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【政治】<2020年 核廃絶の「期限」>(中)広島にあって長崎にない公文書館 原爆資料、散逸の恐れ
二十畳ほどの事務所は、原爆の資料や本の入った段ボール箱が山積みだ。長崎市の爆心地から約一キロにある「長崎の証言の会」。事務局長の森口貢(みつぎ)(83)は「多すぎて、どれくらい資料があるのか想像もつかない」とため息をつく。 長崎県内には公立の公文書館がない。原爆関連の資料の保存は、個人や民間団体、研究者らが担っているのが実情だ。 今年で設立五十一年となる「長崎の証言の会」もその一つ。県内の被爆者から被爆体験を聞き取って証言集を発行する一方、関連資料の収集も行ってきた。 その中で重要な資料の一つが、一九六九年と七〇年に同会が実施した被爆者実態調査の原票。約三百人に調査票を配り、被爆後の健康状態や収入、住まいの状況など約三十項目について尋ねている。原爆で背中に大やけどを負った姿の写真を国連本部などで掲げ、核廃絶を訴えた谷口稜曄(すみてる)(二〇一七年死去)は「自分の体が原爆のためにみじめになった」と回答している。 被爆者の生の声を伝える貴重な資料だが、同会に残っているのは七〇年分の原票だけ。六九年分は、資料を片付けている際に紛失してしまったという。 同会は、朝鮮半島から徴用された被爆者に対する支援の記録や、原爆をテーマに執筆を続けた地元作家の原稿も保存。国内外の研究者が資料を求めて訪ねてくるが、目録作りは進んでいない。運営は寄付などで賄い、文書整理を担う事務員は一人しかいないからだ。 森口は「この会がなくなれば、資料も全て散逸してしまう。資料がなくなれば、長崎の原爆の実態もあやふやになってしまうのではないか」と公的機関での管理を求める。 全国で公文書館が設置されていない都道府県は、長崎を含め九県。同じ被爆地の広島には県立、市立に加え、広島大学にも公文書館があり、原爆関連資料を広く集めている。 長崎県は公文書館を設置しない理由を「原爆による火災などで戦前の公文書のほとんどが焼失したため」(総務文書課)と説明。それでも、被爆から七十五年が近づき、被爆者の高齢化も進むにつれ、公文書館設置を求める声は高まる。 昨年九月には、県内の研究者らが「長崎の近現代資料の保存・公開をもとめる会」を発足。県は二一年度に新設する郷土資料センター内に公文書コーナーを設ける計画を示すが、センターは図書館の位置付けで、公文書を担当する専門職は置かない方針。歴史文書が適切に管理・公開されるのか疑問の声が上がる。 もとめる会のメンバーで長崎大客員研究員の四條(しじょう)知恵(42)は「被爆者が次々と亡くなっているからこそ、資料の重要性は高まる。長崎の現状では歴史文書が適切に保存されるのか強い危機感を覚える」と話す。 (敬称略、木谷孝洋) ◆地域の歴史残す役割<公文書管理に詳しい瀬畑源・成城大非常勤講師の話> 公文書館には、行政が市民に説明責任を果たすだけでなく、地域の歴史遺産を残す役割もある。歴史資料には、その地域の記憶が詰まり、地域を理解するための基礎資料となる。公文書館は歴史愛好家のための施設と見られ、人員や予算が削られやすいが、住民との距離が近い自治体でこそ整備が求められる。 PR情報
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