2013年9月6日-2018年9月6日

出典:クレディスイス
上図に引用されたパフォーマンスは過去のものです。過去のパフォーマンスは信頼に足る指標ではなく、また将来の成果を保証するものではありません。過去のデータは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用する特定のポートフォリオまたは特定の投資のパフォーマンスを示すものではありません。

 

それでは、米国ローン市場にはどのようにアプローチすればよいのでしょうか?変動利付きローンに利用される金利の方向性に注目しようとする向きが多いなか、この資産クラスへの鍵となるのは信用力です。クレジット面での問題が将来に待ち伏せしている可能性があることを考慮すると、バンクローンという資産クラスにおいてパッシブ型の運用アプローチは賢明とは言えない、ということを強調したいと思います。バンクローン投資で成功を収めるためには、発行体やその業界に関する深い理解を有する経験豊かなアナリストによる徹底したクレジットリサーチが必要です。加えて、投資家にとっては、徹底したコベナント分析、担保分析、ディール構造における微妙な差異についてのしっかりとした把握が、貸し手サイドのプロテクションを理解する上で不可欠です。アクティブ型アプローチによって、ロードアベットの投資チームは、クレジット全般にわたる投資対象の中で、最善のリスク・リターン投資機会を提供する業界や個々の発行体を特定しながら、貸し手をリスクにさらす発行体やディール構造を回避することで、市場情勢に応じてポートフォリオを適応させることができると考えています。

しかし、もし米国経済が下降局面に入ることになったら、どうなるでしょうか?もちろん、これはバンクローンにとって良い環境ではないでしょう(そしてハイイールド債や株式のような他のリスク資産にとっても同様です)。景気後退シナリオにおいては通常、デュレーションの長い政府関連債が好調に推移します。しかし今日の環境下では、こうした証券は大きなデュレーションリスクを負っており、金利上昇局面で打撃を受ける可能性があります。米国経済が健全な基盤に立っていると見られるなか、バンクローンにとっての環境は引き続き好調であると見られます。[もちろん、バンクローンにリスクがないわけではありません。バンクローンにとっての主要なリスクは信用力、市場の流動性、債務不履行、そして価格のボラティリティです。]

総括

過去10年間における市場と経済の情勢変動の大きさは、固定利付きポートフォリオ内での戦略的な分散化の重要性を浮き彫りにしています。ひとつの賢明なアプローチは、米国バンクローン(景気の安定または上昇局面で好調に推移する傾向があります)と米国の信用力の高い中核債券(景気減速またはボラティリティ上昇局面で好調に推移する傾向があります)に加えて、デュレーションの短い債券や米国ハイイールド債(金利感応度が低く高い追加インカム源を提供します)へのアロケーションを含めることだと考えます。

コベナントライトローン:より詳細に検証

借り手と貸し手の間で締結される債務契約書にはローンの条件や借り手の義務が明示されます。債務契約書の不可欠な要素であるコベナントとは、貸し手へのプロテクションを提供するものです。ローン市場においては、従来型のローンよりも財務制限条項の少ないことが多い所謂「コベナントライト」ローンの割合が徐々に増えており、今ではベンチマーク指標であるクレディスイスレバレッジドローンインデックスの75%以上を占めるに至っています。

投資家は常に貸し手のプロテクション増を望むものですが、次の2点に留意すべきでしょう。

1.     「コベナントライト」は「コベナントが全く存在しない」という意味ではありません。コベナントは様々な形を取ります。その中には借り手の義務を示した肯定的制限条項や信用力にとってマイナスとなり得る特定の行動を企業が取れないよう制約を加える否定的制限条項、そして企業が維持しなければならない財務パフォーマンスの最低水準を定める財務制限条項が含まれます。コベナントライトローンでは、コベナントの数は減っているかもしれませんが、借り手の財務状態や元利金支払い能力に関する多くの厳格な要件が依然として債務契約書に含まれています。

2.     しかし、ローンの全般的なリスクの中でコベナントが示すのはわずかな部分に過ぎません。レバレッジ、インタレストカバレッジ、担保評価、格付け、資金使途といった他の財務基準、そしてより広範な視点からは業界のダイナミズムや企業の競争力がディールのクレジットリスクについての大きな洞察を提供してくれます。

1マット・ウィルツ、 「Leveraged Loans Not as Safe as They Once Were」 ウォールストリートジャーナル紙、2018年8月18日.

 

リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動や市場動向に応じて変化します。債券価格は、金利下落局面で上昇し、逆に金利上昇局面で下落する傾向があります。時にジャンク債と称されるハイイールド債においては、価格変動、流動性、適時の元利金支払いにおける債務不履行といったリスクが高まります。債券には期限前償還、信用力、流動性、金利、全般的な市場リスクといった他の種類のリスクも伴います。低格付け債には高格付け債よりも高いリスクが伴います。バンクローンに伴う主なリスクは信用力、市場流動性、債務不履行リスク、価格ボラティリティです。バンクローンは担保が付されており資本構造上シニアの順位と見なされている一方で、発行企業は多くの場合投資適格未満であり高い債務不履行リスクが伴います。

さらに、ローンに付与される特定の担保はその価値が下落するあるいは流動性が低下する可能性があり、そうした状況はローン価値にマイナスの影響を与える可能性があります。長期債は金利変動に対する感応度が高いのが普通です。証券の償還期間が長いほど金利変動が価格に与える影響は大きくなります。いかなる投資戦略も全ての市場ボラティリティを克服することはできず、また将来の成果を保証することはできません。

分散化と資産アロケーションのいずれも利益を保証することはできず、また市場下落局面での損失を防ぐことはできません。

変動利付きローン市場が将来同様の状況下で同様のパフォーマンスを示す保証はありません。

見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保証ととらえるべきではありません。

本リサーチには将来の事象についての特定の前提を基にした「将来の見通しに関する記述」という特定の前提が含まれています。実際の事象を予測することは難しく、前提とした内容と異なる可能性があります。将来の見通しに関する記述が実現するか、または実際のリターンや結果が本リサーチで記述した内容と大きく異ならないかについては保証することはできません。金融市場のトレンドに関する記述は現在の市場情勢を基にしており、これは変動する可能性があります。市場が将来同様の状況下で同様のパフォーマンスを示すかについては保証できません。

ここで示された事例は情報提供のみを目的としており、実際の成果を反映することを意図したものではありません。                                          

用語集

クーポンは債券の利息として年間に支払われた利息率で額面額に対するパーセントで表記されます。

デュレーションは市場金利が1%変化することで生ずる債券価値の変化です。一般にポートフォリオのデュレーションが大きいほど、金利リスク及び債券価値に対する利益は大きくなります。デュレーション・ニュートラル・アプローチとは、ポートフォリオがベンチマーク指標と同じデュレーションとなるように債券ポートフォリオを運用する手法を意味します。

シャープレシオはリスク調整後パフォーマンスの指標です。シャープレシオは10年物米国債のようなリスクフリーレートをポートフォリオのリターンから差し引き、その値をポートフォリオリターンの標準偏差で割ったものです。ポートフォリオのシャープレシオが大きいほど、リスク調整後パフォーマンスは良いとされます。

標準偏差はボラティリティの指標であり、投資リターンのばらつきを示すものです。

米国債は米国政府が発行する債券であり、政府の十分な信頼と信用によって担保されています。米国債からの所得は州、地方税が免除されています。米国債の元利金は保証されていますが、市場価格については保証されておらず市場動向に応じて変動します。

ICE BofA メリルリンチ米国ハイイールドインデックスは米国内市場で発行された投資適格に満たない米ドル建て公募社債のパフォーマンスを示す指数です。

出典:メリルリンチ・ピアース・フェナー・アンド・スミス・インコーポレーテッド(BofAML )の許可の下使用。BofAML はBofAMLインデックス及びそれに関連するデータについて「現状」のまま利用することを許可しますが、その内容に関する保証は行いません。また BofAML インデックスやそこに含まれるデータ、それに関連または由来するデータについての適格性、質、正確性、適時性、完全性については保証しません。また前述のインデックスやデータの利用に関する責任は負いません。また、ロードアベットまたはその商品やサービスについて出資、支持、推奨することはありません。

ブルームバーグ バークレイズ米国総合インデックスはバークレイズ国債/社債インデックス、モーゲージ担保証券インデックス、資産担保証券インデックスの債券によって構成される非マネージド型インデックスです。トータルリターンは価格上昇/下落とインカムの原投資額に対するパーセントで表されます。同インデックスは時価総額に応じて毎月リバランス(配分比率の調整)されます。

クレディスイスレバレッジドローン指数は米ドル建てレバレッジドローン市場での投資可能なローンを映し出すよう設計されています。

指数は非運用型であり手数料や費用控除を反映しておらず、また直接投資することはできません。

前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証するものではありません。

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