海藻の「あおさ」にヒトコロナウイルス増殖抑制効果を確認 ─新型コロナウイルスでの効果にも期待─ (河原敏男教授、林京子客員教授ら)
【2020年2月20日】
プレスリリース
中部大学 生命健康科学部の河原敏男教授と中部大学大学院 工学研究科の林京子客員教授らは、化学薬品メーカーの江南化工株式会社(三重県四日市市、大谷淨治代表取締役)、ラムナン研究所(西村訓弘代表=三重大学副学長)などと共同で、海藻の「あおさ」(写真)にヒトコロナウイルスの抗体を増やす効果があることを確認した。あおさに含まれるラムナン硫酸を培養したウイルスに接触させたところ、高い抗ウイルス活性を示した。現在、中国を発生源として世界中にまん延しつつある新型コロナウイルスは動物から人間に感染したとみられている。ヒトからヒトに感染するヒトコロナウイルスと新型コロナウイルスの構造は類似しており、新型にもラムナン硫酸の効果があると期待している。
写真 あおさ(左)と集めている様子
林客員教授は富山大学薬学部在籍中の10年前から、さまざまな種類のウイルスに対するラムナン硫酸の増殖阻害効果を研究してきた。現在進行している社会の高齢化が生体の免疫力低下、とくに感染症の重症化と連動している点に注目してこれまでの実験データを整理したところ、ヒトコロナウイルスなどによる感染症にラムナン硫酸が役立つヒントがあることがわかった。これらの成果を論文にまとめて公表する準備をしている。
ウイルスは遺伝子としてDNA(デオキシリボ核酸)かRNA(リボ核酸)のいずれかを持ち、生きた細胞に寄生すると増殖できる。表面をタンパク質や脂肪の膜(エンベロープ)で覆ったタイプと覆わないタイプに大別できる。ヒトコロナウイルスと新型コロナウイルス、他に麻疹ウイルスやおたふくかぜウイルス、A型インフルエンザウイルス、エイズウイルスもエンベロープとRNAを持つ点で共通する。ヒトコロナウイルスだけでなくこれら他のウイルスについてもラムナン硫酸がウイルスの増殖を抑える効果を持つことを確認した。
ヒトコロナウイルスの感染実験に用いることができる動物はいない。そのためヒトコロナウイルスの代わりに同じくエンベロープとRNAを持つA型インフルエンザウイルスを用いて感染マウスに対するラムナン硫酸の効果を調べた。その結果、ウイルスに感染させたマウスにラムナン硫酸を与えたところ3日後のウイルスの量が半減した。マウスの体内にはラムナン硫酸を与えなくても一定量の抗体はできるが、ラムナン硫酸を投与すると抗体は7日で約1.5倍、14日で約2.3倍と大きく増殖した。
これらの実験データから、研究チームはラムナン硫酸が、ウイルスのエンベロープ中のタンパク質が生細胞へ付着しようとするのを阻害する、腸管に集中する免疫細胞を活性化して抗体の産生を促進する2つの効果を持つとみている。今後、新型コロナウイルスの性質を調査中の医療機関と協力し、ラムナン硫酸の効果を検討したいと考えている。
ウイルス感染の治療には感染によって引き起こされる病気の治療薬や抗体を作るためのワクチンを用いる方法もある。しかし治療薬の開発には多額の費用と長い開発期間が必要となる。一方のワクチンは無毒化したウイルスあるいは毒性を弱めたウイルスで作る。しかしRNA型ウイルスのエンベロープにあるタンパク質は構造が変化しやすい。そのため長時間かけてワクチンが完成した時には効き目が無くなっている可能性もある。それに対してラムナン硫酸は、体内で常に異物と認識されて免疫細胞を元気づけるため、ウイルスがやってきた時には素早く抗体を作り出すことができ、しかもそのウイルスがどのような種類であっても対応できるという特性を持っているという。
研究チームは今後、コロナウイルス対策に特化した商品の開発も視野に入れる。
問い合わせ先
河原敏男 (中部大学 生命健康科学部臨床工学科 教授)
電子メール:toshi[at]isc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-9314(直通)