一橋大学の「ハラスメント見過ごし」体質に、噴出する怒りの声

これが「改革」の成果なのか
田中 圭太郎 プロフィール

それにしても、なぜ一橋大学は梁さんの要望書を無視したのか。実は、梁さんは2016年12月以降、この准教授から3年近くにわたり差別的な発言を受けてきたとしている。梁さんは2017年2月に大学のハラスメント対策委員会に申し立てたほか、2018年10月にもTwitterなどによる誹謗中傷をやめさせるように求める要望書を提出している。しかし、一橋大学は准教授に対して、処分などの対応はしていない。

「授業でヘイトスピーチが行われたことに、苦痛を感じています。過去にTwitterやFacebookで拡散された誹謗中傷やデマも、インターネット上に残ったままです。このひどい状況が変わらない大きな要因は、大学が『差別発言はダメだ』という姿勢を示さないことです。大学の姿勢が准教授を助長させていると感じています」(梁英聖さん)

 

事件のきっかけ

梁さんによれば、准教授から最初に差別的な言動を受けたのは2016年12月14日。日本の民族差別をなくそうと、若手研究者や学生で構成し梁さんが代表を務めるNGO「反レイシズム情報センター(ARIC)」が公開研究会を開催した時のことだ。研究会のテーマは「世界で台頭するポピュリズム 排外主義と日本」。アメリカでトランプ大統領が当選した直後の時期で、日本の排外主義の台頭について考える趣旨だった。

ところが、トランプ大統領を支持している准教授が、この研究会を反トランプのイベントと考えて妨害しにきた。准教授は名前を明かさずに乗り込んできて、「Fuck!」などと連呼。梁さんによれば、会場の外に出されると梁さんに対して「Do you have a passport?」「Do you have a 外人(ママ) card?」と、出自を問うような発言を行ったという(准教授側は、のちの大学による調査で、パスポートについて聞いたことは否定)。

梁さんたちはこの時、妨害してきた外国人男性が、自分たちが学ぶ一橋大学の准教授だとは気付かなかった。後日、この騒ぎを知った別の教員が、妨害した人物が准教授であることに気付き、判明したという。

大学の教員が学生に向かって「Fuck」と発言する――それだけで大きな問題と言えるだろう。6日後の12月20日に梁さんと学生の二人が直接、准教授のもとに抗議に行くと、彼は悪びれもせずに、研究会を訪れた人物が自分であることを認めた。梁さんによれば、そのうえで彼は、事態を見守っていた学生に対して「こんなふうに抗議してくるARICは理性のない、暴力的な極左学生だ」という趣旨の発言をしたうえ、またも「Do you have a passport?」と発言したという。

最終的には、おどけるように両手をあげながら「I am sorry」と言ったものの、「愚弄するような態度だった」と梁さんは振り返る(准教授側は大学の調査に対して、パスポートの問題など差別発言はしていないと主張している)。