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神の創造し魔法世界

作者:グングニル

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身分を捨てた王女

 突然宿に押し寄せてきた王女。その開口一番はまさかの「私を連れてって」だった。予想すらできなかった王女の行動力にカイキは呆気にとられていた。ようやく我を取り戻し、改めて王女の格好をよく見てみると、王族とは思えない動き安くてラフな服装、まるで長期旅行をするような大きなキャリーバック。本気でカイキについてくるためにここに来ていた。


 「私アカリっていうの。一生に一度でいいから魔導士として大冒険してみたいんだ。私と同じぐらいの年代でかなり強い魔導士をずっと待ってたの。お願い、私をここから連れ出して」


 まるで人に飼われて自由を亡くしたペットのような立場の女王。そのあまりの窮屈さと好奇心旺盛な性格からずっと自分を押し殺してきたのだろう。だが王女は魚を待つ釣り人のようにチャンスが来るまで釣り糸を垂らし続けた。その釣り場として利用したのが毎月行われるトーナメントだ。そこででかい魚がかかるのを王女はずっと待ちわびていた。そしてようやく念願だったその時が訪れた。自分と同じぐらいの年代で、さらに魔導士としての腕も十分。不自由という檻をぶち壊してくれるこれ以上にない救世主だった。


 カイキは全てではないが、ようやく王女の内情を理解した。しかしカイキには王女にどうしても確認しておきたいことがあった。


 「あのー王女様。国王様には、ちゃんと言ってきた・・・んですよね」

 「敬語なんて使わなくていいよ、身分なんて捨ててきちゃったわけだしね。というか使わないで。家に何も言ってるわけないじゃん、私家出してきたんだよ」


 カイキの真面目な質問に、アカリは家出なんだから当たり前でしょ的な返しをしてきた。カイキは真面目な質問した俺が馬鹿だったのかと自分の感性を疑った。というかアカリが単に常識はずれなだけなのかもしれない。とはいっても、そう簡単に承諾するわけにはいかなかった。カイキがこれから帰る場所は、常に命の危険と隣り合わせ。王女が半端な覚悟でカイキについてくる気であるならば、命を溝に捨てに行くようなものだ。


 「ねえ、王女さ・・・」

 「ア・カ・リ・!」

 「アカリさ、俺がこれから帰るところは確かに自由で自分勝手に暮らせるアカリにとっては楽園のようなところだ。だが反面、そこで起こったことは全てが自己責任になる。たとえそれが命に関わることでもだ。俺の後をついてきたとして、たとえ命の危機にアカリが晒されても、俺は一切責任は負えないからな」


 これが一般人相手だったらここまでは言わない。だが本人が捨てたといっても、アカリが王族であることには変わりない。この国を担っていく意味でも、その命は決して粗末にしてはならない。それが分かったうえでの覚悟なのか、それとも単なる好奇心だけの行動なのか、カイキはこの場で知っておく必要があった。カイキはアカリの回答が後者であればいいと期待していた。後者であれば、何かしらの理由をつけてアカリを追い返すことができる。カイキにとって王女と一緒に行動することはかなり荷が重かった。アカリに何かあったらカイキが何らかの罰を受ける可能性もなくはない。だが、アカリの覚悟はカイキの期待を大きく裏切った。


 「そんなことは分かってる、私だって何も準備してこなかったわけじゃない。この日のために毎日魔法の勉強をして、王宮に先生を呼んで鍛錬だってしていたし、戦闘におけるいろはだって学んだ。自分のことは自分で責任をつける。それがお父様とお母様の教えでもあるし。だから絶対にあなたに迷惑はかけない、私がもう駄目な状態になったら見捨てても構わない。だからお願い、私を連れ出して・・・」


 深々と頭を下げたアカリの目には大粒の涙がこぼれ、体は小刻みに震えていた。アカリの覚悟はカイキの思っていた以上のものだった。考えてみれば、アカリが自分の立場の重要性を理解していないはずもない。だがそれでも、自分の心に嘘をつきたくなかったアカリはその立場を犠牲にしてでも、外の世界に出ようと行動した。単にわがまま王女なだけのような気もするが、自分の心に嘘をつきたくないという気持ちはカイキも十分理解できる。なにせ今までそうやって生きてきたからだ。


 最初にあった追い返そうという気持ちは徐々に薄れていき、むしろ今は手を差し伸ばしてあげたいという気持ちの方が強かった。アカリの言葉と態度、そしてカイキの前で本気の涙を流したアカリの強さがカイキの心を動かした。人前で本気の涙を流せる人は思いのほか少ない。だってそれは人前で自分の弱さを見せることに等しい行動なのだから。人は誰もが自分の意のままに生きているわけではない。周囲の目や様々なしがらみから自分のプライドや自尊心を守るために、無意識に心に蓋をし周囲に合わせた行動をとってしまう。だが、アカリは違う。アカリは常に自分を中心に考え、自分の意を叶えるために周りを巻き込みながら行動する。だから人前でも本気の涙を流すことができる。それがアカリの弱点でもあり、何よりも大きな強みでもある。


 カイキはもしもここでアカリを追い返したら、逆に自分が後悔をしてしまう気がしてならなかった。魔導士としてのアカリの強さはまだ未知数だが、心の強さは戦闘においても大きな力になるはずだ。カイキは自分の心を信じ、アカリに手を差し伸べることにした。旅の荷物をまとめ、部屋のドアに手をかけた。


 「カイキ・・・?」

 「さっさとこの国を出るぞ。早くしないと衛兵たちに見つかって連れ戻されるからな」

 「・・・!うん!これからよろしくね、カイキ」


 アカリは連れて行ってくれるとわかると、涙を拭きながら笑顔で答えた。これから自由な暮らしが始まると考えると、アカリはドキドキが止まらなかった。その足取りは思わずスキップをするほどだった。それを見たカイキは、本当に常に自分の意のままに生きているんだなと感心させられた。カイキにとって、アカリの性格は羨ましいとも感じた。


 カイキは宿でチェックアウトを済ますと、アカリを大きめのコートで身を隠させ足早に王国の外へと向かった。しかし、街の雰囲気は思っていたよりも普通だった。王女が家出をしたのに衛兵の一人とも出会わない。街中で多くの衛兵が駆け回りながらアカリを探していると思っていたのだが。カイキが異常なほど平和な光景に疑問を抱いていると、ふと昨日の国王の「これから大変だろうけど、よろしく頼むよ」という言葉を思い出した。もしかして、国王はアカリの家出をすでに想定していたのかもしれない。親子そろって面倒事を人に押し付けやがってと、カイキはやれやれと感じた。


 そして、門番にも特に怪しまれることなく国外にスムーズに出ることができた。これから二人の新たな冒険が始まろうとしている。

ここから話をどんどん盛り上げていくつもりなので、これからもよろしくお願いします。

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