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 「国民の声に耳を傾ける」「丁寧に議論していく」

 安倍政権が発するこうしたもっともらしい言葉は、内実を伴わず、その場を言い繕うだけのものであることがしばしばだ。

 カジノを含む統合型リゾート(IR)をめぐる国会審議でも同様の光景が繰り返される。

 日本への参入をめざす中国企業側から賄賂を受け取ったとして、IR担当の内閣府副大臣だった秋元司衆院議員が起訴された。16年12月のIR推進法の成立過程にも、改めて重大な疑念が生じた。ところが政権は、既定路線をひた走っている。

 事件を受け、事業者が政府関係者と接触する際のルールを、IR整備に向けた基本方針に盛り込む考えを示してはいる。だがその程度の手当てで、公平公正な事業者選定が担保できるとは到底思えない。

 衆院予算委員会では、野党が「立ち止まって問題の本質と癒着の温床を徹底的に洗い出すべきだ」と指摘した。これに対し首相は冒頭の決まり文句に逃げこみ、事件に向き合おうとしなかった。誘致を検討する自治体について、カジノ業者との接触実態を調査・公表するよう求められても、応じなかった。

 秋元議員が摘発された後も、政府は自治体からの誘致申請の受付期間を来年1~7月とする日程を変えていない。一方で、成長戦略の目玉と位置づけながら、IRの経済波及効果について具体的な数字を出すことを拒む。赤羽一嘉国土交通相は「立地場所が決まっていないので積算できない」との説明を繰り返すが、そんなことでどうして「目玉」といえるのか。

 ギャンブル依存症への対策も改めて問われている。

 野党は、カジノで賭けられる金額や事業者が客に貸し付ける額に上限を設けるなどしないのか尋ねたが、首相は「依存症防止のための制度を整備している」と述べるにとどまった。

 IR実施法が、入場を「週3回、28日間で10回」に制限していることを念頭に置いた答弁だが、専門家はかねて「それだけ賭場にいれば依存症になる」と警告し、対策の強化を訴えてきた。実施法成立から1年半が過ぎてもゼロ回答とは、政権の意向と異なる「国民の声」には耳を傾けないと言うに等しい。

 朝日新聞社の1月の世論調査では、IR整備の手続きを「凍結する方がよい」と答えたのは64%で、「このまま進める方がよい」20%を大きく上回った。2月調査でも、IRにメリットよりもデメリットを感じるとの答えが2倍近くあった。

 やると決めたのだからやる。後は問答無用――。そんな政権の態度は、将来に禍根を残す。

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