INTERVIEW:

Creepy Nuts (R-指定 & DJ松永)

「俺らはイカつかったりカッコ良いっていうカリスマ性があるわけではないし、サブカル的な崇高さやセンスの良さがあるワケでもない……だから、俺らは“卑近”なんですよ。でも、それって“普通”ってことだと思う」 -- R-指定

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 本稿の執筆中に、Creepy Nutsの新作ミニ・アルバム「助演男優賞」がオリコン・デイリー・チャートの6位を記録したという報が入ってきた(ウィークリーでは初登場16位を記録)。もちろん、HIP HOPアーティスト且つまだキャリアの浅い彼らの作品がここまでヒットしているという状況は喜ばしいことではあるのだが……正直に書くと、この報を聞いたときに筆者が真っ先に思ったのは、「恐ろしい時代が来てしまった……」ということだ。

 確かに、巷では“ラップ・ブーム”と呼ばれているような時代ではある。Creepy Nutsのマイクを担当するR-指定はそのブームのど真ん中にいる“カリスマ”のひとりとして捉えられているのは間違いないし、彼のラップ・スキルに文句が付けようもないことは彼のキャリアが証明している。DJ松永の程良くキャッチーでHIP HOPリスナー以外の層にも訴求し得る聴感のトラックが、このチャート・アクションに貢献しているのも間違いない。状況的には、彼らがこれだけ世間から受け入れられても何らおかしくない筈ではある。

 だが……リード曲“助演男優賞”こそパッと聴きはポップではあるが、今作中に仕込まれている構造や、彼らが持ち続けてきた“捻くれ者”的なメンタリティ、世間から持ち上げられれば持ち上げられる程増幅されていくルサンチマンやフラストレーションに、聴く人によっては冷め切っているとさえ捉えられかねない、達観した視点の数々が象徴する根深い“闇”を踏まえると、「助演男優賞」は相当にハードコアで体力を要求する作品だ。彼らの内面や歌詞世界がどこまで理解された上で、リスナーが作品を消費しているのかが筆者には掴みきれていないため、更に恐ろしく感じる、というのもあるかもしれない。

 しかし、彼らが標榜し続けている、(体育会系にも文系/サブカル系にも属していない)“どっち”側でもないというスタンス — 世の中の人たちの大多数のスタンスであるとも言える — が共感を得た結果、今作が受け入れられているとするなら、それは美しい話だ。

 ハードコア・ラップの世界では、所謂J-POP的な曲を「色恋ばかり歌っている」と揶揄しがちであり、同時に“リアルさ”や“ストリート感”を押し出すという行為が度々行なわれてきた。Creepy Nutsはストリート性には乏しいかもしれないが(そもそもそこを目指しているグループでもない)、“どっち”でもない彼らなりの“リアルさ”の追求には余念がない。彼らがこのまま更に成功していくとしたら、既存のJ-POP的な価値観とは異なる、真に“オルタナティヴ”な存在としてラップ・ミュージックが日本国内で定着する可能性がある。そう考えると、日本のHIP HOPにとっては「恐ろしい」どころか、逆に物凄い希望を感じさせてもくれる。

 全5曲入りのミニ・アルバムというサイズを考えると、本サイトでは異例な字数のインタビューではあるが、それは彼らが今作に込めた“情念”の強さに比例している。全曲解説スタイルで、ふたりにたっぷり語り尽くしてもらった。
 
 
■一年前に「たりないふたり」をリリースして、去年は大活躍の年だったと思うけど……しかし……売れましたねぇ……。
R-指定 & DJ松永「いやいやいやいや……」

■ふたりの心境的には?
DJ松永「結構、濃すぎて」
R-指定「濃密でしたね。一ヶ月おきぐらいで来てほしいような出来事が一週間にまとめて来たりとか。良いことも悪いことも」
DJ松永「噛み締める余韻がないぐらい、矢継ぎ早にいろんな出来事があったんで、フワフワしてますね。(この一年に起こった良い出来事/悪い出来事を彼ららしい軽妙な語り口で話してもらったが、あまりにネガティヴ・マインドなため割愛)」

■……最初から暗いわ!この一年間、お互いが相方を見て感じたそれぞれの変化は?
DJ松永「Rは、最近健康的ですね。顔色が良くなった(笑)」
R-指定「俺は完全にそう。俺が松永さんを見ると、この人はより“尖った”っすね。ネガティヴな出来事もそうだけど、やっぱり『フリースタイルダンジョン』があって、お客さんの目線的に『ダンジョン』の話しかしてこない現場もあったりして。松永さんは、『渦中にいながら関係ない』っていう立ち位置にずっと苛まれていた。俺は番組に出ているけど松永さんは関係ないから、そこの部分だけ取り上げられて一緒くたにされる時期が続いて。だから、俺が知っている中で松永さんは今が一番荒んでる(笑)」

■その松永君の心境は“どっち”の2ndヴァースでも言及されてますね。
DJ松永「ツアーのときの物販や、サイン会とかに参加したお客さんと写真撮ったりするじゃないですか。そのときにお客さんがスタッフに『Rさんとだけ(写真撮影)って出来ますか?』って頼んでくるんですよ。しかも結構な人数が」

■……シビれるねー(笑)。
DJ松永「そんな出来事が一個や二個じゃないんですよ!楽屋で関係者の方が挨拶に来てくれたりしても、Rとマネージャーの目だけ見て、ふたりにだけ名刺渡して帰っていくんです。しかも、ライヴの後にもそんなヤツがいるから、『お前、ライヴ観てねぇだろ絶対!』って。ライヴ観てて俺のこと認識しないってどういうことだよ!って」
R-指定「で、そんなとき俺はどんな顔してたらいいねん、みたいな(笑)」
DJ松永「悲しいかな、そういうことをしてきたヤツらの顔は全部覚えてます」

■分かりやすい意味での手の平返しとかだったらまだ納得もいくかもしれないけど、そうでもないわけだ。
R-指定「別ジャンルの人とかと一緒のライヴがあったりすると、バンドの人から『ちょっとセッションしましょうよ〜。俺、友達呼ぶんでちょっとR-指定さんも軽くフリースタイルで入って下さい』みたいな話を挨拶の前にしてくるんです」
DJ松永「セッションというのは、お互い意気投合して人間的な関係が積み上がってからだからこそやるモンだし……」
R-指定「挙句の果てには『R-指定ってヘンな名前ですね』とか。百も承知じゃ(笑)!(更にネガティヴな話が続くので割愛)」

 
■……だから暗いって!作品の話に移ると、「助演男優賞」は、「たりないふたり」の路線を受け継ぎつつ、更にディープ……というか更に卑屈さとシニカルさと闇が、ポップな音楽性によってより押し出されていて、なんて捻くれてるんだ!と正直思ったんだけど、ここまでの話でその理由は十分伝わりました(笑)。
R-指定「でも、今話したネガティヴなことに対しては、腹を立てるというより、全部曲にして成仏させるという感じで。『たりないふたり』は、より“デフォルメ”した俺たちのキャラクターを押し出したんです。お互いソロ作品は出してますけど、改めてCreepy Nutsとして出すにあたって、『HIP HOPシーンにいながら、俺ら全然イケてないんですよ』みたいな感じをデフォルメして書いた。でも、『助演男優賞』はより“生身”の俺らの意見ですね。だから、俺のソロ・アルバムやったり松永さんのアルバムのテイストも結構入ってると思います。振れ幅として、『たりないふたり』とは違う顔を見せようというのは最初からあったんで、自分の中に元々あるシリアスさやったりはもっと出そう、と」
 
 

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