アインズがこれから伝えようとする内容に多くのシモベ達は不安と緊張を隠せないでいた。自らの創造主達がなぜ去ってしまったのか、今どうしているのか…それはシモベ達にとって知りたくもあるが、触れにくい部分でもあった。確かにアインズならば全てを知っているだろうという事は皆分かっていたが、一人きりになってしまったアインズも自分達以上に心を痛めている事も多くの者は知っていた。唯一残ってくださった慈悲深き御方を傷つけるような真似は何があってもしてはならない…そういった意識をシモベ達は共通して持っていたのだが、それは忠誠によるものだけではなく下手な事をしてアインズまでもが自分達を見捨ててしまうという、ナザリックに住む者にとって死よりも恐ろしい結末を避ける為でもあった。そして、その最悪の結末に繋がりかねない部分をアインズが自ら語ろうとしているのだ。シモベ達に「まさかアインズ様までもが…」という思いがよぎるのも無理はない事だった。
(…いきなり凄い空気になっちゃったな…もう少し慎重に切り出せば良かったか。話すのは皆を安心させてからだな)
共に長い年月を過ごす中でシモベ達が何を最も恐れているのかはアインズにも分かっている。真実を伝える前に皆が落ち着いて聞けるようにしてやらなければならない。
「私がいきなりこのような事を言い出すから不安に思うのは分かるが変に勘繰らないでくれ。私はナザリックに唯一残った造物主として、そして皆の家族として責務を果たしたいだけだ」
「何故今になって、と思うだろうが…私も皆と同じように恐れていたのだ。真実を知った時に皆がどう思うか、私に対して失望するのではないか…とな」
「だが、アルベドとナーベラルは私に対する想いと共に自らが感じていた苦しみも喜びも正直に伝えてくれた。そして皆はそれをあたたかく受け入れ心から祝福してくれた。その姿に気付かされたよ、私達を繋ぐ絆の強さを…」
「だから今日、私も恐れずに真実を伝えようと思ったのだ。皆の忠誠と献身に甘えて自分だけ伝える事から逃げてばかりもいられないからな」
「私が真実を伝えるのは皆が今まで捧げてくれた忠誠に私なりに応えたいが為だ。それにより私達の絆はより一層深まり、ひいては魔導国の更なる繁栄に繋がる事を信じている。これで私の考えは伝わったと思うが…皆、私の話しを聞いてくれるか?」
アインズの突然の告白に込められた思いは自分達の懸念する事とは真逆のものだった…それを知ったシモベ達は落ち着きを取り戻し、あらんかぎりの忠誠を込めて黙礼を捧げる。そして、問いにはアルベドが代表して答える。
「アインズ様…どのような事があっても私達の気持ちは変わりません。私達を家族として扱ってくださるその深い愛情にただただ感謝致します。どうか、御心のままになさってください」
アルベドの発言を受けてアインズがシモベ達を見回すと、どの顔にも怯えの色はない。これならば大丈夫だろう。
「ありがとう、アルベド。では…」
そしてアインズは語り出す。自分と仲間達はユグドラシルとは別の次元である
そこまでを話し終えアインズは一旦言葉を区切り、シモベ達の反応を伺う。
「…にわかには信じられないだろうが私が話した事は全て真実だ。隠すつもりではなかったのだが、今まで伝えられずにすまなかったな…皆、何か言いたい事があれば遠慮なく言ってくれ」
アインズはシモベ達に声をかけるのだが、そのシモベ達はあまりにスケールの大きな話に呆気にとられていた。皆アインズの言う事は頭では理解出来る。至高の御方々が別の次元を行き来していたというのも今にして思えば思い当たる節がある。至高の御方々の本来の姿が人間であるという事実も、それならば何故至高の御方々はその姿をとらなかったのか、何故ナザリックには人間を嫌う思想を持たされた者が多いのか疑問に思う者もいたが人間である事自体は大した問題ではなかった。ナーベラルが言うようにどのようなお姿であろうと自らの創造主であり捧げる忠誠は変わらないのだから。
しかし、ユグドラシルという世界そのものが消滅し自分達も消え去ってしまう予定であり、そうならずに済んだのはアインズが最後の瞬間まで共にいてくれたから…その事は大きな衝撃をシモベ達に与えていた。そして、そのような力を持つアインズをして過酷と言わしめる世界とはどのような所なのか…御方達のそのような会話も耳にした事はあったがとても想像がつかなかった。そのためアインズに消え去る運命から救ってもらい、更には信頼と愛情を寄せらている事に興奮と感動を覚えつつもシモベ達は告げられた真実をどう受け止めるべきか困惑していたのだ。そんな中、デミウルゴスは冷静に与えられた情報を分析し自らの為すべき事を模索する。
(…我々は創造された世界ごと消滅する定めでそれをアインズ様が救ってくださっていたとは…本当になんという偉大な御方なのだ。どれ程忠誠を尽くしてもまだ足りぬ、という訳か。だが、それを伝えられどう反応すれば良い?真実を我々に伝えるのは唯一残られた造物主として、家族としての責務を果たす為と仰られたが…)
そのお心は有難い限りだが理由はそれだけではない、とデミウルゴスは確信していた。
(必ずナザリックと魔導国の莫大な利益に繋がる何かが隠されているはず。そして我々に発言の機会を与えられたという事は…恐らくはご自身からは言い出し難い何かがあるのだろう。我々が懇願する事でしか為し得ない何かが…それが我々の役割という事か)
僅かな思考の間にデミウルゴスの悪魔的叡智が詰まった頭脳は煌めきを放ち自身の役割を理解する。そして、更に思考を深める。
(御方々の真のお姿が人間というのも信じ難いが事実なのだろう…だが、それならばアインズ様の今までのお考えも説明がつく。人間の心理という物を見事に手玉にとられる訳だ。…あの時ナーベラルにご自身を人間と仮定した問いかけをされたのは我々の反応を見るためでもあったのか?ナザリックに住む者のほとんどが人間蔑視の思想を持っている故に…それを今確認されたという事は…)
その思考に至った時、デミウルゴスの中で全てが繋がる。
(…そうか、アインズ様の真意は…確かにこれならば魔導国は永遠の繁栄を約束され、英雄モモンの物語は大団円を迎える…だが、本当にそんな事が可能なのか?…いや、出来るからこそ真実を告げられたのだろう。…クク…それにしてもなんという…)
デミウルゴスはアインズの遠慮深謀とそこに辿り着けた自身の頭脳に瞬間酔いしれるが、心から愉悦に浸るのは事を成し遂げてからだ。
(アルベド、ナーベラル。アインズ様の真意が分かった。私に任せてくれ)
デミウルゴスは自身のすぐ前にいる二人の妃にだけ聞こえるよう声を発する。
(…やはり何かあるのね。分かったわ、あなたに任せます)
(…了解致しました)
告知の時にこういった事があるかもしれないというのは聞いていたので、アルベドとナーベラルは了解の意を伝えるため僅かに頷く。それを確認し、デミウルゴスは行動を開始する。
「アインズ様、我々を信頼し真実を打ち明けてくださった事に感謝の言葉もございません。お伝えくださった全てを受け入れ、そのお心に応えられるよう更なる忠勤に励む事を配下を代表してお誓い申し上げます。お許しが出るのであればすぐにでもその証をお見せしたいのですが…宜しいですか?」
と、さりげなく真意を察した事をアインズにアピールするデミウルゴス。
「私の話を理解してくれてありがとう、デミウルゴス。勿論許すとも、お前達の気持ちを私に見せてくれ」
(なかなか理解出来ない話だと思ったけど、流石デミウルゴスだよな~!このままだと収拾つかなくなりそうだったから助かったよ…)
デミウルゴスが自身の真意?に辿り着いたなどと夢にも思わないアインズは、気まずい沈黙が長くなる前に発言してくれたデミウルゴスに感謝しつつ許可を出す。
「ありがとうございます、アインズ様。…皆!アインズ様は我々を信じて真実を伝えてくださった!そして、その慈悲深きお心で我々を消え去る定めから救ってくださったのだ!その事に感激しない者はいないだろう!皆の気持ちをアインズ様にお伝えせよ!」
デミウルゴスがそう告げると、シモベ達はようやく困惑から開放され次々とアインズを讃え敬う声をあげる。
「アインズ様、我々を救ってくださりありがとうございます!」
「慈悲深きアインズ様、これからも私達を御導きください!」
「至高なる御方に永遠の忠誠と献身を捧げます!」
その渦は瞬く間に広がり、熱狂が玉座の間を埋め尽くす。
その光景をアインズはオロオロしながら眺めていた。
(また大変な事になったぞ…救ったといってもたまたまそうなっただけなんだけどな…こうなったら最後までデミウルゴスに任せるしかないか…)
アインズは自身が何か言っても火に油を注ぐだけだと思い、シモベ達の歓声に手を振り応えながら事態が収束するのを待つ事にする。
デミウルゴスはというと、その喧騒に紛れて二人の妃と守護者達、そしてセバスにアインズの真意を伝えていた。
「皆、アインズ様は人の姿になられるおつもりだ。しかしそれには我々から真のお姿をお見せしてくださるようお願いする必要がある。協力してくれ」
「どういう事?それがアインズ様の真意だと言うの?」
「詳しくは後で話す。だが、これは我々がアインズ様に懇願しなければ為し得ない事なのだよ、アルベド。御方が我々の思想を大切にしてくださるが故に…」
「そして、人のお姿になられるというのは君とナーベラルにも益がある事だ。これならば分かるだろう?」
「…!…そういう事ね。協力するわ」
ナーベラルはキョトンとしていたが、アルベドは全てを理解し協力を約束する。
「くぅ…アインズ様のお姿が変わるのは悲しいでありんすが…それがお望みなら仕方ありんせん…加勢しんす」
「アタシは人のお姿のアインズ様見てみたいな~!ねっ、マーレ!」
「う、うん。ボクも見てみたいです…」
「アノトキ、手ガ無イ訳デハナイトオッシャッタノハソウイウ事ダッタノダナ」
「分かりました。プレアデスにも協力させましょう」
「皆理解してくれたようだね…では、この喧騒はもう少ししたら私が収める。その後でアルベド、君に最初にお願いしたき儀があると発言してもらおう。ナーベラルはそれに倣ってくれ。我々はその後に続く…皆、いいかな?」
全員が頷きデミウルゴスが行動を起こすのを待っている間に、ナーベラルは疑問に思っていた事をアルベドに聞いてみる。
「アルベド様、先程デミウルゴス様が仰っていた益とはどういったものなのですか?」
その質問を受けたアルベドは驚きの表情でナーベラルを見る。
「あなた…本当に分からないの?」
「ハッ、愚かな私の理解が及ぶ所ではありません。お許しを…」
アルベドは事の重要性を全く理解していないライバルに適当な事を教えて差をつける事も考えたが、申し訳なさそうに目を伏せるナーベラルがなんだか可愛く思えたので益という言葉の意味する所を教える事にする。
「お世継ぎの事よ」
「…?…」
この初心なドッペルゲンガーはまだ分からないらしい。
「人のお姿であれば私達とも生殖行為が出来るでしょう?そういう事よ」
「…!…そんな…私などとても…」
ここまでハッキリ言われてようやく意味を理解したのか、頬を赤らめ慌てて自分はそのような器ではないと否定するナーベラル。そんなナーベラルの姿にアルベドは微かに嫉妬を覚える。
(…薄々気付いてはいたのだけど…アインズ様は私やシャルティアみたいにガツガツいくよりもこれくらい初心な方がお好きなのよね…父性を刺激するというのかしら?もっとも、負けるつもりはこれっぽっちもないけれど)
「あら、そんな風に恥じらうあなたは十分魅力的よ。…私程ではないけれどね」
そう言って艶やかに微笑むアルベドをナーベラルは心底美しいと思った。
(このお方にはなにもかも敵わない…でも…)
(こんな私の事もアインズ様は心から愛してくださると仰った…)
その事を想うと心の奥底から喜びが込み上げてくる。
(敵わないけれど、私なりにアインズ様を精一杯お支えするわ)
そう決意を固めるナーベラルであった。
今回はここまでとなります。読んでくださった皆様ありがとうございました!本来なら文章の中でNPCとシモベの書き分けをするべきなんですが、面倒なのでしておりません笑
気になる方には申し訳ないです…
オバマスのシャルティア可愛いですね~!これから周回頑張ります笑