たまにはアーデさん家のリリルカさんが強くてもいいじゃない   作:ドロップ&キック

4 / 14
リリルカ先輩は、さして遠くない過去を見る。
幼い頃につけられ傷は重くもなく、重いと感じるだけの想いもなかった……




第04話:”アーデ夫妻が想定以上にクズでもいいじゃない”

 

 

 

「はあ? 両親、ですか……率直に言って、ソーマ・ファミリアではありきたりな団員。世間一般で言えば普通にクズでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

リリルカ・アーデと言うシアンスロープとパルゥムの混血である少女にとって、ダンジョンは物心付く前から稼ぎ場であり鍛錬場であり、何より生活の場だった。

 

例えば、彼女の最も古い記憶は、「ダンジョンの中でナイフの握り方を母親から教わっていた」というものだった。

無論、それは料理なんて平和な目的のためじゃない。

紛れも無く「モンスターを刺し殺すために必要な」握り方だった。

 

『リリはですね、キャベツの切り方より先にゴブリンの刺し方を教わったんですよ。だからリリは幼い頃、刃物はモンスターを殺すためにあると思ってたんです。刃物が料理に使えるって知ったのは随分後だった気がします』

 

彼女は二本の脚で立って歩けるようになった直後から、両親の手で浅いダンジョンの階層に連れ出されたらしい。

無論、将来”貴重な戦力”とするためにだ。

 

彼女の父も母も、ソーマ・ファミリアの主神ソーマが生み出す”神酒(ソーマ)”に夢中だった。

恋し焦がれ、その味と匂いに溺れていた。

そしてそれは、生まれた一人娘に対する親愛よりも遥かに濃厚な感情だった。

故に両親がリリルカを”ダンジョン・アタックに有益な道具”として育てようとしたのも、ある意味においては合理的な判断なのかもしれない。

 

『確かにお父さんやお母さんから親としての情を感じたことはなかったかもしれませんね。何しろ、教わったのは効率のいいモンスターの殺し方や魔石の確保の仕方、あるいは同じソーマ・ファミリアの団員をどう出し抜くか? どう財産を奪われたり盗まれないようにするか? そんなのばかりでしたし』

 

悲しいぐらい寂しさを感じない口調……

それは、その両親との距離感こそが”彼女の()()()()()だったことを、何よりも雄弁に物語る。

そう、彼女はそんな殺伐とした日常を当たり前だと思っていたのだ。

 

『ああ、だからと言って別に両親を恨んではいませんよ? むしろ感謝してるくらいですし。例えば、リリの鋭い嗅覚と聴覚はお父さん譲りですし、エルフほどじゃないですが魔力適性の高いパルゥムの血もしっかり出ています』

 

公平に見て、リリルカ・アーデと言う少女は”遺伝学的な傑作”と評していい。

嗅覚と聴覚は父から、魔力資質や器用さは母から、またどちらの種族も俊敏性が非常に高い特色がある。

本来、リリルカは俊敏性を活かした前衛型のスピードファイターが適役だったのかもしれない。

 

だが、その”ありえたはずの未来”を捻じ曲げたのも、また両親だった。

物心ついたかつかないかの頃のリリルカを連れ、ダンジョンに潜ったのだ。

 

そして、まだ冒険者になるほどの地力を持っていなかったリリルカにサポーターとしての役割を担わせた。

無論、動けなくなるほどの荷物を背負わせたことはない。

ダンジョンで身動きが取れないということは死に直結だ。いくらなんでも”無駄死・死なせ損”をさせる気はなかった両親は、それなりの加減もした。

まあ、ソーマ・ファミリアの冒険者たちのサポーターに対する扱いを考えれば、随分と良心的だろう。

今にすれば、それこそが両親がリリルカに対して見せた仄かな親の情だったのかもしれない。

 

少なくともリリルカは、幼き日々より幾多の死線を潜り抜け、無自覚のまま己を磨いた。

 

そして結果、リリルカが晴れて冒険者としての道を歩み始めたときに発現したのが、レアスキル”剛力無双(ゴリアテ)”だった。

 

『考えてみれば……リリが冒険者になれたのも、両親がくれたロクでもない経験のおかげだったのかも知れませんね?』

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

親子三人となったパーティーだが、リリルカにとってそれは”それまでの日常”に劇的な変化を齎すようなものではなかった。

ただの荷物持ち(サポーター)ではなく娘が戦力に数えられるようになったため、その分稼ぎが増えた……彼女だけでなく、アーデ一家にとってその程度の話だった。

そして増えた収入は娘のために使われることはなく、全て神酒(ソーマ)へと消えた。

 

そしてその増えた戦力を過信したからこそ、犬獣人族(シアンスロープ)の父と小人族(パルゥム)の母は寿命を縮めることになった。

 

明らかに()()()()()()()が加算されても無謀なダンジョン・アタック……ドロップ・アイテム狙いのその挑戦の対価を両親は命で支払う羽目になる。

誰のせいでもない。

他のファミリアの団員に裏切られたり陥れられたわけでもなければ、どこか別のパーティーに怪物進呈(パス・パレード)を喰らったわけでもない。

純粋なる自己責任ゆえの結末だった。

 

『でも、不思議なんですよ。両親が目の前でモンスターに食い殺されているのに、リリの感情は全く動きませんでした。勿論、自業自得とも思ってましたし、薄々いつかこうなるだろうなとは思ってましたが……』

 

そして、両親の凄惨な死を目の当たりにしても、リリルカは冷静だった。

そして、冷静に生き残る方策を選び続けた。

 

『その時ですよ。リリが自分で”どこか壊れてるんだ”と自覚したのは。両親の死を目の前にして何の悲しみも寂しさも浮かんできませんでした。ただ、淡々と追撃をかけてくるモンスターを振り切り、ダンジョンからの脱出と生還だけを考えていました』

 

 

 

 

 

アーデ夫妻の死を悼むものも、リリルカの生還を喜ぶものもソーマ・ファミリアにはいなかった。

リリルカもそれを当然と受け入れていた。

両親も団員も所詮は同じ”モノ”……ダンジョンから帰還したリリルカの目には、そう言いたげな冴え冴えとした冷たい光だけが宿っていた。

 

だが、ここで”()()()()()”を出す存在が現れる。

他の誰でもない。本来であればファミリア全体の”親”でなければならない……そしてそれを完全に放棄していた神ソーマだった。

 

自分と同じ目……無味乾燥の視線で他の団員を見ていたリリルカに僅かな興味と憐憫を覚えた神ソーマは、こっそりと人目につかぬようリリルカを自分の私室へ呼び寄せ、一杯の酒盃を振舞った。

 

そしてその一杯……”()()()()()()()”が注がれた一杯こそが、リリルカの運命を大きく変える、あるいは狂わすことになることを、彼女も彼も知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のノルマ:リリルカ先輩の過去を部分的に暴く

原作より強くなってしまったリリルカ先輩には、強くなるだけの理由があったでござる。

ラストの神ソーマが妙な手出しをしてくれやがった結末は、そのうちに(伏線?


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。