★首相・安倍晋三が東京高検検事長・黒川弘務の定年を延長したことに対し、野党でなくとも「首相官邸による検察人事への介入ではないか」と考える人は多い。法相・森雅子は「検察庁の業務遂行上の必要性に基づく判断」としているが、検察庁法の定年規定を本来認められていない一般国家公務員の法律に照らして延長を行った。

★人事院給与局長・松尾恵美子は1981年、国家公務員法の定年規定は「検察官には適用されない」と答弁していて「現在まで同じ解釈を続けている」としたが、一転、1月下旬に「解釈変更した」と前言を翻した。野党がなお追及すると書類に日付はなく「口頭決済」などという、おそらく法務・検察行政ではお目にかからぬ、口先の決済で決めたと法相が言いだした。一方、19日に法務省で開かれた全国の法務・検察幹部が集まる「検察長官会同」では静岡地検検事正・神村昌通が「今回の(定年延長)ことで政権と検察の関係に疑いの目が持たれている」「国民からの検察に対する信頼が損なわれる」「検察は不偏不党、公平でなければならない。これまでもそうであったはず」「この人事について、検察庁、国民に丁寧な説明をすべき」と正論を述べた。

★黒川は優秀だといわれる半面、官房長官・菅義偉ら官邸からの信頼が厚いとされるが、それは官邸に近いとも言える。検察官は政治家の汚職事件や選挙違反など権力者を取り締まる役割。公務員といえども高い倫理性と独立性が必要な仕事だ。だが官邸に近いなどと言われた段階で失格な黒川を政治が法解釈を強引に変えて定年延長までして検事総長にしたいのは、政治が何かを期待していることにほかならず、それに応えようとする黒川は不偏不党とは言い難い。黒川が検察の威信と正義を貫く覚悟があるならば今の段階で退官すべきだが、そうしないのならば今後の邪推と検察がいびつな権力の支配下にあることを認めたも同然といえる。(K)※敬称略