「そこの貴女、私の部下になりませんか?」
ゲートの近くにいたペンギンに突然話し掛けられかばんは戸惑った。しかし、それ以上に驚いたのは一緒にいたアインズだ。
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!」
アインズに無視を決め込むペンギンはかばんを見て質問を繰り返す。
「貴女のお名前は何ですか?」
「えっと、かばんです」
「かばん、良いお名前ですね。失礼、紹介が遅れました。私はエクレア・エクレール・エイクレアーと申します」
「よ、よろしくお願いします。そのそれで部下ってのは何をするのですか?」
「何、簡単なことです。これを外してくれれば良いだけですよ」
見るとエクレアは首輪とリードをつけ柱にくくりつけられていた。おそらくセルリアンに捕まり、拘束されていたんだろう。かばんは可哀相に思い、エクレアの首輪を外してあげた。
「ありがとう、かばん。これで私の部下ということだな」
困惑するかばんとは対照的にエクレアは少し嬉しそうに偉そうな口調でかばんに話かけた。
「ところでこんなところで何をしているのですか・・・しているのだ?」
「あ、えっと僕が何のモンスターか知るために図書館に行くところです」
「そうです・・・そうか、私はこのジャパリパークの支配者だからな、私が案内してやろう。そもそもこのジャパリパークは様々なモンスターが闊歩し・・・」
延々とのたまうエクレアの話についていけず、かばんは睡魔に襲われウトウトし寝てしまった。
「────、あっこら!私より先に寝るんじゃない。」
エクレアの言葉にもかばんは起きようとしない。アインズは今日の疲れが出たのだろうと寝かせてあげた。
「それにしても驚いたぞ、ボス。喋れたのだな?」
「・・・・」
相変わらずアインズには無視を決め込むエクレアに対し、かばんが起きるまで話しかけ続けるアインズだった。
─────────────
目を覚ましたかばんはまだ眠たげに目を擦っていた。突然、茂みからアインズが飛び出す。
「殺さないでくださーーーい!」
「殺さぬと言っているだろう」
寝起きにアンデッドは精神的に良くない。かばんを攻めるのは酷だろう。
「起きたのか、かばん。昨日途中で寝てしまったのだぞ」
「すいません、寝ちゃったんですね」
「全く私の部下となったくせに私より先に寝てしまうとは何事だ。それでは図書館に行くぞ。」
「うぉ、また喋った!」
相変わらずかばんにしか喋りかけないエクレアにアインズは驚く。
「図書館は森林地方にある。遠いから私のもう一人の部下に乗って行くぞ」
ピーーー
エクレアは器用に手を口に当て口笛を吹いた。
・・・
・・・・
・・・・・
しばらく待つが一向に何も変化は無い。気不味そうにかばんはエクレアの様子を伺うと、言い訳のように早口で語りだした。
「ま、全くあいつはすぐに迷子になるからな。仕方ない、私から迎えに行ってやるか」
エクレアは最後に会ったジャンル地方に行くようにかばんを促した。かばんは仕方なくエクレアが示す方向に歩き出すがエクレアは一歩も動かない。疑問に思ったかばんが質問した?
「一緒に行かないんですか?」
「私を運びなさい!」
下から偉そうに命令するエクレアに仕方なくかばんは小脇に抱えた。
「こら、ちゃんと持ちなさい」
荷物のように運ばれながら文句を言うが、かばんは初めてボスに反抗し無視をした。
ジャングル地方に着いたかばんはサバンナとは違う景色に回りを興味津々だった。
「多くの気配がするな。今日はたくさんのフレンズに会えるかな」
アインズの言う通り巨大な昆虫や数メートルもある獣、爬虫類が闊歩していた。相変わらずかばんはフレンズに出会う度に恐怖を感じているが、アインズが親しく触れ合う姿に次第に麻痺していった。
「ここはたくさんフレンズがいますね。それにしてもここはサバンナとは違う暑さですね」
「そうか?特に何も感じんが・・・」
かばんはアインズの体を見て、それ以上話すのを止めた。そう言えばエクレアが全く喋らないことに気付いた。
「エクレアさん?どうしたんですか?」
エクレアの様子を見ると溶けたようにぐったりとしていた。どうやら暑さには弱いらしい。
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ばはるすていこく
しゅせききゅうていまほうつかい
ふーるーだー・ぱらだいんおじいさん
魔導の深淵を~~!
神よ!いと深き御方よ!
この愚かな私にご慈悲を!
───────────────
「マーレ!良いお肉が取れたよ」
「ほ、ホント、お姉ちゃん?」
「ジャジャーーン!見てよこれ、しかもなかなかの毛皮が取れそうなんだよね」
ジャングル地方で暮らすダークエルフの姉弟、マーレの姉であるアウラは未だに抵抗を続ける獲物を締めつけた。
「ヒィ、ひいーー、某は美味しくないでござるよ。食べないで欲しいでござる」
しかし、アウラはすでにハンバーグにする気満々だった。マーレは天使の微笑みで近付いてくるが、手にはスタッフを持ち目は全く笑っていない。マーレがスタッフを上段に構えたところで、かばん達が現れた。
「おや、アウラ、マーレ久しいな」
「アインズさん、おひさー」
「お、お姉ちゃん、失礼だよ」
「良いじゃん、それより良いお肉が手に入ったんだ。食べてく?」
「お姉ちゃん、分かってて言ってるでしょ」
食事の出来ないアインズに食事を進めるのはアウラの鉄板だった。そしてそれを諌めるのもマーレの恒例だった。
するとお肉、もとい巨大なハムスターは何かを見つけ叫びだした。
「ボスーーー、ボスーーーーー!!!某でござるよ。ハムスケでござる。助けてくだされ!」
ハムスケと名乗るお肉は必死にかばんが小脇に抱えるエクレアに向かって訴えかけた。どうやらエクレアが言っていた部下とはハムスケのことらしい。
「すまんな、アウラ。そいつはどうやらボスの部下らしい。悪いが我慢してくれないか?」
「えぇぇ~~~~!」
渋々了承したアウラにモモンはなでなでしてあげた。少し嬉しそうにするアウラにマーレも頭を近付けて催促した。
「ところでこの子は何ですか?」
「ああ、かばんという。何のモンスターか分からないから図書館に行くところだ」
「ふ~~~~~~~ん」
ジロッと観察するように見つめるアウラにかばんは緊張した様子だ。
グウゥ
食事を取り損ねたアウラのお腹が鳴った。アウラは恥ずかしさから顔が真っ赤になった。
ハムスケは再び震え上がるが、アインズのおかげでなんとか食肉は免れた。しかし、相変わらず食事がないアウラにアインズは困ってしまった。
アウラの成長にはたくさん食事をしてもらいたい、しかしハムスケは食べれない。アインズが困っているとかばんが妙案を提案した。
「あのアインズさん、この前使った魔法はいろんな所に行けるのですか?」
「ん、ああ。行ったことがあればだいたい行けるぞ」
「じゃあこの前セルリアンの街で懲らしめた時に行ったならセルリアンの街に行けるんじゃないですか?」
「それは行けるが、行ってどうするんだ?」
「セルリアンの食糧が一杯あるかもしれません。少し頂いてこれば良いんじゃないですか?」
「ほう、そんな手があった。かばんは相変わらず面白いことを思いつくな」
こうしてアウラとマーレはお腹一杯になり、ハムスケも食肉にならずにすんだ。
「さてハムスケ、図書館に行くぞ」
アインズの掛け声と共にかばん一向は図書館に進むのだった。
(あれ、アインズさんのゲート使えば乗ってく必要無いんじゃ?)
かばんはふと疑問を思いついたが、この旅を楽しむため口にはしなかった。