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【社説】

新型コロナと日中 山や川は違えども

 新型コロナウイルスによる肺炎の発生源となった中国から、日本の支援への率直な感謝表明が続いている。今や日本が感染拡大防止の正念場を迎えており、感染症対策で日中が緊密に協力したい。

 国営新華社通信は二月中旬、日本から中国に届いた支援物資の箱などに「山川異域、風月同天(山や川は違えども、同じ風が吹き同じ月を見ている)」との漢詩の一節が書かれていることを紹介し、「中国人に災難と闘う力をくれた」と、感謝を示した。

 現在は日本が感染拡大の瀬戸際にあるが、中国が対策に苦しむ時期の「雪中に炭を送る」ような支援であった。同じ漢字文化圏の隣国同士での、漢詩を通じた心の触れ合う交流は、関係改善の流れを本物にする強い基盤となろう。

 中国の王毅外相は日中外相会談の開かれたドイツで、漢詩付きの支援について「非常に感動的なメッセージだ」と称賛し、「深く深く感謝する」と述べた。中国で放映されている連続ドラマで、日中戦争の場面が多い回の放映中止を決めた地方テレビ局もある。

 「支援への感謝」として、中国政府は逆に日本への医療物資の提供を表明した。

 中国外交の責任者である楊潔〓(ようけつち)共産党政治局員が二月二十八日、習近平国家主席の国賓訪日について協議するため来日した。日本政界には、中国の率直な感謝表明について「訪日成功へ官民挙げての良い雰囲気づくり」との見方もある。

 確かに、中国側の政治的な思惑も否定できないだろう。だが、感染症対策を通じた協力で、両国民の相手に対する感情が良くなるのは歓迎すべきことではないか。

 日本卓球協会は、新型肺炎の影響で海外遠征先から帰国しないよう中国卓球協会から指示された中国チームを、日本に立ち寄る機会に受け入れる方針をいったんは決めた。日本での感染拡大で結局断念したが、温かい支援の気持ちは伝わったであろう。

 中国政府は三月五日に開幕予定の全国人民代表大会(国会)などの延期を決めた。中国政府は首都での感染リスクを減らすだけでなく、近隣国への感染拡大防止に責任ある判断をしたといえる。

 中国は初動での対応の遅れなどを認めた。今後は各国の防疫体制の整備に有益な情報を積極的に発信してほしい。新型肺炎の実態究明やワクチン開発などに、日中はまさに「山や川の違いを超えて」協力すべきであろう。

※〓は、竹かんむりに、厂(がんだれ)、下に虎

 

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