パンドラ・ボックス   作:らりる

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なんやかんや=原作です。

すでにアインズ・ウール・ゴウンが世界を支配しているので、アインズの名前がモモンガに戻っているという独自設定でお送りします。

スキルや魔法に独自解釈があります。


初投稿です、どうぞお手柔らかに。


パンドラ・ボックス

 なんやかんやあった。

 そう、なんやかんやあったのだ。

 

 例えるなら当初18巻で完結する予定が延びるような、例えるならライトノベルと言うかもはやこれヘビーノベルだよと言いたくなるほど分厚い小説になってしまうほど、なんやかんやあった後のお話である。

 

 

 

「ナ~~ザリックゥ~ナザリック~~♪」

 

 

 

 唐突だが、モモンガは暇だった。いや、それは当たり前かもしれない。

 

 

 

 

 アルベド、デミウルゴス、パンドラズアクター

 

 

 

 この三人がアインズ・ウール・ゴウンの名の下に統治された、世界中で起きる様々な問題を精査し、解決策を立案し、改善点を煮詰める。モモンガの元に報告が上がる頃には、世界を揺るがす事件だろうが、用紙一枚に収まってしまっているからだ。

 

 モモンガがすることと言えば、可、不可、保留といったハンコをぺったんぺったんするくらいのものである。

 しかも、各分野でのナザリック随一の知能を持ち、モモンガへの忠誠心が天元突破しているあの三人が総力を注ぎ作成された報告書に、モモンガが指摘できるような穴などあるはずもなく。

 モモンガの仕事はもはや、午前中に十数枚の報告書に可のハンコを押すだけであった。

 

 

 

 これで暇にならないほうがおかしい。

 

 

 

 なんとなくやってみた、718個の自らの魔法の確認はもう随分前に終わった。そもそも暗記してるのをなぞるだけだ、超位魔法の魔方陣に囲まれながらボーっとしている時は暇つぶしのはずなのに暇になってしまった自分に苦笑してしまった。

 外の世界を見て回ろうにもそこに自由なんてものはあるはずもなく、もはやこの世界にモモンガに逆らう存在はいないというのに、先見やら護衛で山ほどのシモベが付き纏う。

 

 

「ナ・ナ・ナ……ナザリック~~~♪」

 

 

 この世界に転移してきてからずっとこの自室の天井に張り付いている八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の存在にももはや慣れ、こんな鼻歌も自然と出るようになった。そういえばこんなに彼らを気にしなくなったのはいつからだったか、第二十四次アルベド乱心事件の頃だから………

 

 

「………ん?てことはけっこう初期の頃だな…」

 

 

 アルベドの乱心はもう万を超えているし、何より今もアルベドは謹慎中だ。たしか原因は人間種の配下の誰かがふと口からこぼした「長年連れ添った夫婦のようでございますね」なんておべっかが原因だったなぁ…

 同じ原因も前に何度か……やめよう、痛むはずのない頭痛がしてきそうだ。

 

 

「さて、とはいえ暇なものは暇なわけで……やっぱアレしかないか…」

 

 

 モモンガが席を立つと、入り口の所に控えていた一般メイドがススッと近づいてくる。

 

 

「モモンガ様、どうかなさいましたでしょうか?」

「うむ、宝物殿に行ってくる、あそこにはパンドラズ・アクターがいるゆえ供は要らぬ」

「……はい、かしこまりました」

 

 

 供は要らないの言葉に若干躊躇ったが、パンドラズ・アクターの存在やすでに何度も繰り返しているやり取りなので、メイドはあっさりとうなずいた。

 

 

「急用があれば連絡するように」

 

 

 なんて言ってみたものの、わざわざ俺に指示を送るようなそんなイベントも長いことないなぁ…

 

 

 深く礼をするメイドを後にして、指輪を使いモモンガは宝物殿へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宝物殿入り口付近、山積みになった金銀財宝を漁る骨影があった。当たり前だが、モモンガである。暇になったモモンガが最近嵌っていること、それは『宝探し』であった。

 きっかけはある日何気なく宝物殿の整理を行っていた時のことだった。

 

 

「ん?……こっこれは……昔るし★ふぁーさんが作ってた『ミニミニたっち・みー人形』じゃないか!!」

 

 

 思わずそう叫んだモモンガの手には、三頭身ほどにデフォルメされたたっち・みーの人形があった。

 見た目こそ可愛らしくデフォルメされているが、その質感は本物に極めて近い。

 それもそのはず、その素材にはかなりのレアメタルが使われているのだから。それが原因でメンバーに猛反発され、さすがのるし★ふぁーもその製作を泣く泣く諦めたと思っていたが、ここにあるということは……

 

 

「あの野郎、こっそり作ってこんなとこに隠してやがったな…」

 

 

 ギルド一の問題児の行動に溜息を吐きかける、しかしその瞬間に思い出してしまった。

 

 

 今日は、セバスを供にしていたことに。

 

 

 恐る恐るモモンガが振り返ると、そこには今まで見たこともないほど眼を見開いたセバスがいた。

 

 

「モッ……モモンガ様、そちらは、もしや……」

 

 

 完璧な執事であるセバスにしては珍しく、その声は震え手はモモンガが持っているミニミニたっち・みー人形へと僅かだが伸ばされようとしていた。

 

 

「セッ、セバス…?」

「…ッ!!申し訳ありませんモモンガ様!!」

 

 

 気圧されたモモンガが発した言葉に正気に戻ったのか、セバスは慌てて平伏する。

 だが、モモンガはそれも仕方ないことだと笑う。神と崇める自らの創造主であるたっち・みーの人形である、我を忘れるのも当たり前だろう。ただし、もしこれが仮に名も知らぬ誰かが作ったものならもう少し平静を保っていたかもしれない、だがコレを作ったのはたっち・みー同様、至高の存在であるるし★ふぁーである。至高と呼ぶ神が創った神の似姿、これに心動かされないシモベはいないだろう。だってなにを隠そう、モモンガ自身も欲しいくらいなのだから。

 

 

「表を上げよ、セバス。謝ることはない、お前が我を忘れるのもわかるというもの……これは、いいものだ…」

「はっ、無論たっち・みー様には劣りますが、その純銀の輝きは素晴らしく思います」

 

 

 そういいながらも、セバスは不敬にならない程度にモモンガの持つ人形に熱い視線を送っていた。

 

 

「……ふむ、セバスよ手を出すのだ」

「はっ!!」

 

 

 もはや条件反射のように、セバスは何も考えずその手をモモンガへと差し出した。そして次の瞬間、その全身を硬直させる。

 

 

「コレはお前が持つべきものだ」

 

 

 その言葉と供にセバスの手に置かれたもの、それはミニミニたっち・みー人形だったのだから。

 

 

「モッ、モモンガ様、畏れ多いことでございます、私などにこのような……」

「よいのだセバス、きっとそのほうがたっち・みーさんも喜んでくれるさ」

「あっ……有難き幸せでございます。このセバス、モモンガ様へ更なる忠誠をっ!!!」

 

 

 涙を堪えているのだろう、セバスはその身体を細かく震わせている。そんななかでも、その手の中の人形は細心の注意を注がれ微動だにしていないのは流石完璧な執事である。

 

 

 モモンガはそれを見ながら、心に温かい何かが満ちるのを感じていた。友の残した子供が、いや、もはや自分の子供とでもいうべき愛しき存在が、歓喜しているのだ。もしモモンガに表情があるならば、きっと微笑んでいただろう。

 

 

 

 ………ん?なんか背中のとこにボタンがある?

 

 

 

 

「…ぽちっ」

 

 

 

 思わず小さくそう呟きながら、気がつけばモモンガはそのボタンを押していた。

 そして次の瞬間、突然セバスの掌の上でミニミニたっち・みー人形が動き出した。セバスが慌てながらも細心の注意を持って地面に下ろすと、人形は腰についていた剣を抜き天に掲げ、その背後に立体映像を浮かび上がらせる。

 

 それは、漢字四文字。

 

 

「ははっ、さすがるし★ふぁーさんだ」

 

 

 モモンガの色褪せぬ幾つもの記憶の中で、一番最初の景色がそこにあった。

 

 

 

『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』

 

 

 

 次の瞬間響いたのは、あの時初めて聞いた、そしてその後も幾度となく聞いた彼の信念。

 

 

 モモンガとセバスの目の前には、『正義降臨』の文字を背負いながら、高らかに名乗りを上げる純銀の聖騎士がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの後、人形に向かって平伏しながら号泣するセバスをなだめるのは大変だったなぁ…」

 

 

 そう呟きながら、モモンガは雑多に積み上げられた金貨や宝物を仕分けていく。ともかくあの日から、モモンガの新しい暇つぶしである宝探しが始まったのだった。

 

 

 源次郎が引退したあと、誰も宝物殿の整理なんて面倒なことはしなかった。そしてどうやらここは『捨てるのはもったいないけど手元に置くほどでもない』そんなメンバーの私物を放り込む場所になっていたようだ。その結果、ここに何があるかはモモンガでさえ把握していない。るし★ふぁーの残したミニミニ人形シリーズはまだあるかもしれないし、もしかしたらアインズ・ウール・ゴウン全員分あるかもしれない。もちろん見つけたらそれぞれの子供達に渡すつもりだ。

 

 そんなことを考えていると、視界の端に自分の名前が写った。

 

 

 

 

「………ん?なんだこれ?」

 

 

 

 それは、小さな黒い箱だった。

 

 表面には『モモンガさんへ』と書かれている。

 道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)を使ってみたが『この箱はモモンガだけが開けることができる』との説明文しかなかった。おそらくそう設定されているからには、実際にモモンガしか開けることはできないだろう。

 

 

 

「ま、開けたらわかるか」

 

 

 

 この時モモンガは、油断していたのだ。仲間達の残滓に触れ、抑制されるギリギリの幸福感を感じていた。ありきたりな言葉を使えば『わくわく』していた。だから、迂闊だと責めるのは言いすぎだろう。

 

 

 たとえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箱を開けた瞬間、モモンガの前に広がったのは、在りし日のアインズ・ウール・ゴウンの光景だった。四十一人揃う前の円卓の間、まだ未熟で、ユグドラシルにその名を響かせるその少し前の……

 

 

『……これは、相手に強制的に動画を見せるネタアイテムか?攻撃指定されると解除されるから、戦闘の目潰しにもならないネタアイテムだったっけ………それにしてもなつかしい、たっちさんがまだあの鎧じゃないってことは………』

 

 

 モモンガが懐かしさに浸っていると、円卓の間の奥から自分が現れた。それを見た瞬間、モモンガは嫌な予感に襲われる。

 

 

『…これは………まさか!!!あの時期の!!!!!!』

 

 

 自らの視界に写るモモンガは、そのローブを大げさに翻すと高笑いを始めた。

 

 

「はーーーーっはははは!!我ぁが名はぁ!!深遠なるぅ骸骨王モモンガァッ!!終焉にしてぇ深遠なる死のーーーー支配者である!!!!全ての生あるものにぃ絶望を授ける為にぃぃヘルヘイムの彼方より来たりし者なりぃ!!!」

 

 

『ぎゃぁぁぁぁぁああぁぁあっぁぁああああああああああっ!!!!!!!!!!!!』

 

 

 そう、そこにいたのは、患っていた頃の自分であった。

 パンドラズ・アクターをノリノリで創っていた頃の、そう、中二病絶好調の頃の自分であった。

 

 

『やーーーーめぇーーーーーてーーーーーーーっ!!!!』

 

 

 このアイテムの効果だろうか、それとも異世界に来たことにより変質したのか、なぜかさっきから感情が抑制されない。

 

 

「さすが我らが盟主であるモモンガ、ここはこの悪の天才魔術師である………

「あぁまた始まったのか、発作が………

「昔の特撮を話すたっちさんもあんなもんですよ………

「え!?嘘でしょう!!?………

 

 

 その場でのた打ち回りたいほどのダメージを受けているモモンガの耳に、遠くからかつての仲間の声が聞こえるが、今のモモンガにはそれに集中する余裕はない。

 

 

「Wenn es meines Gottes Wille!!」

 

 

 映像の中、モモンガとウルベルトはなぜかドイツ語を叫びながら、向かい合って敬礼しているのだから。

 

 

『うわぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!』

 

 

 ついにモモンガはその場でのた打ち回る、だがどんなに眼をそらそうとしても、地面をゴロンゴロン転がっても、目の前の光景は揺れもせずにモモンガの黒歴史を映し出す。

 

 

『いぃぃぃぃぃいやぁあぁぁぁぁあっ!!!!!』

 

 

 ちなみに、現在のモモンガを他者が見たなら、小さな箱を覗き込んだままの体制でじっとしているだけである。だからこそ、誰も気付かない、モモンガがこの世界に来てから…いや、鈴木悟として産まれてから現在までで一番のピンチであるのに、誰も気付かないのだ。

 

 

 

 

 

 

 その地獄は、2時間続いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日から一週間、ナザリックに住むシモベたちは未曾有の事態に襲われることになる。

 モモンガが、貴重なスクロールを使い誰にも破れない結界を張ってまで自分の部屋に閉じ篭り出てこなくなったのだ。

 

 

 

「すいません、ひとりにしてください」

 

 

 

 とても小さな声で、そう呟いたのを最後に………

 

 

 



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