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 広島・長崎の原爆は、いまも多くの人々の体に病を引きおこしている。新たに最高裁が出した判断を、国は救済の道を狭める口実にしてはならない。

 被爆者援護法が定める原爆症は、認定に二つの要件がある。放射線で病になったとする「起因性」と、治療が必要な状態を指す「要医療性」である。

 原爆の影響は未解明な部分が多いため、症状が悪化したり、手術の必要性が生じたりしないかなどをチェックする経過観察の通院をすることがある。

 最高裁は、そうした経過観察が要医療性に当たるかどうかについて、「不可欠で、積極的な治療の一環といえる特別の事情が必要」との判断を示した。そのうえで原爆症の認定を求めた被爆者3人の訴えを退けた。

 判決は、経過観察の目的はさまざまで、観察中だというだけで、ただちに要医療性を認めることはできない、とした。

 一方で、病状の悪化や再発の可能性などによっては原爆症の認定につながりうるとし、個々の被爆者の状況を個別具体的に判断すべきだと指摘した。

 裁判長を務めた判事は補足意見で、今回訴えた1人も、今後の状況次第で「特別の事情」が認められる可能性を否定するものではない、と述べている。

 こうした判決の趣旨を踏まえれば、国は被爆者の個々の訴えを丁寧かつ誠実に審査する責務を認識すべきである。

 振り返れば、国は被爆者を切り捨てるような態度をとり続けてきた。原爆症の認定率はかつて全被爆者の1%足らずにとどまり、これを不服とした被爆者が各地で集団訴訟を起こして、約9割の人が勝訴した。

 被爆者の裁判闘争と司法判断で対応の改善を迫られた国は、それでも2014年から要医療性の基準を厳しくしてきた。今回の判決で、お墨付きを得たと解釈するならば被爆者らの不信と失望をいっそう深める。

 政治の責任も重い。09年には当時の麻生太郎首相と日本原水爆被害者団体協議会が「今後、訴訟の場で争う必要のないよう解決を図る」と合意した。

 合意に盛り込まれた厚生労働相と被爆者との定期協議は続いているが、認定基準の改善を求める被爆者の要望に国は応じていない。原爆症認定をめぐる訴訟も続いている。

 95年施行の被爆者援護法は、前文で「一命をとりとめた被爆者にも生涯いやすことのできない傷痕と後遺症を残した」「国の責任で被爆者への総合的な援護対策を講じる」とうたう。

 原爆投下から75年。被爆者の平均年齢は82歳を超えた。国は被爆者救済を目的とした法の趣旨を忘れてはならない。

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