シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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※お忘れの方もいるかもしれませんが、食事ができるシャルティアボディ設定です


『ぼっちデビューの原因と対策を考える』

「それで、シャルティア嬢は何事もなく魔法学院に?」

「はッ! 今のところ問題ありません。予定よりやや遅れましたが、魔法科の教室へ今朝入られました」

「遅れた? ……何か問題があったのか?」

「いえ、少々学院長室での挨拶が長くなっただけのようです。それ以外は何事もないかと」

 

 ――皇帝執務室に緊張した空気が満ちる。

 

「そうか……ひとまず第一段階は問題ないという事か」

「はい。今のところは……」

 

 報告に来たロウネと目を合わせると、お互い安堵するように息を吐き出した。

緊張した空気が部屋から抜けようとしていたが、ロウネが言ったようにまだ終わってはいない。少なくとも今日という日が平穏無事に終わらない限り、ジルクニフ自身への重圧が抜けることはないのだから。

 

「問題ないのであれば予定はそのまま進めることとしよう、準備をしておいてくれ」

「畏まりました」

 

 いつもより硬い声で返答したロウネが退室する。

少なくとも彼女――シャルティア・ブラッドフォールン・アインズ・ウール・ゴウンの存在とその力を知る者で、今日という日を自然体で過ごせる者などいないだろう。ジルクニフでさえ最悪の想像をしては頭をかきむしりたくなるのだ。

 できれば誰かに代わって欲しい。だが自身の地位がそれを許すはずもないし、なによりもその地位に座るジルクニフ自身がそれを許すはずがない。不毛な事を考えそうになり顔を左右に振ると、今日これからおこるかもしれない事故――もしくは災害を幾つも想像してはその対処を頭の中で組み立てる。

 

(見誤ってないといいのだがな……)

 

 フールーダが破壊した後に修復された窓の外、帝国魔法学院を見ながらジルクニフは心から帝国が、そして学院に通う生徒達が今日一日を無事に終える事を願った。

 

 

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 

 

 

 

(うぁあああ! 完全に見誤った!)

 

 表面上はあくまで授業を笑顔で受ける少女を演じつつ、その内心でモモンガは頭を抱える。

いや頭を抱えるなど生温い、想像の中、あくまで想像の中だが、頭を抱えて部屋の中を転げまわり奇声を上げるような心境だった。

 

(これが噂に聞く『ぼっちデビュー』と言うやつか、味方が一人もいない転校生という立場でこれは……)

 

 昨晩は質問攻めになった際の答えづらいであろう質問をリストアップし、その答え方をカンニングペーパーに書き写し、モモンガ自身もできるだけ覚えて何度も練習をしたというのに。

 

 出身地は何処ですか?

 シャンプーや化粧品は何を使っていますか?

 好きなタイプは? 恋人はいますか?

 

 これら面倒なモノも含めた様々な質問の返答を徹夜で――元々睡眠の必要はないが――考えてきたというのに! しかも今思い出すとまるでピクニック前日のようにワクワクしながら考えていた気がする。そしてその結果が今のこの有り様だと思うと、いろんな意味で精神的ダメージを受けてしまいそうだ。

 

 ――やってしまった。

 

 完全にやらかした。

そもそも前提が間違っていた。美少女転校生という、普通ではありえない立場がモモンガを狂わせた。中身がモモンガという残念な一点を除けば現状にすっぽりハマるペロロンチーノのエロゲー知識、それを参考にしたのが間違いだったのだ。

 今はもう完全に孤立無援、言わば無人島で遭難したようなものだ。限られた食料という名のモモンガの精神力が、現在進行形でゴリゴリ消費されている。

 

 既に今は昼前の最後の授業。

一体何が悪かったのだろうか。生徒達に無視されているといっても、侮蔑などの感情はないことはモモンガにもわかる。名前も王族としてのものではなく、平民のものに変えている。やはり名前を隠しているのを教師に説明させたのが問題だったのか、それともフールーダが保護者っぽくついてきたのが不味かったのだろうか。学院長室で長々と自慢話をした時と違って、教室に入った際のフールーダは特に変な事はしてないはずなのだが。

 

(自己紹介でイタい事は言ってないハズだし、もしくは容姿が実は悪いとか)

 

 友人の娘を褒めるような、いわゆる身内びいきなところもあるが容姿に問題は無い、と思う。

これまでの銀糸鳥を含めて帝国の人々の反応、会話をしていない周囲の人間の視線を常に集めていた事からも、シャルティアの容姿は良いはずだ。まだ登校初日だが、この教室内においてもシャルティアの美貌に迫る生徒はいないとは思う。

 

(いや待て待て。友人の娘に近い感情とは言え、教室で一番かわいいって自分で思ってる女ってどうなんだよ……)

 

 そこまで考えて――ん? と、頭上に電球が点くように閃く。

 

(ひょっとして、美少女過ぎるのが問題なのか?)

 

 あくまで借り物の体なので自意識過剰などではない、と言い訳をしつつ考える。

仮にだが、鈴木悟という学生としてシャルティアのような美少女転校生に話しかけることが出来るだろうか?

 

(無理だな)

 

 せいぜい『クラスメイトS君』くらいにしかなれない気がする。

ワイワイ会話をしているのを横目に、いつもの日常を過ごすことになるだろう。言ってみればここにいる彼らも鈴木悟と同じくシャイなだけなのではないだろうか? 本気で休み時間も勉強に集中している者もいるだろうが、さすがに全員がそうだとは思えない。

 

(まぁ女生徒までシャイというのはわからないが、チラチラこっちを盗み見ることからも興味を持っているのは間違いないよな? つまり高嶺の花になりつつあるのか? ……これも自分で言うとヤバイ女になっちゃうけど)

 

 そう仮定すると話は簡単だ。こちらから話しかければいい。

仮定が間違っていればさらに盛大な自爆をすることになる気がするが、もうこの授業が終われば昼休みなのだ。つまり時間が無い。魔法学院では学生食堂というものがある。モモンガが聞いたところによると、ほとんどの生徒が利用するためかなり広いスペースが用意されているらしいが、それでも生徒達でごった返すらしい。

 

 このままだと、そんな場所でモモンガが一人で食事をすることになるのだ。

 

(転校初日にぼっちデビューに加えてぼっち飯は流石に、嫌すぎる……)

 

 孤独に加えておそらくこれまで通り周囲の視線も集めてしまうのだろう。

そんな状況下でゆっくり食事ができるほどモモンガの神経は太くない。食事を済ませる間に何か大事な物がゴリゴリ減っていく気がする。

 これまでの経験から察するに、たとえ誰かを誘えたとしても周囲の視線は集めてしまうだろう。だがソロではなく同じ苦労を分かち合うペア相手がいるというのは心強いものだ。できれば率先して周囲の視線を集めてくれるような人間、モモンガの盾となるタンク役をしてくれる生徒が理想だが、時間のない今の状況ではそんな贅沢は言ってられない。

 

(幸いアテがないわけじゃないしな……)

 

 チラリと隣の席に視線を走らせる。

隣の席の人物には見覚えがあった。帝都に着いた日、城に向かっていた馬車を飛びだし、ゴロツキに捕まっていた少女――の幼馴染の少年。少女の方はネメルと呼ばれていたが、この少年の名前は生憎と思い出せない。だがその顔に着けられた眼帯はよく覚えていた。

 回復魔法が普及しているこの世界でそういった姿をしている人間は珍しい。なのでモモンガの記憶違いという事はほぼ無いだろう。あの時と違うところがあるとすれば、服装が違うのと少し顔色が悪いくらいだ。

 

(確率的に偶然なワケないよな。そうなるとジルクニフが手配してくれたのか、少しでも面識のある人間を隣の席にしようと……ほんと気が利くよな)

 

 内心でジルクニフに頭を下げつつ、授業が終わればどうやって話しかけるか、考えを巡らせる。

人と仲良くなるためには共通の話題を探すのが一番だ。そうなると彼ら二人を助けた日の事をネタに話を進めるのが良いだろう。だが、助けたことを恩着せがましく相手に言うのはマイナス印象を与えてしまう。まず『あの時の人ですよね?』くらいの感覚で話を振るのが良いだろう。

 相手が感謝を伝えてきたら、相手の面目を潰さない程度に謙虚に感謝を受けるのが社会人としての処世術だ。今はどちらも学生ではあるが。

 

 そして盛り上げた所で『続きは食堂で一緒にどうですか?』と自然な流れで進めればいい。

少なくとも鈴木悟であればイエスマンの如く頷いてしまうだろう。断られた時は――レイナースを出すしかない。

 

 彼女は幻惑魔法による透明化をしてモモンガの後ろ、今は教室の後方に立っている。

一応は護衛、そして透明化を見破れるような相手のための囮役だ。実際今もモモンガのお尻の辺りに彼女の視線を感じる。おそらく足元から襲撃されるのを警戒しているのだろう。人間は足元と頭上は視界が限られるので不意打ちをうけやすい、と聞いたことがある。

 

 吸血鬼化した彼女には酷だろうが、隣でお茶でも飲んでもらうだけでも幾分かマシだろう。人脈を作るという目的は初日から大失敗してしまうが。

 

 そこまで考えたところで、情報系魔法を防ぐための違和感がモモンガを襲った。

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

「なぜだっ! なぜ魔法が発動しない!?」

 

 魔法学院学院長室。

一人の男、白髪と白い髭を生やした老人が自身の魔力を注いだマジックアイテムに向かって吠えていた。

 

「やはり何か探知対策をされているのか……」

 

 どうあっても彼女に取り入らなければならない。

学院長の考えは既に固まっていた。今朝、彼女に仕えるようにこの部屋を訪れたフールーダ・パラダイン。あの帝国が誇る英雄、帝国有数の地位にいる自分でさえも足下にすら及ばない偉人。

 彼が少女の絶対的な魔法の力を子供が自慢するように語り、その門下になっていると公言した瞬間は衝撃という言葉すら生温いものだった。こと魔法に限って、フールーダ・パラダインが偽りを言う事はあり得ない。ましてや彼自身が誰かの弟子になるなど、この国に住む者であれば誰もが聞き間違いだと思うだろう。

 

(だが彼女は――あの美しい少女は外の世界から来た)

 

 一見少女の姿だが、やはり若返りの魔法を使われているのだろう。

フールーダ・パラダイン自身も長い時を生きている。おそらく魔法によるもの。ならば、その彼が仕える少女がそれ以上の魔法――神話のような力を持っていてもなんら不思議ではない。

 実際に西門での件を確認すると、フールーダ自身が自慢げに語ってくれた。

 

 彼女の力、その素晴らしさを。

 

 教団の神官が言っていた不死になるための闇の儀式を行える者。

その者達は予定日を過ぎても現れないどころか、仲介した神官を締め上げれば連絡すらとれない有り様。そんな折にフールーダ・パラダインが屈する程の存在が現れれば、やる事など一つだ。

 

 情報を全力で集めて、どんな手段を使ってでも彼女の望みを叶えなければならない。

 

 なぜ彼女が魔法学院などという帝国の人材を育てるための機関に所属したのかは分からないが、その機関の長にとっては最高の好機であることは間違いない。あらゆる権力を使い、例え国に逆らうことになっても彼女にすり寄ることに、先が短い老人に躊躇などない。

 

(それにあの少女……いやシャルティア・ブラッドフォールン様か……ふふふ)

 

 美しい少女だった。年老い、長い事忘れていた男の性を思い出してしまう程に――

 

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 まるで空間が割れるような、一瞬の光景が視界に映ると瞬く間に元に戻り、教室の授業風景に戻る。モモンガの事前に使っていた対探知系魔法が発動し、何事も無ければ相手の視界には何も映っていないはずだ。

 

(またか? 最初の授業から何度目だよ……)

 

 最初こそやや驚いたが、途中の授業を含めると最早慣れる程の回数が繰り返されている。

 

(タイミング的に学院関係者の可能性があるな。一体何が目的だ?)

 

 爆裂(エクスプロージョン)を交えた攻性防壁は使っていない。

フールーダとレイナースの話を考慮して攻撃的な探知対策は控えている。その代わりに妨害と探知を探知する魔法を展開していた。

 学院到着前に切り替えておいたのだが、その判断をした当時の自分を褒めてやりたい。仮に切り替えていなければ最初の探知防御が発動した瞬間、学院のどこかが大爆発を起こしていた可能性もある。そうなると、学院校舎の半分が吹き飛んでいたかもしれない。

 

(登校初日から爆発事件とかサスペンス学園モノになっちゃうからな。ほぼ俺が犯人だし……)

 

 探知の犯人捜しは学院に潜入しているハンゾウに任せることにして、この授業が終わった後どういう流れで隣の席の彼に話しかけるか、それを考えることにした。




「はーい、みんなー二人組作ってー」

 あまり深く話すつもりは無いのですが
シャルティアの飲食と消化器官の設定、これがわからない。
11巻の発言から液状のは……血を吸うから可能なのだろうか?

当作に関しては捏造設定タグで逃げるので、許してくださいませ。

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