エンシャントにあるディンガル帝国の城は、その威厳と重厚さを象徴するかのように冷たい石造りで天井が高い。
皇帝が座する謁見の間とまではいかなくとも、帝国宰相の執務室ならそのプレッシャーは尚更だった。
置かれているものも、実用性重視の、飾り気のないその癖高価な調度品(仕事に使う木製の頑丈な執務机、天井まで届く書棚、数人が座れる応接セット等)ばかりで、
素材は良くとも温かみというものが感じられない。緋色のカーテンは、明るさより権力の強さを主張しているようだ。
現在の持ち主の性格もあるのだろう。
無機質な部屋に、壁に掲げられたディンガルの旗。黄金の獅子のみが唯一の光源とばかりに眩い光を放っている。
そして、荒い息遣いと打ち合う腰の音、そして「何か」の濃密な匂いで満たされていた。
「や、あ、んん……っふ……」
下の唇をきつく噛み締めて、シーラは上がる声を堪えようと必死で執務机にしがみつく。
肌蹴られた上着からは大きな胸がはみ出て机に押しつぶされ、短いスカートはとっくに下着ごと下ろされて曲がった膝の辺りで引っかかっている。
とろとろと、白っぽい液体が彼女の太ももを流れて落ちていくのがなんとも扇情的だった。
短い呼吸で喘ぎ、目を細め、やり過ごそうと耐えながら、けれど否定できない快感にシーラは何度も体を引き攣らせる。
その様を見下ろしながら、ベルゼーヴァは呆れたように苦笑を零した。不安定な体勢のシーラを支えて結構な時間が経っているにも関わらず、少なくとも外見は平然としたものだった。
「全く、まだ仕事の途中だというのに」
前戯で散々ほぐした彼女の中は、既に愛液でどろどろにまみれている。言葉と同時に突き上げると、面白いように背中を反らした。かたかたと震える腕で何とか上半身を支え、熱っぽく潤んだ瞳でシーラは何とかベルゼーヴァへ訴えかける。
「だってもう、む、無理……んっ……!」
「無理ではないだろう?シーラ。お前は、ただ読みあげるだけでいいのだから」
ベルゼーヴァの長い指が、机に置かれた一枚の紙の上を滑る。下では扱えないと、宰相に回された書類の一部だ。
それを読み上げ、ベルゼーヴァに伝えてやる予定だったのだ。もっとも、彼女は普通に読むだけにするつもりだったのだが、今となっては読み上げようにも書類が目に入らない。
視界に入っても、内容を理解することは難しい。冷静になるには焦らされ続けている。
シーラの膣内を、ベルゼーヴァはくすぐるように下腹のソレをゆっくりと前後させる。シーラが書類を読み終えない限り、ずっとその調子で続けていくつもりなのだろう。
それだけでは満足できなかった。全然足りないのだ。狂ってしまいそうな程。
早くこの疼きをとめて欲しくてたまらない。もっと動いて欲しい。もう終わらせて欲しい(……そして、イかせて欲しい)。
今はそっちの方が重要だった。
「……さあ」
ベルゼーヴァはシーラの背にかぶさって、右の耳にそっと息を吹き込みながら続きを促す。
吐息の熱さに、じゅっと自分の中が潤みを増すのを自覚したシーラは首筋まで真っ赤に染めた。
何を期待してしまったんだか。恥ずかしい。当初の目的を思い出すと、震える唇を動かして目の前の文章を読み上げる。
「こ、このように……リベルダムの……りべ、リベルダ、の、そうに、そ、あああぁあん!」
声は途中で悲鳴になった。
読み上げた途端、タイミングを計ってベルゼーヴァがいきなり中へ押し込んできたのだ。待ち望んでいた刺激。それは歓声にも聞こえる。
「リベルダムの……何だ?ほら、まだ一枚も終わってないぞ」
「ひや……あんっ……あぅ……んっ……」
ぽろぽろと涙を流しながら、彼女は腕を震わせて頭を揺らす。
汗に濡れた髪がゆらゆらと流れ、うなじが露になったものだから、ふとベルゼーヴァはそこへ舌を這わした。
日に焼けていないうなじは白く、吸い付くように柔らかい。甘い花の香りがするようだと一人で思う。
「あっ、あああ……な、舐めないでぇ……いや、あ、はあぁ……」
震える声で哀願するシーラを無視して、ベルゼーヴァは焦らすようにゆっくりと腰を動かし始めた。ぐちゃぐちゃと、シーラの秘所から愛液が溢れて泡だっていく。
「続きを」
「そうに、しょうに、がぁ……っ!エンひャント、の、ひぅ……っ!」
喘いでいるのか読んでいるのか。シーラの掠れた声に混ざって、濡れたような乾いたような、異様な音が静かだった部屋中に響く。シーラの感じる箇所を重点的に攻めている音だった。
「エンシャン、はぁ……その、四方に……囲まれ、あ、ふ、あ、あああ!」
中途半端に疼いていた熱が、加速度的に高まっていく。喘ぎ声しか出せなくなったシーラの唇から、つうと涎がこぼれて書類の上に落ちた。
ぱたぱたと涎が落ちる。一部の文字が滲んで読めなくなってしまったことを確認すると、ベルゼーヴァは自分が苦笑を浮かべるのを感じた。摘み上げて、シーラの目の前まで持ってくる。
「わかっているのか?大事な書類だぞ。減俸ものだな」
お前の所為だろ。
突っ込む気力は既にない。
本当に大事だったならシーラに触らせない、そのことに気づく時間も彼女にはない。
ただ涎のつたう唇をわななかせ、潤みきった目で見上げて、しなやかな体をくねらせて帝国宰相に続きをねだる。恥ずかしい、と思う余裕はもうどこかへ溶けて流れてしまったようだった。
「おねが……もぅ、もうだめ……私……私……」
「……仕方ないな」
落とすのは嫌味っぽいため息。反して、汗と涙に濡れた頬を撫ぜるその手の動きは柔らかい。
うっとりと細めたシーラの目元にキスを送る。こうすると喜ぶことを彼は知っている。
そして、シーラの背中を抱きしめると、下腹に力を入れて激しく最後の数往復に入った。
「いっ、ああっ、ああぁあっ、ベルゼ、ベルゼーヴァあっ!!」
「くっ……シーラ……!」
コン、コンッ。
「失礼します、宰相閣下。入出の許可を」
理性に満ちた張りのある声。
執務室唯一の入り口、樫の木のドアを叩いた存在に
シーラは蕩けきっていた顔を一気に青ざめて、ベルゼーヴァは来るはずだった快感を思って不快気に眉を寄せたのだった。
「失礼します、宰相閣下。入出の許可を」
何度も吐き出して言葉にするのに慣れた、それでも相変わらず緊張感を伴った声で扉を叩いてから待つこと数分。
待たされていたのは確かに僅かな時間だったが、男にとってはその何十倍も待たされていたような心地だった。
なにせ相手はベルゼーヴァ・ベルライン。なまじ自身が優秀な分、自分にも他人にも必要以上のノルマを課してしまう厳しい上司。
アカデミーを卒業して公僕に成り立ての当時、要領がなかなかつかめなくて何度も彼に叱責を受けたものである。
執務中のベルゼーヴァの動作は、酷く正確で機敏だ。おかげで今でもこのように明確な反応が返ってこないと、自分が何か不手際でも犯してしまったのでないか、身が竦んでしまう。
(完全にトラウマである。そのスパルタ教育のおかげで、現在のこの地位があるとも言えるのだが)
入出の許可が下りたときは、正直ホッとした。
再度声を掛けて扉を開ける。
石畳に広がる高価な絨毯。その先には大きな執務机があって、そして帝国の宰相ベルゼーヴァが腕を組んで座っている。
窓を開けているのが、特別な理由もなく珍しいと思った。
「どうした」
「あっ、いいえ。何でもありません宰相閣下。こちらが午後の分の書類です」
紙の束を渡して男は彼から数歩距離をとった。近づきすぎるのは不敬だと思っている。
書類を数枚めくると、彼の上司は面白くなさそうに小さく鼻を鳴らした。
まあ、そうだろうなあ。男は胸のうちで何度も頷く。戦後の処理なんて面倒以外の何でもない。
「それと閣下。ロストールから正式な会談の申し込みが」
「……ああ、そうか。もうそんな時期だな。先方はいつを指定してきた?」
「はい。こちらの都合に合わせるとありましたが、女王のアミラル視察が8月の――」
違和感を感じたのは、男が入出して数分後のことだった。
「……?」
男は典型的な文官タイプで、気配とか殺気とかの類には全く縁がない。
そのかわり。と言ってはなんだが、コトリと何かが揺れたような音が耳を掠って、不審そうにそっと周囲を見回した。
必要最低限以外の装飾を省いた、実務一辺倒の部屋。何かが床に落ちたということはないようだった。
それが妙に不安を煽る。
男の様子に気づいたのか、ベルゼーヴァが視線で問うてきた。
「あの、今、音が聞こえませんでしたか?何か物が当たるような」
「音?私には聞こえなかったがね」
返答はそっけない。
「風で花でも揺れたんだろう。そうでなければ幻聴だな」
「そうでしょうか……」
「それ以外に何がある?それに、私が必要なのは君の耳でなく、よく動くその口なのだが」
どこまでも威圧的に物事を進めるベルゼーヴァを見て、男は小さくため息をついた。
この程度の皮肉は可愛いものだ。人前にも関わらず、悔し泣きをぼろぼろ零して帰った青竜軍の青年を思い出せば。
……まあ、確かに自分の杞憂だろう。それに、そう、特に気にするほどのことでもない。
男は気を取り直すと、中断していた案件についてもう一度語り始めた。ベルゼーヴァは机に片肘を突いて、冷笑を浮かべたままそれを聞いている。
結論を言うなら男の方が正しかった。
「ぅ……ふ、んん……ふぁ……」
くぐもったうめき声を上げて、シーラが苦しげにこっそり腰を揺すった。
声を上げることは出来ない。この部屋には自分とベルゼーヴァ以外の人間がいる。シーラは恨めしげにベルゼーヴァを睨みあげた。
彼は部下と話すので忙しいから、こちらを見下ろしはしない。けれど様子はわかっているのだろう、浮
かべている笑みがたまらなく憎らしい。
だって、髪を引っ張ることはないじゃないか。
宰相室の執務机は、つい最近以前より大きく頑丈なものを購入したばかりだ。
机の下には人が一人余裕で隠れられるスペースが空いていて、そこに彼女は座り込んでいる。
突然文官が扉を叩いて数分。身だしなみを整える暇はなかったから、素肌に上着を肩に引っ掛けただけのあられもない格好だ。
スカートと下着は机の隅に丸めて一まとめに。下腹にはまだ愛液と精液が乾かずにこびりついている。
今見つかったら、確実にシーラは羞恥心で別大陸に逃げることだろう。
まして、その小さな口いっぱいにベルゼーヴァの肉棒を頬張っている姿となれば。
二人とも達していない状態だったから、物欲しかったのかもしれない。いきなり咥えさせられた時は驚いたが、苦しいとは思わなかった。
いつ見つかるかわからない場所で、気づかれぬよう隠れてすることはそれだけで興奮するものがある。
シーラは口全体を使って、音を立てないようベルゼーヴァのそれに奉仕していた。
特別な技術もない稚拙な愛撫だが、一生懸命に口蓋や舌を使って絡み付いてくるのがたまらない。
口で呼吸が出来ない分、熱を帯びた鼻息が陰毛をくすぐってくる。
それでも、長時間口を使い続けるのは難しい。息継ぎをしようと、口から外した次にベルゼーヴァの左手が伸びてきた。
目で追っていなかったから、よく見えなかったのかもしれない。遠ざかろうとするシーラの髪を引っ張って、強引に引き戻してきた。
押し割られる唇。新鮮な空気の代わりに、また熱く波打つ肉棒が口の中に入ってくる。
一瞬の眩暈、シーラの身体がぐらりとよろめいて机に少し当たった。
部下が聞こえた音の正体はそれだった。
髪を掴まれた時は、ちょっと痛かった。
噛み付いてやろうか。
そんな仕返しを思いついて、シーラは亀頭を悪戯っぽく甘噛む。
タイミングよく、今度は優しく髪を梳いてきた。宥めるように、と思ってしまったのは邪推だろう。机の上で交わす冷たい皮肉とは反対に、とても温かい手だった。
シーラは目を伏せると、その柔らかな唇を前後に滑らせはじめる。時々、ちろりと舌のざらみで擦ったり唾液をまとわりつかせたりして緩急をつけることを覚えた。
ゆっくりと丁寧に。焦らすように。
とふりと、音もなく彼女の股から愛液が溢れて落ちる。
彼女の口元から、涎と先走りの混じった粘液がだらだらとこぼれ落ちて、何もまとっていない白い胸元を汚していった。
「…………」
なんだか難しい顔をして書類を睨むベルゼーヴァの反応を、男は黙って見守っている。
状況は説明した。自分の意見も言った。あとは決断を待つだけだ。
まるで何かを耐える様に黙考していた上司は、やがて顔を上げて男ににやりと笑いかけた。
「……悪くないな」
「はい?」
「その線で進めることにしよう。ロセンに根回ししておくことを忘れるなよ」
「あっ、ありがとうございます!」
普段ボロクソに言い負かされる分、認めてもらうとかなり嬉しい。
艶やかなシーラの髪の毛を弄りながら、単純な奴だとベルゼーヴァは遠くで思っている。
滑らかな肌に玉の汗を浮かべ、一心に快楽をむさぼる彼女の顔は、酷く淫靡で美しい。
ベルゼーヴァはしばし顎に手をやってなにやら考えていたが、何かを思いついたらしくもう一度にやりと笑った。
「っ……!?」
一瞬上がりそうになった声を、シーラは必死で堪えた。
ベルゼーヴァの靴が、シーラの股の付け根に偶然触れてしまったのだ。
ぬちゅ、と水音が立って、とろりとした液体が漆黒のブーツにまとわりつく。ブーツは退かずに、その細いつま先で繊毛を梳いてくる。太ももをなぞる。中の愛液が乱雑にかき回された。
媚肉がびくびくと、それを迎えるように動いて愛液が次から次へと溢れてくる。
偶然なものか。あの玉葱め。
ぎゅっと固く目を瞑って、シーラはその乱暴な愛撫を堪えようとした。余計な力を入れた分、知らず、ベルゼーヴァを締め付ける唇の力も強くなる。
「……ぅ、んん……っふ……」
声にならない程度の吐息のような喘ぎ。
それに反応したのか、口の中がさっきより熱く窮屈になるのがわかった。髪を弄っていた手に、不意に力がこもる。引き寄せられる。
近い将来に来る限界を想像しながら、シーラはそれをねっとりと包みこんだ。
「失礼します」
文官のそんな声を聞いたのは、口の周りを白濁液でべとべとに汚し、欲望を吐き出し終わったそれの「後始末」をしながらの時だった。
「失礼します」
パタン。一礼を残して部屋を出る。
サインの終わった書類を抱え、石畳の廊下を歩きながら男は内心首を捻っていた。
彼の上司のことである。今日はどうにも様子がおかしく見えた。
どこがおかしかったのか聞かれると、具体的に答えられないのだけれど。
(……おかしかったよなあ、やっぱり。怖いったらありゃしない)
疲れているのかもしれないなと、男はベルゼーヴァに少し同情した。
戦後の問題はまだ山積みだし、英雄ネメアは大陸を去ってしまって久しい。
けれどディンガルという国はまだ存在して操り手を欲してい、公僕である自分達は糸を取って国の歴史を重ねていく義務がある。
男はため息をついた。
早く家に帰って、愛しい妻の顔(結婚してまだ2ヶ月だ)を見たい気分だった。
執務机に軽く腰掛け、腕を組み、ベルゼーヴァは男が去っていく靴音に耳をすませている。
音が消えても暫くそのまま動かない。部下が戻ってくる気配のないことを確認すると、軽く息を吐いて後ろを振り向いた。
そこには、裸体に上着を引っ掛けただけのシーラが椅子にもたれてぐったりと座り込んでいる。
ぐったりとした身体には、双乳と下半身、口元の周辺にどろりとした粘液がこびりついていて痛々しい程の淫靡さがある。
精液と唾液で白く濁り、妖しい色に濡れ光った唇から目を離してベルゼーヴァは感想を述べた。
「酷い顔だな」
その声に、シーラは疲れた顔をのろのろと動かして一言だけ返した。
「……千切りにされてしまえ」
「何だそれは?意味がわからん」
それには返さず、シーラは開いた口からピンク色の舌を出して口の周りについた精液を舐めて取る。
美味くもなんともない。
むしろ不味いだけだが、長時間咥えこんでいた所為で味覚が麻痺しているのが不幸だった。
小さな口では納まりきらず、外に零れて顎や頬に飛び散った残滓は細い指先で絡め取って口へと運んでしまう。
ベルゼーヴァは無言で首を振ると、棚の引き出しから布を取り出して一枚をシーラに投げて寄越した。
無言の意図を汲み取り、身体の汚れを拭いて取る。
「……大切な書類だったんじゃないの?」
「どれが」
「これが」
文官が来る前にシーラが汚してしまった書類だ。エンシャントの商人ギルドが送ってきた嘆願状についての話だった。
なんでも、ソウルリープの所為で空けざるを得なかった商売の穴を、特にリベルダムの商人がこの短期間でほとんど埋めてしまったらしい。
リベルダム商人の食いつきの強さは有名だ。一度手に入れた餌場を易々と手放すことはないだろう。
挽回しようにも、取引先がいないのではどうにもならない。新しい市場を開拓するには時間がかかる。
面倒な話だ。
「ああ、それは草案の一つだからな。それに、誤字もあったからどの道書き直さねばならん」
軽く一瞥しただけで、面倒そうに切って捨てられた。
いつの間にそこまで読んだのか、思い当たる可能性にシーラは思い切り顔をしかめる。
この男、私を抱きながら書類を読んでやがった。
「あの部下の人……さっきのこと知ったら絶対ショックで倒れると思うな」
せめてもの仕返しに(反撃が来るのを見越して身構えながら)、ぽつりとそう呟いてやるとベルゼーヴァは軽く一笑して答えた。
その言葉の意味を噛み締めて、思わず自分の顔が綻んでしまうのをシーラは押さえきれない。
「たまには、こういう違った場所でやると喜ぶと思ったんだが」
力の限り引っ叩かれる音が、帝国宰相の執務室に響いた。