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神の創造し魔法世界

作者:グングニル

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平等を求めて

 カイキはこれまで味わったことのない様々なトラブルに巻き込まれながら、何とか無事にホームがある街に帰ってくることができた。王女という貴重なお土産を抱えて。まさか王女の家出に手を貸すことになるなんて、今にして思えば我ながらずいぶんと大胆なことをやったとカイキは実感していた。そんな数時間前の思い出に浸りながら、カイキを家出騒動に巻き込んだ張本人を横目で見てみるとアカリは魔導士ギルドを目の前にして目をキラキラと輝かせていた。今まで王宮ばかりにいたアカリにとって、すべてが初めての体験だ。こりゃまたいろんな意味で苦労することになりそうだとカイキは感じた。だがそれは、不思議と嫌ではなかった。


 「ほら、いつまでも突っ立ってないでさっさと中に入って魔導士登録するぞ」

 「うん!」


 アカリがギルドの扉を開けるとそこは多くの魔導士で賑わっていた。ギルド内は魔導士登録や仕事の受注のほかに魔導士同士の交流の場でもある。魔導士が互いに仕事先で得た情報を交換したり、パーティーを結成したり、男女の出会いがあってうまくいけば結婚につながることもある。そういった場でもあるため、ギルド内には常に多くの魔導士で賑わっている。アカリはその光景を見ている内に、何かを思い出したかのようにカイキに小声で語りかけてきた。


 「ねえ、ここにいる人たちには私が王女ってことは黙っててくれない?」


 アカリが家出をしてきた主な理由は二つある。一つは、窮屈な生活からの脱却。もう一つは、立場が平等な世界。王女という立場である以上仕方のないことだが、アカリはこれまで常に崇められる存在であり、アカリにとってそれが窮屈で仕方がなかった。その為アカリは、立場なんて関係なく言葉遣いや態度なんていちいち考えなくてもいい世界に強い憧れをもっていた。幸いにもアカリが王族ということは、暗殺という観点から王国の住民以外にはその素顔を知る者はほとんどいない。カイキにとってもアカリが王族と知れ渡ると、いろいろと面倒になると思っていたところだった。


 「分かった。誰にも言わねーよ」

 「ありがと」


 アカリと約束を交わすと、さっそく二人はアカリの魔導士登録をするために受付へと向かった。受付では魔導士登録のほかに依頼を受けた際に依頼主への連絡係をやってくれたり、魔導士それぞれに合った依頼をお勧めしてくれたりしてくれる。カイキは、数ある受付嬢の中でスターダストに所属した時から母親のように気軽に接することができるお気に入りのクリナという受付嬢のところにアカリを連れて行った。すると受付嬢のクリナから思いもよらない反応をされた。


 「お帰り、カイキ。今回はずいぶんと大活躍だったみたいね。まさかあなたがこんなことに興味があるなんて知らなかったから、本当に驚いたわ」


 カイキはクリナが何を言っているのか分からなかった。今回も特に変わりなく依頼を達成してきただけだし、依頼先でここまで実績が届くような活躍をした覚えもない。カイキが頭を悩ましているとクリナが後ろにいるアカリの存在に気付いた。


 「えーと・・・」

 「あっ、初めまして。私アカリっていいます。私ここの魔導士になりたくて、カイキの旅に同行させてもらいました」


 アカリが慣れない自己紹介を終えると、クリナはまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。そりゃ今までソロでしか活動してこなかったカイキがいきなり旅先で仲間を連れてくれば誰だって驚くだろう。その上、相手が女の子であればなおさらだ。しばらく沈黙の間があって、クリナがようやく我に戻るとさらに面倒くさい解釈をしてきた。


 「あらー、まさかカイキが女の子を連れてくるなんてカイキも隅に置けないわね。アカリちゃん、カイキのこと末永くよろしくねー」

 「は、はあ・・・」


 さすがのアカリも困惑した顔をしていた。クリナのおばさん的な反応に突っ込むことが面倒臭くなったカイキは、威圧でその場を収める作戦をとった。受付の机を勢いよく叩き、ものすごい形相でクリナをにらみつけた。 


 「アカリの魔導士登録を、お願いします」


 クリナもさすがにからかいすぎたと感じたのか、身の危険を察知し慌ててカイキをなだめ始めた。


 「ご、ごめん、冗談だってば。ちゃんと理由があってその子を同行させたって分かってるから、そんなに怒らないでよ。それじゃあアカリちゃん、これが登録用紙ね」

 「はい」


 いつも明るさが取り柄のアカリが、クリナのテンションに押しつぶされた瞬間だった。案外アカリって打たれ弱い部分もあるのかとカイキにとって新たな発見でもあった。何はともあれ、アカリの魔導士登録は無事に終わった。これでアカリも晴れてスターダストの魔導士となった。


 「それじゃあアカリちゃん、これから魔導士として頑張ってね。何か分からないことがあったら気軽に相談してね」

 「はい。よろしくお願いします」


 アカリの登録も無事に済ませた二人はこれからどうするか考えていた。今日中にアカリの住む部屋を見つけることも考えたが、アカリの現在の所持金は0だった。そもそも王女にお小遣い制度というものはないらしく、普段からお金を使うどころか持つという習慣すらなかったらしい。こりゃ一般常識をしっかり叩き込む必要があると感じたカイキだった。


 それならばと、カイキはアカリの稼ぎも併せてどうしてもやっておきたいことがあった。アカリの現時点での戦力の確認。パーティーを組むうえでメンバーの戦闘力を知ることは重要なことだ。さらにカイキはパーティーで後衛を務めるため、アカリの戦い方に応じて適切なサポートをしなくてはならない。まだ日は高いし、サカイヤ近くでの魔物討伐依頼なら今日中にこなせるだろう。カイキがアカリに魔物討伐の提案をするとアカリは迷うことなくその提案に乗った。


 そしてギルド内にあるクエストボードからサカイヤ近くの森に生息する魔物の討伐依頼を見つけ出し、その依頼書を手にさっそく仕事に向かった。アカリにとってはこれが人生初の魔導士としての仕事である。その目にはこれから始まる冒険への期待と新たな出会いに対する希望が映っていた。

ようやくバトルシーンに突入できる

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