たまにはアーデさん家のリリルカさんが強くてもいいじゃない   作:ドロップ&キック

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名も無き彼女の死に様が変わります。




第07話:”ローガさんが英雄でもいいじゃない”

 

 

 

とりあえず神酒(ソーマ)くらいしか売りのないソーマ・ファミリアのLv1冒険者リリルカ・アーデと、新進気鋭のヴィーザル・ファミリアの中で頭角を現しつつあったLv2冒険者ベート・ローガの出会いは、特にこれと言ったドラマのないものだった。

 

これが出会ったのがダンジョンの中、それも強いモンスター相手に共闘したというのなら申し分ないが、二人の出会いはギルドの魔石換金所という色気も浪漫もあったもんじゃない場所で、しかもたまたま二人が同じ窓口の列に並んでたというだけだった。

 

その頃のリリルカは両親が死んでソロ・アタックばかりしていたし、ベートはファミリアの団員とパーティーを組んでダンジョンアタックするのがメインではあったが、その日はたまたま自己鍛錬をかねてソロで潜っていた。

 

「チッ……今日はやけに混んでやがるな」

 

そうベートが舌打ちするとたまたま前に並んでいたリリルカが、

 

「まあまあ。こんな日もありますよ。換金する冒険者がこれだけいるなんて、景気がいい話じゃないですか。まあ……これで魔石が過剰供給になり買い取り価格が暴落でもしたら目も当てられませんけどね」

 

それが二人の最初の会話だったらしい。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

リリルカとベートは妙に馬が合ったらしい。

”犬と狼なのに馬が合うとはこれにかに?”とほざきたくもなるが、近似種の獣人というのも存外無視できない(リリルカはハーフだが)のかもしれない。

 

それに二人とも強さに対する渇望が似ていた。

理由も経緯も、何より失ったモノに対する思いが正反対ではあるが、共に家族を”理不尽な力”により奪われている。

ベクトルも違う。質も違うが……それでも確かに二人は貪欲に力を欲していた。

 

結果、身の安全のためにもほとんどファミリアに帰らず、団員に知られないように確保した”隠れ家(ネスト)”を転々としながらソロ・アタックを繰り返していたリリルカは、いつしかヴィーザル・ファミリアのダンジョン・アタックに誘われるようになっていた。

これに焦ったのは、ベートに想いを寄せていた後のヴィーザル・ファミリア副団長だったりするのだが……

 

 

 

リリルカとベートの出会いが、何を齎したのかを正確に書くのは難しい。

ネガティブな部分もポジティブな部分も両方あった。

例えば、リリルカがヴィーザル・ファミリアの中層へのパーティー・アタックに参加していることをどこからか聞きつけた下っ端ソーマ・ファミリアの団員が、なんだかんだと因縁つけて金をせびりに来たのは明らかにネガティブだろう。

だが、当時ファミリアで切り込み隊長的な役割を担っていたベートがソーマ・ファミリアに半ば殴りこみ、「戦争遊戯」をちらつかせ、結果的にはリリルカのバックにヴィーザル・ファミリアがいることを知らしめることとなり、少なくともリリルカにとってはポジティブだったろう。

 

だが、騒がしくも過ぎてゆく日常の中で少なからず”変化”が生じた。

リリルカ・アーデという存在に触れた、自分と似て非なる考えを持つ少女を知ったベート・ローガは少しだけ物事を広く、そして柔軟に考えられるようになっていった。

 

 

 

やがて、ベートは大きな決断を行うこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

月日が流れLv3の冒険者となったベート・ローガは、仇……”平原の主”を討つことに決めた。

だが、それは決して一族を根絶やしにされた怨恨ではない。

ただ、自分が前へ進むための過去の清算……”ケジメ”だった。

 

だからこそ彼は、自分だけで討つことに固執しなかった。

手伝いを申し出た者達を拒絶したりしなかった。

 

確かに彼の一族は滅んだ。だが、ベートは確かに”群れを率いる長”としての成長を果たしていたのだ。

だから彼は決断する。

そう、”かつての家族達(ファミリー)”の仇を討つために、今の”大事な仲間達(ファミリア)”と戦うことを。

ヴィーザル・ファミリアの団長となるまで成長したベートは、そう決断したのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

戦いは熾烈を極めた。

 

その背に神の恩恵(ファルナ)を刻んでもなお、容易に勝てぬ存在……それが”平原の主”という怪物だった。

比喩でなく火花を散らすの中で尊い命、仲間の命も失われた。

 

そして、副団長となっていた彼を慕う少女の命も消えた。

だが、彼女は最後まで微笑んでいた。

一緒に戦い、最後に愛しい男の腕の中で看取られ逝けるのだ……そこになんの後悔もないと。

 

『ありがとう』

 

ただ、出会えた感謝……それが彼女の最後の言葉だった。

 

ベート・ローガは咆哮する。

もう誰も失わせない、全ての理不尽を振り払うと!!

 

 

 

そして……討伐に同行していたリリルカ・アーデは、英雄譚その一節の目撃者となる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のノルマ:副団長、ローガさんの腕の中で逝く

快男児だったベートが”ああなる”最大の引き金って、「”平原の主”を倒す間に、自分の手の届かぬ場所で副団長や他の団員が死んでしまった」ことじゃないかと思ってます。

例え彼女の死と言う悲しい現実は変わらなくとも、その別れが違えばあるいは……




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