また全人代、全国政協を開催すれば、国内外メディアの関心は新型コロナ肺炎問題に集中する。湖北省の人民代表たちは記者に追い回され、つるし上げられるだろう。いや、湖北省どころか中央の責任が公開の記者会見の場で追及されかねない。
習近平の恐怖政治は、長らくメディアの自由な取材や発信を封じてきたが、ここにきてウイルスへの恐怖が政治の圧力よりも勝る部分が出てきている。そのため中国メディアも時として、政権に不利、批判的な報道をするようになってきた。
また憲法75条では、全人代会議での発言は法律上の責任を追及されない「免責」扱いになっているので、記者に追及されれば、地方の指導者たちから習近平批判の発言だって飛び出してくるかもしれない。実際、武漢市長の周先旺はCCTVのインタビューで、中央の指示がなかったから情報公開できなかった、という趣旨の、中央に責任を擦り付ける発言をしている(それをCCTVもカットせずに放送した)。たとえば今回の新型コロナ対策の組長を務める鐘南山が記者の質問に答えて、習近平に責任があるような発言をすればどうなるか? 今年の全人代は、とくに政権の禅譲もなく、憲法の修正案もなく、5カ年計画など重要な討論テーマもない。3月に開催されることは政権にとって害の方が利より大きい、と劉鋭紹は言う。
「ウイルス漏洩説」の背景に権力闘争?
ところで今回の肺炎対策において、習近平に指導者としての責任がどのくらい問われるのか、あるいはまったく問われないのか。
習近平は共産党理論誌「求是」(2月15日)で1月7日の政治局常務委員会議で、新型コロナ肺炎の対策指示を自ら出していたとする論文を寄稿し、1月初旬から自分が陣頭指揮に立って指示を出してきた、と主張している。つまり、指導者としてなすべきことはしていた、現在の結果は指示をきちんと遂行しなかった湖北省、武漢市の幹部の責任と言いたいのだろう。
だが、匿名の党内人士が香港紙明報などに漏らしたところによれば、1月7日の段階での習近平の指示は、「春節に影響を与えないように」という内容だったらしい。つまり事態の深刻さを理解できていなかった。さらにその党内人士によると、中国疾病予防コントロールセンター主任で英国に留学経験もあるウイルス学者・高福は12月下旬からすでに事態の深刻さを理解し、1月6日に「二級緊急対応措置」を中央に求めていた。それにもかかわらず、上層部がその深刻さを理解できなかったと漏らしていたという。高福としては、国際医学雑誌を通じて警告を発することぐらいしかできなかったらしい。
こういったリークは、習近平に衛生官僚たちが不満をもっていることが背景にあると考えるべきだろう。単純に責任のなすり合いとみる向きもあるが、もう少し穿ってみれば、高福はじめ中国体制内科学者の背後には江綿恒(江沢民の息子)の影がある。江綿恒は半導体物理の専門家として中国科学院副院長まで務めた人物だが、中国科学院在籍中には時の政権トップの父親の指示を受けて中国科学院上海生命科学研究所を設立するなど、中国科学院の組織改革を通じてバイオ分野の利権を上海閥・江沢民閥の手中に収めた立役者である。高福はその経歴から、こうした上海生命科学研究利権の一員とみられている。
今回の新型コロナ肺炎の発信地にある武漢ウイルス研究所の39歳の若き女性所長・王延軼の夫、舒紅兵(武漢大学副校長)も、江綿恒バイオ利権に連なる人物だとみられている。舒を武漢大学にねじ込んだのは江綿恒、その妻を通じて間接的武漢ウイルス研究所を軍の生物兵器研究の地盤としてコントロールさせていた、というまことしやかな噂もあった。