映画評論家が観る朝ドラvol.4「ヴァンプ女優の快演」
数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。『スカーレット』第19週(2月10日〜15日放送)を振りかえって思うところを訊いた。
第19週「春は出会いの季節」
この週で川原家のゴッドマザー、マツ退場。あのお父ちゃんの傍若無人ぶりに耐えた・・・というか、いたってフツーに付き合ってきただけある強靭な神経の持ち主。家計が破綻しそうになろうとも娘の穴窯造りを支援したりと、晩年もかなりな女丈夫ぶりを見せてくれたお母ちゃん。
町のコーラス隊の練習をしすぎてほぼ一週間声が出ないまま、なんてコメディ・リリーフ役も果たしてくれたが、ここ最近映画やTVで「日本の母」化してる富田靖子が滋味深く演じてくれたのはこのドラマの収穫のひとつだ。欲を言えば、『まんぷく』の松坂慶子ばりにもっと表に出るエピソードがあっても良かったのだが。
まあ、なんといってもこの週は、烏丸せつこ演じる元女優・小池アンリの登場に尽きる。「優れた芸術品は会話をします。先生の作品はおしゃべりやなくて音です」と喜美子の作品を指で触り、「これはカントリーブルース、これはワルツ・・・」と無邪気にはしゃぐ。
御馳走するワインを調達してくるため何日も失踪する(本人にそのつもりはさらさらないが、このテの人種に慣れていない喜美子は気が気じゃない)など、奇行を連発するぶっ飛んだ女性(でもこれぞ市井の芸術愛好者の姿であり、良きパトロンではないのかね)。
かつて『四季・奈津子』でダイナマイト・ヌードを披露して本格デビューし、私生活でもいくつかのスキャンダルを起こしてきたちょっとしたヴァンプ女優(男を誘惑する妖婦)でもある烏丸は、自身の過去をいくらか投影したような快演を見せてくれる。
湯水のように金を調達してくるワケ判らん難儀なおばはんが、喜美子の数少ない理解者であり友人となるまでの過程も、烏丸のキャラあればこそ違和感がないのだ。
ちなみに伊藤健太郎演じる(って、すでに退場した三津役の黒島結奈とは『アシガール』コンビだな)息子の武志は、京都の美術大に入学、放送1日後には卒業して故郷に戻り、信楽窯業研究所に就職して独り暮らしを始めた。いくらか関西弁が拙いものの、俳優としての健太郎には旬の実力派としてさすがの爽やかさと華がある。
文/ミルクマン斉藤
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