たまにはアーデさん家のリリルカさんが強くてもいいじゃない   作:ドロップ&キック

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大体、サブタイ通りの内容です。




第11話:”たまにはルストラさん視点があってもいいじゃない”

 

 

 

その日、ソーマ・ファミリア団長”ザニス・ルストラ”は非常に苛立っていた。

いつまで経っても望んだ報告……自分の地位を脅かしかねない実力者、”リリルカ・アーデの死”を知らせる報告が入ってこないのだ。

 

おかしい……そう思ったのはつい最近のことだ。

ふと、ファミリアの外でとある”表沙汰にできない相手”と会合していたときに、ふとリリルカ・アーデの名が出たのだ。

その前後はよく覚えていないが、その男が

 

『リリルカ・アーデはソーマ・ファミリアなんだろ? 使い物にならん飲んだくれの集団かと思っていたが、中々どうしていい手駒がいるじゃないか? 戦闘狂の()()()はあるが、それを含めても悪くない』

 

そう言ってたのは覚えている。

ふと、思った。

 

(リリルカ・アーデ? どんな奴だったか……?)

 

ソーマ・ファミリアは全員を把握できないほど大きなファミリアではない。

だが、不思議なほど印象がなかった。

 

それもザニスはすぐに合点が言った。

ザニスはソーマ・ファミリアの実権を握るために『上納金制度を設定し、上納金の上位者のみ報酬として神酒(ソーマ)を分配する』というシステムを考案した張本人だ。

基本、ソーマ・ファミリアの団員は神酒目当てに集まってきたゴロツキと言っていい。故にこのシステムは効果覿面だったが……

 

(おそらく、一度も上納金上位者に名を連ねていない……)

 

なら、自分が覚えていないのも無理はない。

その日は、そう思った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

だが、後日リリルカ・アーデの名が妙に引っかかっていたザニスは、記憶の糸をたぐりよせる。

すると自分と彼女に唯一、印象深い……それもネガティブな意味での接点があったことを思い出したのだ。

 

団員の一部がリリルカがヴィーザル・ファミリアに入り浸ってることを嗅ぎつけ、金をせびりに行ったらしいのだ。

それが向こうの獣人の団長の逆鱗にふれ、半殺しで簀巻きにされ連行された挙句、「戦争遊戯」を仄めかされた。

 

相手は新進気鋭として知られていた規模は中堅の下の方とはいえ武闘派揃いの探索系ファミリアで、団長に至っては既に当時Lv3の冒険者だったのだ。

対して自分たちはLv2が自分と飲兵衛で生意気だが、飲んでれば基本無害なドワーフだけ。残る団員は膨大な金銭が要求される上に「金を持っている」と付け狙われかねないレベルアップより、神酒目当てに金を使うためにLv1ばかりだ。

 

だからこそ、そんな顔も良く覚えてないような団員のために勝ち目のない戦いをする気はないザニスは、リリルカに一切干渉せずとした。

約束を違えば、即座に「戦争遊戯を執行する」と脅されもしたので頷くしかなかった。

この男、基本小心で臆病なのである。

 

 

 

だが、それ以降にリリルカの名を聞いた覚えはない。

不自然だった。

そのエピソードがあってから、記憶が正しければ数年の月日が流れたはずだ。

改めて上納金のリストを見ると……

 

(上納金自体が、全くの”()()”だと……!?)

 

上位者どころか名簿に名こそあるが、その上納金額は常に0を刻んでいた。

酒目当てのソーマ・ファミリアの団員としては明らかな異端だ。

 

これを不審に思ったザニスは団員達にリリルカのことを聞いて回った。

比較的団員歴の浅い者が

 

『あれ? そんな奴いたっけ?』

 

という反応だったが、

 

『ああ、奴ならダンジョンに頻繁に潜って荒稼ぎしてるってよ。ちょっと前に奴を襲いに行くって息巻いていた連中がいたが……そういや、最近見ないな』

 

そんなコメントが返ってきた。

自分が作った組織とはいえ、あまりの横のつながりの薄さに頭を抱えたくなったザニスだったが、自業自得と考えないところがいかにも彼らしいといえた。

 

そこでザニスは渋々ながら大好きな金を使い、リリルカを調べさせた。

判明したのは驚愕の結果だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

リリルカは、あれでも極力自分の行動を目立たぬようにしていた。

例えばLv1時代、”平原の主”討伐の功績で沸き返るオラリオの街に凱旋するヴィーザル・ファミリアを尻目に、彼女は一行の荷物に紛れてコッソリとオラリオに帰って来た。

公式にも非公式にも、リリルカが討伐遠征に参加した記録も文章もない。

あるのは参加し、生き残った者達の記憶の中だけだ。

 

そして、ザニス不在のときを見計らい気づかれぬようにソーマ・ファミリアに忍び込み、神ソーマの手でLv2に昇格した後は発現した強力な発展アビリティの恩恵もあり、これまで以上に「気取られることなく大胆な活動」を取るようになった。

 

それが結果としてリューとの縁に結びつくわけだが……当たり前だが、リリルカは常に”隠者行(ハーミット)”を発動させているわけではない。

今でこそ呼吸するようにオン/オフを切り替えられる……と評するのは大袈裟にしても大分扱いに慣れたが、本来その発動には高い集中力がいるのだ。

 

だからこそ、発展アビリティを発動させてないリリルカは実はかなり目立つのだ。

何しろ犬耳と尻尾を生やしたパルゥムが、身長より長い柄の付いた巨大なウォーハンマー担いでダンジョンを一人でうろうろしてるのだ。

これで目立つなと言うほうが無理だろう。

蛇足ながら、リリルカがその「団員らしくない行動」からソーマ・ファミリア所属だと知る人間が驚くほど少なかったことも追記しておく。

 

おかげで情報はすぐに集まったが……それを見た瞬間、ザニスの全身から冷や汗が流れた。

 

(Lv1なんてもんじゃねぇ……!!)

 

一例を挙げるだけでも、リリルカは”単独(ソロ)()()も”、18階層……通称”迷宮の楽園(アンダー・リゾート)”を訪れているというのだ。

17層にいる階層主のゴライアスを単独で倒す……なんて馬鹿げたエピソードは流石になかったが、それでもLv1が地上とアンダー・リゾートをソロ往復すると聞いて「凄いね」で済ますほどザニスも愚鈍ではない。

 

 

 

おかしい。

明らかに異常だ。

そしてザニスはその異常を可能とする唯一の存在を知っていた。

敬うフリをして内心は見下げはてている神ソーマだ。

リリルカがどういう事になってるのか問いただそうとした刹那……いきなり神威を天界に戻されない程度に開放された。

 

『リリルカ・アーデに関して問うことは一切許さん』

 

決まりだった。確定的だった。

だが、同時に手詰まりになった。神が神たる所以の力を見せるのであれば、自分たちが無力であることをザニスは思い出したのだ。

 

結局、ザニスは状況証拠的に「限りなく黒」であっても、リリルカが極秘裏にLv2に至っていた確証は得られなかった。

そしてだからこそ不気味だったのだ。

酒に溺れることもなく……それは自分の意に従わないことを意味し、そんな者が()()()()()()()()()()()()()()()()推定Lv2冒険者としてファミリアに存在することが許しがたかった。

 

それは根本的にはリリルカに対する恐怖心だった。

そして繰り返すが、ザニスの本質は小心の臆病者だ。

だから恐怖と向き合うことを由とせず、排除することに決めたのだ。

 

 

 

だが、ザニスは詰めが甘かった。

単にケチたのか秘密の漏洩を恐れたのかは不明だが、”後ろ暗い副業”のツテで知り合った「対人戦のプロ」へ相応の金額を積んで外注するのではなく、自分たちの身内で全てを処理しようとしたのだ。

 

カヌゥ達はLv1ではあるが、キラーアントを用いた”怪物進呈(パスパレード)”を誘発させれば抹消できると考えていたのだ。

確かに自分を基準にすれば正解だろう。

 

だが……結局、ザニスは情報を得ようともリリルカ・アーデと言う少女を全く理解していなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のノルマ:物語の背景をザニス視点から書いてみる

クライマックス前に、どうしても「何故、ザニスがリリを殺そうとしたのか?」を入れてみたくなったので書いていました(^^

ザニスって悪役としてはいいキャラしてると思うんですよね~。

ご感想お待ちしてます。

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