[CEDEC 2018]「Vive Tracker」を使うときの注意点とは? 「Vive」の最新情報が披露された講演をレポート
本講演は,VRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)「Vive」に関連した製品の最新情報と使いこなし方をまとめたセッションで,2017年に西川氏が行った講演(関連記事)に続くアップデート版となっている。そのため,2017年のレポートと若干内容が重複する部分もあることを断ったうえで,Viveの最新動向をまとめてみよう。
Vive Trackerが不安定になる場合の対処法とは?
本来であれば,Vive Trackerは,特殊な周辺機器を必要とする人や,業務用VRコンテンツの開発者くらいにしか縁のないものだったかもしれない。しかし,CEDECの講演とはいえ,HTCがVive Trackerをメインに据えたトラブルシューティング情報を大きく扱うというのは,異例のことではないだろうか。
それもこれも,コンシューマに近い層がVive Trackerを大量に導入しているためで,最大7個のVive Trackerを使うVRライブ・コミュニケーションサービス「バーチャルキャスト」が,HTCの予想以上に流行ってしまっているためだ。
西川氏がHTC本社に,Vive Trackerを21個も使う環境について報告したところ,ものすごく驚かれたとのこと。バーチャルキャストの出演者が3人いると,21個のVive Trackerが1か所に集まるのだ。
しかしSteamVRでは,1つのシステムでトラッキングできるデバイス数は,最大で16個までとなっており,21個は扱えない。そして16個のデバイスには,Vive本体やハンドコントローラ,さらにはベースステーション自体も含まれる。つまり,Viveのフル装備では,バーチャルキャストを2人トラッキングすることさえ無理ということだ。
Vive Trackerの動きが不安定になる原因は多岐にわたっており,順につぶしていくしかないようだ。原理的にはVive Trackerに限定しない問題が多そうに思えるが,Vive Trackerは,とくにトラブルになりやすいのだろうか。思えば東京ゲームショウ2017のHTCブースで,最後まで正常に動かなかったのはVive Trackerを使った出し物だった。
●ソフトとドライバを最新に
Vive Trackerを使用する場合は,SteamVR,Viveのファームウェア,グラフィックスドライバソフトなどを最新版にすることは必須とのこと。
「グラフィックスドライバがなぜ?」という気もするが,西川氏によると,「最新にすれば安定する」のだそうだ。
●ベースステーションとVive Trackerの間は遮らない
Vive Trackerとベースステーションの間を遮らないようにするのもコツであるという。ベースステーションが放つレーザーの経路に障害物があると,トラッキングがうまくいかないそうだ。出た腹は引っ込めよう。
また,バーチャルキャスト役の胴体部に付けたVive Trackerは,ポーズによってはベースステーションから見えなくなるため,トラッキングが破綻する。手に何か持っていたりしても障害となるだろう。西川氏によると,「(取り付け場所を)背中側にしたほうがいいのではないか」とのことだった。
余談だが,Vive Trackerを大量に使ってモーションキャプチャを行うモーションキャプチャシステム「Orion」(開発はIKinema)では,胴体のVive Trackerを背中側に付けている。
●赤外線の干渉をなくす
Viveは,モーショントラッキングに赤外線センサーを利用しているので,ベースステーション以外の赤外線発生源があると,誤動作を起こす可能性がある。たとえば,強い熱源や直射日光,赤外線を発する監視カメラなどに注意が必要だ。床面がツルツルだった場合なども赤外線の反射で誤動作を起こす。
「ニンテンドー3DSのカメラを使うと,赤外線の光源が紫色に光って見える」とのことなので,テスト環境のチェックに使ってみるといいかもしれない。
また,多数のベースステーションを使う環境では,ベースステーションから出る赤外線が広がりすぎないよう,覆いをつけることも推奨しているそうだ。HTCでは,角度を調整できるベースステーション用カバーをダンボールで作るための型紙を用意しているとのこと。ベースステーション同氏の干渉で困っている人は,同社に問い合わせてみよう。
●2.4GHz帯の電波干渉をなくす
ちなみに,2.4GHz帯の電波干渉が起きると,PC画面に表示されているVive Trackerのアイコンがプルプル震えたり,浮かんだり,あるいはVive Trackerのアイコンが点滅したりするとのことだ。
●ドングルは密着させない
ドングル同士を密着させるのはトラブルのもとだそうだ。10cm程度離しておくのがいいとのこと。ドングルがPCに近すぎるのもよくないらしい。
●どうしてもダメなときはケーブルでつなぐ
どうしてもダメなときは,Vive TrackerをUSBケーブルでつなぐことが推奨されている。この場合,ドングルは使わないほうがよいとのこと。
体から7本ものケーブルを伸ばしたり,ケーブル付きのバットを振り回したりというのは危なそうだが,最終手段として覚えておこう。
ベースステーション2.0の注意すべき点
Vive Proとともに導入されたベースステーション2.0は,トラッキング範囲を拡大したもので,Vive Pro最大の特徴ともいえる。ただ,ややこしいことに,Vive ProはHTC製品であるものの,ベースステーション2.0は,実のところValveの製品なのだという。
そのため,HTCでは分からない部分も多く,本来ならサポートもできないのだが,Vive Proのフルセット版に同梱している都合もあり,「現状ではValveに問い合わせて分かる範囲で対応している」と,西川氏は説明していた。
ベースステーション2.0は,1.0と精度は変わらないものの,4台使用することで最大10×10mまでのトラッキング範囲をサポートする。赤外線レーザーの照射範囲が水平垂直ともに120度だったベースステーション1.0とは異なり,ベースステーション2.0では,水平150度,垂直110度と,赤外線の照射範囲が変わっているという。
ちなみに,四角い部屋の中に設置する場合,部屋の角に設置するのではなく,辺の中点に設置するようにと,西川氏は注意していた。部屋の隅のあたりでは,トラッキングが甘くなる可能性があるようだ。
なお,講演会場では,ベースステーション2.0を縦に並べて部屋の角に設置すると,隅々までトラッキングできるという報告もあった。ただ,西川氏によると,サポート対象外の使いかたなので,今後のアップデートで動作がおかしくなることがあるかもしれないとのことだった。
さて,ベースステーション2.0のIDは16まで用意されているので,さらに設置台数を増やすことで,より広いトラッキング範囲を実現できないかと考える人は多いらしい。しかし,Valveの公式見解では,最大4台の使用で10m四方が上限とのこと。
なんでも,HTCの台湾本社で実験したところ,複数台使うことで広範囲のトラッキングを実現できたらしいのだが,それをつぶやいた直後※に,Valveが「サポートしてない」とツイートしたそうで,やっちゃいけないことだったらしい。
※編注:HTCの中国地域担当プレジデントであるAlvin Wang Graylin氏のツイートから始まる一連のツイートがそれのようだ。
Looks like there’s a little #surprise in the new #SteamVR Beta! Our lab here just linked upto 16 #basestations 2.0 together to cover multiple rooms into a single virtual tracked space w/ the #VivePro! Large space #VR setup costs are about to drop exponentially!?? Thanks Valve! pic.twitter.com/kPDG4xMErG
— Alvin Wang Graylin (@AGraylin) 2018年7月11日
まず,SteamVRの設定で「Bluetoothコミュニケーションを有効化」にチェックを入れたうえで,ベースステーションをスキャンすると,周囲にあるベースステーションが一覧表示される。一覧には,各ベースステーションのチャンネル番号(=ID)があるので,変更したいチャンネル番号をクリックして,手動で変更できる。番号にこだわりがなければ,オート設定も可能だ。
Vive Proの前面カメラを使ったAR機能も披露
Vive Proの前面カメラは解像度が640×480ドットと非常に低いので,画像は画素数から予想する以上にボケた低画質のものだ。会場が暗かったこともあってか,生成した地形は穴が多めだったが,床に向かって投げたボールが跳ね返るといった具合に,実際の地形やオブジェクトを認識した動作が確認できた。
Vive Proの広いトラッキング範囲を前提としたのか,講演会場は結構広かったので,遠くのオブジェクトは認識できなかったようだが,手足のように近くの物体は,比較的うまく認識できていたようだ。
SLAM機能のデモでは,Vive Proを被って見渡した部分がどんどんポリゴン化されていき,ディテールが増えていくような様子が確認できた。オブジェクト化された空間に,テクスチャをマッピングして表示するようなこともできる。
ポリゴンの精度などは粗めで,移動時の障害物探査を優先しているような雰囲気はある。AR機能をどういうふうに使っていくのかは,アイデアが試されるところになるだろう。前面カメラの解像度が低いのが,つくづく残念だ。
なお,HTC純正のVive用ワイヤレス通信ユニット「Vive Wireless Adapter」は,日本国内での使用には対応しないことになったという(※TPCast製のワイヤレス化キット「TPCAST Wireless Adapter for Vive」は技適取得済み)。そのため,より広いエリアで使えるVive用ケーブルが求められている。西川氏によると,動作確認の取れたLindy製の5mケーブルの利用を,HTCでは推奨しているとのことだ。
Vive Focusは12月に国内発売決定
改めてまとめておくと,Vive Focusは,Androidベースのスタンドアロン型VR HMDで,SoC(System-on-a-Chip)には「Snapdragon 835 Mobile Platform」を採用している。国内でも販売中のLenovo製VR HMD「Mirage Solo」と同じく,前面に装備する二眼カメラを使ったInside-Out方式による6軸自由度(6DoF)のモーショントラッキングに対応しており,身体の動きにVR空間が追従するクセの少ないVRデバイスといえるだろう。
また,液晶パネルにVive Proと同じ解像度のものを使っていることも,Vive Focusの大きな見どころだ。
中国では,約4000元(約6万4786円)と少し高めの価格設定で販売中のVive Focusだが,グローバルリリースは2018年12月ということしか公表されておらず,国内発売についての情報もなかった。
そんなVive Focusが,ようやく技適を取得できたそうで,日本での展開に向けて大きな進展があったようだ。CEDEC 2018会場でも,TSUKUMO(ツクモ)ブランドを展開するProject Whiteのブースで日本初公開の展示が行われていた。
西川氏の講演では,VR映像をストリーミングするアプリケーション「VRidge」(関連リンク)を使って,Vive Focusの画面をWindows 10搭載PCへと転送したり,逆にPCの画面をVive Focusへ転送する方法などが説明された。
また,前面カメラで捉えた映像も示されたが,Vive Proよりは解像度が高いものの,なぜかモノクロ仕様であるという。Vive Proのカメラ解像度もそうだが,実際にカメラ側のスペックが低いのではなく,デモの仕様による制限ではないかと,ちょっと疑っている。今どきこのスペックはないと思うのだが……。
Vive Focusの国内発売日や価格は,まだ発表できないそうだが,12月に国内発売となるのは間違いないらしい。国内価格は,中国での価格と大きくは変わらず,少なくとも日本だけ大幅に高くなることはないとのこと,待ち望んでいた人は一安心といったところか。
とはいえ,Oculus Goが3万円未満,Mirage Soloが5万円を切る価格で買える現状にあって,推定7万円台というのは楽な価格ではないだろう。Vive Proと同等の画面解像度を有することも考慮すると,先行の2製品より安くなるわけもないのだが,まだVive Focusならではといった売りは見えてこない。
電源ボタンのダブルクリックで外界が見えるというのは,悪くないアイデアなのだが,はたして国内ではどのように評価されるだろうか。