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神の創造し魔法世界

作者:グングニル

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王女からの招待状

 トーナメントで優勝したカイキはその晩に開かれる国王主催のパーティーに出席することになった。まさか王女から直接招待状が送られてくるなんて思ってもいなかったカイキにとってまさにこのパーティーに行くことは、自ら危険な吊橋を渡るのに等しい行為にも思えた。そもそも王女の思惑が分からない。しかし、コロシアム内でカイキを見つめるあの眼差しは明らかに何かを狙っているものだった。警戒心を持ちながらパーティー会場に到着したカイキを待ち構えていたのは見たこともない豪華な料理といかにも高そうなドレスに身を包んでいる金持ちの連中だった。旅の途中であったためもちろんドレスなど持ち合わせていなかったカイキは普段着のまま会場に入ったのだが、やはり場違い感が半端なく早くも帰りたい衝動に襲われていた。


 行こうか帰ろうか迷いながら入り口で立ち往生していたその時、王宮に仕える衛兵がカイキを見つけそのまま国王のもとへと案内してくれた。カイキにとって自ら人の集団の中に入るのは苦手であったため、この衛兵たちの気遣いはかなり嬉しかった。カイキがパーティー会場に入ると一気に注目の的になった。どうやらあのトーナメントには国の一般市民だけでなく、金持ちの貴族たちも観戦していたようだ。その空気が重苦しく感じたカイキは、貴族たちと目を合わせないようにさっさと過ぎ去っていった。それからやっと国王もとに辿り着くと国王はとても優しい表情でカイキに握手を求めてきた。国王は最初は一回戦の大男が優勝することを望んでいたようだが、カイキが勝ち進むたびに会場がこれまでにない盛り上がりを見せ、結果的に大会が大成功で収まったことをとても喜んでいた。これを機に大会の内容がより良い方向へと進んでいくことをカイキは祈るばかりだった。


 国王に敵意がないことを確認したカイキは、ここに来てようやく気持ちが楽になり、いつの間にか国王との談話を楽しんでいた。国王との談話が終わると次はいよいよ本命の王女様だ。王女は国王との談話中、常にそわそわしながら談話が終わるのを待っていた。談話が終わると王女はすぐさまカイキに近づき、「ちょっと場所を変えましょう」と周囲に聞こえないよう耳元で囁くと、カイキの手を取り入り口とは反対側にある別室に続くドアに入った。この場で唯一の至福であるご馳走にまだ手を付けていなかったカイキは、立場上抵抗できない王女に対しただ苦笑いをすることしかできなかった。


 しかし部屋に入るとそこにはパーティ会場ほどではないが、カイキにとっては十分すぎるご馳走が待っていた。さすがにそこは王女が気を利かせて準備していたくれたようだ。というよりむしろ、王女がカイキによこした招待状は本来こちらの会場を意味していたのかもしれない。今日一日で味わった様々な精神的疲労によって空腹が限界だったカイキは、王女が用意したご馳走を夢中で食べた。味もどちらかというと庶民的な感じがしてとても食べやすかった。しかしその裏には何か狙いがあると、カイキは思わずにはいられない。そしてカイキの腹ごしらえが済んだのを確認した王女はカイキの座るソファーの隣に座った。


 「ねえねえ、あなたどこから来たの?いつもどういう修行しているの?もしかして旅をしてるの?それとも魔導士ギルドに所属してるの?」


 怒涛の質問ラッシュ。カイキと年齢が近いということもあるかもしれないが、王女様の言葉遣いとは思えないくらいまるで友達のように話しかけてくる。王女の突然の質問に多少の戸惑いはしたが、素直に従わなければ何かしらの罰則が与えられるような気がしたため、一つ一つの質問に答えていった。王女のテンションに対してどのような言葉遣いをしたらよいか分からず、二人の間にはかなりの温度差があった。そんなカイキの苦労も気にかけずに、王女の質問は止まらなかった。恐らく自分がやると決めたことは周囲のしがらみを全く気にせずにやり通そうとする性格なのだろう。言い方を変えれば他人よりも自分優先。改めて王族がこれで大丈夫かと心配になった。それでもカイキは王女の質問にいくつかごまかした部分もあるが、何とかすべて答えることができた。そして王女はカイキに最後の質問をした。


 「魔導士って楽しい?」


 その質問をした王女の表情は、どことなく寂しそうだった。もしかしたら王女は魔導士の冒険にとてつもない憧れを持っているのかもしれない。それが王族という立場から自分の思い通りに生きていくことができなくて窮屈しているんだろう。今まで割と自由に生きてきたカイキにとって、王女の気持ちの全ては分からなかったが、やりたいことがやれないもどかしさはよく理解できる。だがそんな王女の願いは、何の権力も持っていないカイキが叶えられるわけもなく、王女の真意に気付きながらも「はい」と答えることしかできなかった。王女はカイキの言葉に「そっか」と答えるとカイキの傍を離れ、「またね」という言葉を残し部屋を出た。カイキは何となくやるせない思いになった。だが、そんなカイキの心情とは裏腹に王女は部屋の外でニヤリと笑うと自分の部屋へと戻っていった。


 カイキも宿に戻ることにした。とりあえず国王のもとに戻り、挨拶だけすると国王はカイキに向かって一言言い渡した。


 「これから大変だろうけど、よろしく頼むよ。近くに来たらまた寄っておくれ、君なら大歓迎だ」


 そう言って国王はカイキに手を差し出した。カイキは国王の言葉にわずかな疑問を持ちながらも、国王の握手に応じてパーティー会場を後にした。カイキは宿に帰る道中、王女との会話を思い出していた。そもそも王女の狙いが未だに分からない。単純に冒険の話を聞きたかったわけでもなさそうだし、「またね」の一言も妙に引っかかる。なんだかまた近くに会おうとしているような感じだった。王女の真意は結局分からず終いだったが、面倒事に巻き込まれないよう明日の早朝にさっさとこの国を出ることにした。


 その晩は適当な宿を見つけ、明日に備えて早めの就寝をした。そして朝になり、カイキは起きて早々身支度を済ませて宿をチェックアウトしようとしたその時だった。突然外からカーテン越しに窓を叩く音が聞こえた。カイキの背中に冷や汗が流れ落ちた。根拠はないが明らかに王族の手の者によるものだと判断した。しかしここで確認しないわけにもいかず、カイキは恐る恐るカーテンを開けた。


 「私も連れてって!」


 王女が満面の笑みで、勢いよく窓を開けて部屋に入ってきた。この出会いがカイキの新たな冒険の始まりだった。

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