「こんなところがあったんだ。」
少女は灯りを掲げ、闇に沈むその部屋を照らした。
リューガ邸の地下、重い頑丈な扉の奧には、何故か人の住まうためにしつらえられたと思しき部屋があった。
何か参考になることが書かれていないかもしれないと重い、地下に所蔵されているというエストの集めた古書や資料の類を捜していたのだが。
少女はそっと眉をひそめた。
このリューガ家は古い歴史を持つ身分の高い血筋の家だが、その権力故に当主が意に染まぬ者を地下に幽閉することもあったのかもしれない。
「こんなところで何をしている?」
「…兄様」
リューガ家の若き当主、彼女の義兄たる男がいつのまにか背後に立っていた。
「エスト兄様の資料を捜していて、迷っちゃって…」
悪戯を見つけられた子供の言い訳のようにそんな言葉を連ね、部屋をちらりと見やる。
義妹のその様子を見ていたレムオンが軽く笑う。
「この部屋が何なのか気になるか。」
「え…」
「俺の母親の暮らしていた牢獄だ。」
「!?」
レムオンは、少女の手から灯りを受け取ると、部屋に踏み込んで奧まで照らす。
全体的に質素だが、整えられた部屋がそこにはあった。
「先代当主は、ある女に心奪われた。」
朗々とした言葉が地下室に響く。
「だが、それは許されぬ恋だった。男には正式な妻がいたし、その女は男を歯牙にもかけず愛人になるなど思いも寄らない風だった。それに…」
最後の言葉は呟くように消えた。気をとりなおしたように続ける。
「それでも男は狂ったように恋い焦がれ、女をここに幽閉した。」
レムオンは、部屋の棚から瓶を取り出した。栓を抜きグラスに注ぐと真紅の液体が満ちる。
どろりとしたそれは、恐らく葡萄酒ではない。
「ナジラネの果実と、あとは…、束縛の糸は分かるな。その材料となる植物を混ぜ合わせたものだ。女は魔術と剣の優れた使い手だったからな。男はこれを女に飲ませ、声を奪い身体の自由を奪い、女を好きなように蹂躙した。」
手にしたグラスを戯れのように揺らす。
「やがて、女は子を産み落とした。女は、もう諦めただろうと男が油断した、その隙をついて逃げ出した。男は青くなった。事が露見すれば身の破滅だ。」
静かに笑った。
「男は、冒険者に依頼して女を殺させた。」
グラスをテーブルに置いて、レムオンは戸口に佇む義妹のもとへ戻ってくる。
少女は眉をひそめたまま義兄を見上げた。
「…冗談よね?」
「冗談だ」
義兄は薄く笑う。
「…行くぞ。ここの空気は身体に良いとはとても言えん。」
廊下から差し込み部屋を照らす光は細く消え、重く扉が閉ざされる。
あわいを縫って差し込んだ一条の光が広がり、重く扉が開く。
「…気分はどうだ?」
少女は呼びかけに反応して声の方向に首を巡らせようとする。
だが、動けない。
地下室の寝台の上、張り付けられたように身体は重く沈み、指先一つ己の意志を伝えられない。
瞳だけで、声の主を捉える。
「動けまい。分かっていたことだろうが。」
廊下から差し込むほのかな灯りを背に、冷めた口調でレムオンが言った。
「……」
兄様と呼ぼうとした声は、しかし喉を吹き抜ける風しかならなかった。
鉄扉が閉められ、鍵がかけられる。がちりと冷たい金属音。地下室に闇が満ちる。男の手にした蝋燭の灯りだけが娘の視界を僅かに照らしている。
灯りを扉の脇に置き、男は娘の横たわる寝台へと向かう。緩慢に響く靴音。
寝台の脇に立つと、レムオンは娘の身体を見下ろした。娘の衣服越し、値踏みをするかのように。
娘の前髪に指を絡め、ぐ、と寝台に押しつけるようにして顎を上げさせる。
娘は、ぼんやりと、近づいてくる男の顔を見る。
唇に、男の冷えた唇が押しあてられた。
そう。分かっていた。
「出ていけ…出ていくのだ。」
赤く染まった瞳をぎらつかせ、男はそう命じた。
一切の反論を許さぬようなその宣告に抗い、泣きわめいた。
部屋にとどまろうとする娘を腕ずくで引きずり出そうとする男の手に縋りつく。
好きなのと。何でもするから側にいさせてと。
男は呆気にとられたように立ちつくし、やがて壊れた笑みを浮かべた。
寝室の隅の棚から瓶を取り出すと、グラスに注ぐ。
夜にも鮮やかなそれは真紅の液体。
男は無言で杯を差し出した。
震える手で娘は男の手から杯を受け取る。
月の無い空は暗く、ほんの僅かな星明かりを集めて、グラスの浮かべた液体の水面はきらりと光った。
一息にあおると世界がぐらりと揺れ、床に落ちたグラスの砕ける鋭い音を何処か遠くのことのように聞く。
「貴様のせいで俺は全てを失った。」
男の手が娘の頬に触れる。そのまま、手を滑らせる。首筋をなぞり鎖骨を越え、柔らかな膨らみへと。
「全てを奪われるとはどんなものか、貴様も味わってみるがいい。」
乳房に触れていた手にぎり、と力がこもり、痛みに眉をひそめる。
レムオンはゆっくりと、娘の衣服を解いていく。簡素なワンピースの結ぶ目を解き、背に手を差し入れて持ち上げると、動けない娘の身体はぐったりと男の手に重みを伝え、顎ががくりとのけぞった。人形のように投げ出された娘の腕と脚から衣服を抜き取る。
外気にさらされる乳房も秘所も恥じらい隠すことすら許されず、全てが男の目に曝された。
レムオンの手が義妹の乳房に触れ、軽く揉みしだく。乳房の先を飾る桜色の突起が、少女の意志とは関わりなく堅く尖り立ち上がった。
レムオンはそれを指先でつまみ上げ低く笑う。
「何だ。感じているのか?」
「………」
瞬きをした少女の目から一筋の涙が流れ落ちた。
男の手が少女の肌の上を滑る。
からかうように乳首の上を通り過ぎ、脇腹をなぞり、さらに臍の下へと。
茂みの奧にあるその場所へは触れず、脚を大きく割り開いて、内股を優しく撫で上げた。
「…………」
腿をなぞる手は、脚の付け根へと近づいてはまた離れていく。レムオンは少女の膝裏に手を差し入れ持ち上げると、開かせた脚の間へ入り込む格好で腿に軽くキスをする。
そのまま、内股にキスの雨を降らせる。少女の内奧に男の熱い息がかかったが、そこには唇を触れさせず行き過ぎてもう一方の腿をきつく吸い上げる。
前触れ無く男の手が少女の秘裂に触れぱくりと開かせる。口を開けたそこが蜜を吐き出した。
溢れる蜜を舌先で舐めとり、レムオンは、少女の花弁に口付けた。
「………!」
ひゅうっと少女の喉が鋭い音を立てた。
男の舌が泉をかき回す。粘着質の音が淫猥に地下室に響いた。
指先で少女の泉を開き、熱く猛ったものを押しあてる。
そのまま、未だ何者も知らぬ少女の中へと容赦なく突き入れた。
少女の目が見開いた。痛みに身をよじることも悲鳴をあげることも許されず、喉だけが乾いた音を立てて鳴る。
痛みに乾く秘所に、男の先走りと娘の破瓜の血が混じり合い潤いを与え、その助けを受けてレムオンは腰を動かした。
男のもたらす振動に身動きのとれぬ身体が為す術もなく揺さぶられる。見開いた瞳から時折涙が落ちた。
やがて、少女の最奧まで責め上がった男が低い呻き声をあげる。
少女は、その身体の内で男の楔が脈打ち、何かが熱く迸るのを感じた。
乱れた髪と衣服とを繕い終えるとレムオンは再び寝台の脇に立ち、少女の顎に軽く右手を添え、上向かせる。生気を失った少女の瞳は虚空を見つめていた。
「逃げようなどと思うな。」
左手に持ったグラスの中の真紅の液体を自ら口に含み、口移しで少女の喉へと流し込む。こくりと少女の喉が動き、唇を離すと少女の口端から呑み損ねた液体が僅かに零れる。
「もし逃げ出したら、殺す。」
レムオンの瞳に狂気のような赤い光が点る。顎を掴んでいた手が少女の細い首を軽く圧した。
そのまま、軽く口付ける。
声にならぬ声で少女が呟いた。
(…捕まえた)
・・囚われたのは、誰?