山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在フランス・ジャーナリスト
産経新聞パリ支局長を1990年から2011年までつとめる。著書に『ドゴールのいるフランス』(河出書房新社)、『フランス人の不思議な頭の中』(KADOKAWA)、『原発大国フランスからの警告』(ワニブックスPLUS新書)、『フランス流テロとの戦い方』(ワニブックスPLUS新書)、『ココ・シャネルの真実』(講談社+α新書)、『パリの福澤諭吉』(中央公論新社)など。ボーン・上田記念国際記者賞、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。
ヨーロッパに広がる新型コロナウイルスの感染で風俗習慣から政治まで地殻変動が
イタリア政府の対応は国内外から激しい批判を浴びている。新型コロナウイルスへの危機管理を地方に任せきりにして、国家的規模で対策に当たらなかったからだ。たとえば感染患者が出たふたつの家庭は、コンテ首相の政敵である右派政党「同盟」の統治下にあるため、迅速な国家的対応を怠ったという批判もある。
こうしたなか、アイルランドは26日、3月6日にダブリンで開催するラグビー「シックス・ネイションズ(欧州の6カ国参加の対抗試合)」の「アイルランド対イタリア」の試合を無期延期にした。
一方、フランスは26日、中部リヨンで開催するサッカーの欧州リーグ戦、ユヴェントス(伊北部トリノ本部)対オリンピック・リヨン(リヨン本拠)の試合を強行した。トリノを中心にイタリア人サポーター3000人が来るとあって、社会党の元大統領公認候補のロワイヤルは、「理解しがたい。なぜ、政府もリヨン市も試合延期か中止にしないのか」とカンカンだ。コロン・リヨン市長はマクロン政権の元内相だ。
極右政党のルペン国民連合(RN)も「イタリアとの国境を封鎖せよ」と叫ぶ。党首のルペンは元来、反移民の立場から、欧州連合(EU)、シェンゲン協定(EU域内各国を中心に出入国審査免除)への反対を主張しているが、今回の新型コロナウイルス騒動は、「国境封鎖」の願ってもない口実になりそうだ。
野党から攻撃を受けるマクロン大統領は27日、「イタリア恐れるに足らず、国境封鎖の必要なし」の範を自ら示すためか、「第35回仏伊首脳会議」出席のため、イタリア南部ナポリに乗り込んだ。通常は外相、経済相が同行する程度だが、今回は内相、法相、文化相、国民教育相、欧州担当相ら約10人が同行した。国内での対策があり同行しなかったヴェラン保健相(神経科の医師でもある)は、「国境封鎖は何の意味もない、効果なし」と述べている。
「シェンゲン協定」は特別の理由がある場合は、「協定」を解除して、国境を封鎖することが可能だ。フィリップ首相は27日、ルペンら各党党首と、国民議会(下院)及び上院議長を召集して緊急会議を開き、イタリアの二の舞を踏まないように国内対策を固めた。重症者救済のために、すでに70の集中治療室の増室も決めている。
フランスは2週間後に市町村選挙(比例代表制、2回投票=3月15日、22日)を控えている。「新型コロナウイルス騒動」を利用した国民連合ら野党の戦術が「吉」と出る可能性はある。
そんなか、与党・共和国前進(REM)のパリ市長の公認候補バンジャマン・グリボーが、セックス・スキャンダルに見舞われ、候補を辞退した。保険相から横滑りしたアニエス・ビュザンが急きょ、候補になったが、地味な存在のビュザンでは社会党公認候補で現職のアンヌ・イダルゴには勝ち目はない、とみられていた。イダルゴは各種世論調査でグリボーをはじめ、他党候補者に5、6%の差をつけて優勢だったからだ。ところが皮肉にも、新型肺炎蔓延の危機を背景に、血液学者でウイルス問題にも詳しい元医師のビュザンの支持率が急上昇。情勢が読めなくなってきた。
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