北欧のUXデザイナーが日本の文化から学んだこと

Julie Søgaard

Usable MachineのUXデザイナー/Design Matters。デザインと技術に関して書くことが大好きなデザインオタクです。

この記事はMediumからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

What Digital Product Designers can learn from the Japanese Culture

日本人は、複雑なデジタルテクノロジーを使いこなし、伝統文化からインスピレーションを引き出すことの本当の意味を理解していると言えます。私たちは北欧のデザイナーとして、日本のデザインと文化から学ぶべきものを見つけたいと思いました。そこで私たち、Design MattersのJulieとMichaelは、デジタルデザインの新しい視点を見つけるために東京に5日間、滞在してみることにしました。

日本はデザインの文化においてクオリティの高さは良く知られていて、特にテクノロジーの分野で高い評価を得ています。しかし、日本のデジタルプロダクトと非デジタルプロダクトのデザインはまったく異なることに気が付きました。インテリアデザインを始めとした日本の非デジタルデザインについて考えるとき、私たちはシンプルで洗練されたミニマルなスタイルを思い描きます。反面、日本のデジタルデザインの世界をよく見てみると、両者はまったく異なるスタイルであるということが分かります。日本で制作されたWebサイトを見ると、表示される情報の複雑さと、その量に圧倒されるでしょう。

日本は、地理的にも文化的にも、デンマークや西洋から遠く離れています。日本は、美しい島々からなっていて、伝統や儀式に富んだ長い歴史を持っています。日本は何世紀にもわたって他国からの多くの侵略を受けていて、また、地震は絶え間ない脅威でもあります。日本は長きにわたって孤立していたことがあり、人種の比率は極めて同質的で、国内の外国人の人口はわずか7%です。

私たちは滞在中、お寺、神社、温泉など、日本の多くの文化の側面に魅了されました。日本は間違いなく、世界をあっと驚かせるような進歩を生み出すであろうと確信しました。

伝統的な日本の温泉(出典:https://www.ataminews.gr.jp/about/

東京で過ごした時間

好奇心のかたまりと化した私たちは、Design Mattersで登壇してくれるスピーカーの候補を探したり、日本のデジタルデザインの世界を体験したりすることを待ちきれませんでした。また、私たちの文化とは違った文化的なトレンドを探し出したいとも考えてもいました。そこで、石川俊祐氏のような独立系のデザイナーや、電通、Think&Do、Tank、Re:public、Hatte、Concent、Spread、CINRAなどのデザインを扱う企業の話を聞いてみることにしたのです。

私たちがもっとも驚いたのは、ほとんどのデザイナーが、日本のデザイン文化の真の魅力は、未だデジタル空間において発揮されていないと感じていることでした。そのため、彼らは私たちに、より文化的・伝統的なデザインをもっと探求すべきだと提案してくれたのです。私たちはそれに従うことにしました。この難解な文化の世界に飛び込むことは、スリリングで文化的な経験を豊かにしてくれるもので、ときに私たちにとってカルチャーショックでもありました。

煩雑さに囲まれた生活

日本人は非常に煩雑で、情報のカオスと化した環境で過ごすことに慣れています。国内のいくつかの都市は、世界でもっとも高い人口密度でもあり、その階層化された社会は言語にも多様な表現形式となって表れています。地下鉄のシステムは非常に複雑で、表記には3種類の表記方法(ひらがな、カタカナ、ローマ字)と数千の漢字で構成されてるだけでなく、50通り以上の支払い方法があるのです。

東京の地下鉄の路線図

この複雑さは目に見えるところにも現れています。通りの標識を見るだけで、彼らがさらされている複雑さのレベルに感銘を受けました。デンマークのミニマルなデザインの伝統を受け継いでいて、GoogleやAirbnbなど、できるだけシンプルなインターフェイスに慣れている私たちには、大きな衝撃でした。複雑さは彼らのメンタルに深く染み込んでいるので、ひとびとにとってデザインとは日々の生活でこの複雑さを具体的に、目に見える方法として表現するためのものなのです。

日本の道の標識

魔法のように共存する両極

日本人が住んでいる世界には、本来ならば両極端にあるはずのものが、どういうわけか一緒に存在していることがあるということに私たちは気がつきました。私たちは、とてつもない煩雑さに包まれた環境と、平和な環境の対比に気づいたのです。ある場所では、静かな温泉の雰囲気と、静かで整然とした禅の世界を表現したような庭園があります。一方、オフィスが密集し、混雑した都市にはごちゃごちゃとした色に輝くネオンと、四方から騒音が聞こえ、頭上には電線が絡み合っています。

送電線が絡み合う、日本の小さな通り(出典:https://www.sankei.com/photo/story/news/150624/sty1506240011-n1.html

この両極端の絶妙なバランスは、現代的なものと伝統の共存にも見てとることができます。1時間に320kmのスピードで走る新幹線に乗ったり、便座を温めたり、お尻を洗うことができる電動トイレも体験できます。反面、人々は神社で静かに祈ったり、伝統的でカラフルな浴衣を着て祭りに参加したりもするのです。

日本は、新しいもの古いもの、革新的なものと伝統的なもの、そしてユニークなものと保守的なものなど、とても魅力的なコントラストが共存するすばらしい国だという印象を持ちました。

伝統的な浴衣を着た女性たち(出典:https://noru.cc/gion-geisha-district-kyoto-1/

シンプル=信頼性が低い

日本のユーザーがデジタルの複雑さをどのように捉えるかについて、そこで出会ったデザイナーたちの話を聞いてみました。シンプルなUIに慣れていない日本人向けのWebサイトは、私たち欧米人には雑然としていていて、インターフェイスは複雑に見えます。私たちが「情報が多すぎる」と感じても、日本人ユーザーにとってはそれが普通のことなのです。問題は、一つのインターフェイスですべてのユーザーがターゲットとなっていて、ユーザーのニーズに基づいた差別化がされていないということです。

もう一つの興味深い側面は、デジタル製品のシンプルさを欧米のユーザーほどには重視していないことです。シンプルで最小限のUIは信頼性が低いと認識され、空白の多いデザインには重要な情報が欠けているように見えるためです。日本語の文字の一部である漢字は、人々の考え方に影響を与えます。漢字は、多くの情報と複雑な概念を記号に凝縮して表示され、それらを組み合わせて隣り合わせに配置し、空いているスペースを埋めるのです。

日本の比較ショッピングサイトwww.kakaku.com

漢字は非常に複雑で、一つのストロークを変更すると文字の意味が完全に変わる可能性があるため、日本人は細かい部分に集中する感覚が染みついています。雑然としたWebサイトはごく普通のこととして捉えられています。これは私たちに、シンプルさが常にデジタルデザインの正しい道であるかどうかについて疑問を提起したのです。空白よりも大量のコンテンツが好まれる日本のデジタルプロダクトから、何を学べるかを考えてみることにしました。

日本は西洋を真似するべきではない

デンマークのような小さな国でデザイナーとして修業を積んだ私たちは、国境を越えてもっと大きな、グローバルな視点を得ようとします。しかし、一つの問題は、このグローバルな視点が主にカリフォルニアから来ているということです。

石川俊祐氏は、最近『Hello design』という著書を出版しました。彼は日本のデザイナーたちがよりクリエイティブに自信を持てるようにという願いから、本の中で日本のデザイン文化に疑問を呈し、それに関して著述しています。世界的に有名なプロダクトに合ったデザインを単に製作するのではなく、日本のデザイナーに限らずすべてのデザイナーが自身の文化、宗教、デザインの伝統を深く掘り下げ、より良いプロダクトを生み出すためにデザイナーとしての自分自身を改革する必要があると述べています。

石川俊祐氏の著書『Hello, Design』

それでは、日本の非デジタル世界のどの側面をデジタルデザインに取り入れることができるでしょうか? 日本のレストランやショップでは非常にレベルの高いサービスが提供されています。

たとえば、とても一般的に使われる傘のためのスタンドとビニール袋がショップに備えられていて、トイレにまでも傘専用のハンガーがあります。これが本当のサービスデザインと言えるでしょう! そしてこのようなサービスはどこに行っても見られるものです。すべてのものはあるべき場所が決められています。日本の伝統の大きな部分であり、すでに非デジタルデザインの世界で存在しているサービスのクオリティとその細やかな部分への気遣いは、デジタルデザインにも生かすことができるでしょう。

傘用の自動ビニール袋装着器、傘ぽん(出典:https://jpninfo.com/56839/kasapon-750

プロダクトとの感情のつながり

KonMariメソッドで有名になった日本の片付けコンサルタント、近藤麻理恵氏のことを聞いたことがあるでしょう。このメソッドは、すべての持ちものを一度に一つのカテゴリにまとめ、「ときめく」(Spark joy)ものだけを残すというものです。ものを捨てるときには、それに感謝の気持ちを持つことが大事だとも言っています。このメソッドは、部分的には宗教の一つである神道に基づいていて、そこでは精神的な鍛錬が、掃除と整理整頓に生かされていると言えるでしょう。

エン転職のキャラクター

日本の人々と、ものとの深い感情的なつながりは、デジタルプロダクトとの関係性でも見て取ることができます。

実際、日本のユーザーが一度プロダクトを理解してそれを気に入ると、そのプロダクトに絶対的な信頼を寄せます。感情が何よりも勝り、それが日本のビジュアル的な文化を形作っていることは明らかです。 印象的な例は、「カワイイ」の概念です。日本でビジュアル的に「カワイイ」ものは、気分を左右し、プロダクトとのユニークな関係性を確立すると言っても良いでしょう。

漫画でわかるデザイン思考

西洋の人々には奇異に映るかもしれませんが、マンガやアニメ、ハローキティなどのかわいいキャラクターや宮崎駿などの作品などは、転職サービスから、書籍、銀行、交通機関など、いたるところで目にすることができ、さらには現代のフェミニストのWebサイト「She Is Here」(https://sheishere.jp/)でさえも使われていました。

teamLab(Digital Borders)。森ビルデジタルアートミュージアムより

まとめ

何十年もの間、西洋のデザイナーたちは西洋文化のためにデザインしてきました。私たちは、シンプルで効率的なプロダクトを作ることに誇りを持っていることも事実です。

それに対して、日本のデザイナーたちはシンプルなデジタルデザインのコンセプトを受け入れていないようにも見えます。なぜなら、日本には複雑さが文化に深く根づいていて、それが価値のあるものと捉えられているからです。彼らのデザインは、グローバルなリサーチよりも、伝統と地域のコミュニティに基づいているのです。

デジタルデザインにこのような大きな違いがあるため、西洋と同じビジュアル的なスタイルを日本のデジタルデザインに当てはめることはできないと思います。日本から学ぶべきことは、私たち自身の文化や伝統に向き合い、隠れたパターンやニーズを発見し、そこから学び、改善することではないでしょうか。

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Julieは毎年コペンハーゲンで行われているデザインカンファレンス「Design Matters」のスタッフ兼スピーカーです。今年の「Design Matters 20」は9月23日-24日に開催されます。詳しくはこちら


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