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神の創造し魔法世界

作者:グングニル

9/9
創られたストーリー

 「へぇー珍しいじゃん。ガルドが私たちに頼み事するなんて、いったいどういう風の吹き回し?」

 「一昨日の話なんだが、実は俺に指名依頼が入ったんだ」

 「指名依頼?」


 依頼を達成すると、その依頼先での活動内容はギルド内で記録として保存されている。ギルドに依頼を申請する場合、その記録を参考にしてから特定の魔導士を指名して申請することができる。これを通常依頼に対して指名依頼という。指名依頼の多くは討伐系の依頼が多い。街を荒らしている山賊や海賊、自然の生態系を犯している大型の魔物といった高難易度の依頼の場合、もし並大抵の魔導士が依頼を受注してしまっては死人が出る危険性が十分あり得る。そんな結果を出さないためにも、できるだけ強い魔導士に指名依頼をする必要があるのだ。指名依頼は選ばれるだけでも名誉ある事だ。


 「凄いんだね、ガルドって」

 「それほどでもねえよ。この依頼なんだが、さすがに俺一人では達成できそうにもなくて、ちょうどカイキがパーティーを組んだと聞いて頼もうと思ったんだ」


 依頼内容はこうだった。サカイヤから少し離れたアギルという街に最近山賊が住み着いたらしい。山賊は街での盗みをはじめ、数々の無銭飲食や暴力事件を起こし街の人々は日々怯えながら暮らしている。これまでに何組かの魔導士パーティーが依頼に挑んだが、その山賊を治めるボスと幹部は凄腕の魔導士で、すべて失敗に終わっている。これ以上の被害を出さないためにも、街の長は指名依頼に踏み込んだのであった。


 ガルドのこの誘いは決して軽いものではなかった。仲間を危険に巻き込もうとしているのを承知で三人にこの話を持ち掛けている。いい加減な気持ちであるはずがなかった。不器用な性格できちんとしたお願いではなかったが、言葉の裏に込められた熱意はしっかりと三人には届いている。自らのプライドを捨ててまで自分たちにこの話を持ち掛けてきたのだ。断る理由などどこにもなかった。


 「私はもちろんOKだよ。カイキもセレナちゃんもいいよね」


 二人はアカリの言葉に頷いた。それを見たガルドは肩の荷が下りたように深く息を漏らした。慣れないことをやったせいか、柄にもなく相当緊張していたようだった。ガルドの様子に密に気付いたカイキはわずかに微笑んだ。出発は明日の午後、サカイヤの駅から列車に乗ってアギルへと向かうことで決まった。それぞれ明日の準備のため、今日はここで解散することになったのだが、カイキとアカリは今日中にやっておかなければならないことがあることに気が付いた。


 「あーーーっ!そういえば私の住処が」

 「あ・・・」


 もうすでにお昼を回っていた。明日の準備を考えると今から依頼をこなしても目標金額の半分もいかないだろう。さすがにこれは詰んだと絶望を感じていた二人。これはまたホテルでの宿泊を余儀なくされなければならないと思っていたその時、その様子を見ていたセレナが二人に問いかけた。


 「どうしたの?」


 セレナの問いかけに二人は一瞬戸惑ったが、アカリが王女ということ以外はすべて話すことにした。アカリが自由になりたくて家を出たということ、家出ということもあって現在一文無しということ、いいところのお嬢様ということで金銭感覚が常識外れということ。そして、今日は住まいを探すために依頼漬けの一日の予定であったこと。セレナはアカリの事情を把握すると、アカリに相部屋しないかと提案してきてくれた。もちろんアカリの貯蓄が安定するまでの間だが、一般常識を教え込むことも考えると同姓であるセレナの方が適任だしこちらとしても都合がよかった。カイキとアカリは迷うことなくセレナの提案に乗っかった。


 アカリはさっそくホテルに預けてあった荷物をセレナの部屋へと持って行った。それからアカリは昨日得た報酬をすべて使うことになってしまうが、セレナと一緒にアカリ個別の食器や寝具を購入し、明日の依頼に向け必要なものを揃えた。明日はカイキにとって久しぶりに一筋縄ではいかない依頼が待ち受けている。そんな時にセレナがパーティーに入ってくれたことはいろんな意味で本当にありがたかった。


 その晩、カイキはガルドを食事に呼び出した。カイキにとってガルドと二人で食事をするのはかなり久しぶりだった。だが明日の依頼に備えてカイキはガルドにどうしても確認しておきたいことがあった。


 「これを機にお前もパーティーに入ったらどうだ?」

 「遠慮しておく。この依頼が終わったら、俺はソロに戻る」


 分かっていたことだったが、相変わらずガルドは一匹狼を降りようとはしなかった。ガルドをそうさせるのは彼の中にとある鎖が巻き付いていたからだった。ガルドの過去のとある出来事が彼の心にとある幻を生み出した。その幻によってガルドはまるで足枷が取り付けられたように行動を制限されている。それが自ら生み出したものだと知らずに。カイキはギルドで一度だけガルドの過去について教えてもらったことがあった。その内容からカイキはガルドの心に取り憑かれたものの正体に気付いてしまったのだった。


 「もうお前は、パーティーを組んでも十分にやっていけると思うぞ」

 「いや、まだだ。まだ俺には足りないものがある」

 「まだ、例のあれ見てんの?」

 「ああ」


 結局二人の食事は平行線を描いたまま終わってしまった。ガルドはここ数年、高みを目指しながらも停滞を続けていた。本人は気づいていないようだが、カイキの視点から見れば明らかだった。もしかしたら明日の依頼は、ガルドをそんな泥沼から救い出させる最初で最後のチャンスかもしれない。ガルドの強さはカイキのパーティーを成長させるためにも必要な存在だった。チャンスは一度だけ。明日の依頼は色んな意味でも必ず成功させなくてはならなくなった。


 しかし、アカリとの出会いから始まって、アカリとのパーティ結成からのセレナのパーティーメンバーの加入。そしてこれまでなかったガルドからの依頼。カイキはこの不自然にも思えるスムーズな物語の展開に、もはや誰かの力によって創り出されたものではないかと考えられずにはいられなかった。そしてそれは、何かが起こる前触れではないかとそんな予感すらしてしまった。


 「(さあ、見定めさせてもらいますよ。あなたの力が、私の求めているものなのかどうか)」

ここから物語が展開していきます。最後までお付き合いください。

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