客席のビートたけし
「俺の理想とする芸人は深見千三郎さんなんだけれど,理想とするっていうのをいつから意識しだしたったら,深見さん---,師匠をみてからだろうね.逆に『お前の理想像は俺だ』って言われたような気がするんだよね」
劇場支配人
「深見千三郎=タケシだもんな.タケシの演技見てると,深見千三郎そのままだもん」
元踊り子
「『あれさ,師匠が乗ろうつったんだね,きっと.』って.そっくり」「タケちゃんマンは,師匠のコントに出ていくときの顔」
元芸人
「例えば,深見さんのものを,100%自分のものにして,120,130にして出してる人だよね」
元踊り子
「だけど,他の人が,ここ出身の人が同じ事やっても,やっぱり違うんじゃないかと思う」
客席のたけし
「師匠に似てるねとか,師匠そっくりだとか,お前,深見さんの芸,ほんとに良く盗んでるなって言うようなこと,言われたときに,『あっ,これは,俺,結構いけてるな』と思ったね.自分の頭の中で見ている師匠がいて,それにそっくりだなんて言われたら,あの芸が似てるんだなと思ったら,結構自信がついて,やっぱ,深見の師匠の影響は多大にあるなって」
無人の客席.舞台に上がりタップを踏む.
字幕:ビートたけし70才
映像:1983年浅草火事の痕
映像:スポニチ1983年2月3日記事
「浅草芸人の師,深見千三郎さん焼死」「たけし絶句.---最後の弟子」
映像:舞台でタップを踏むたけし.
字幕:伝説の浅草芸人,深見千三郎
ビートたけしが受け取ったものとは
たけし「はぁ.---(客席を見渡して) こんな少なかったかな」
取材者「舞台に立つとやっぱり気持ちって変わるんですか?」
たけし「変わるね」
再びタップを踏むたけし.
タイトル字幕
「たけし誕生 オイラと師匠と浅草」
2017年9月20日(水) 午後9時00分(60分) NHKBS
2017浅草
浅草を歩くたけし.
https://www.nhk.or.jp/docudocu/nod/
東洋館の中へ.
エレベーター.
字幕:45年前,北野武はここで修行した
取材者「たけしさんの頃は手動だったんですよね」
たけし「うん,変わってない.少し良くしたな.あれ上がってんだ」
映像:浅草フランス座(タップを踏む音)
字幕:この場所でビートたけしは生まれた
取材者「空気っていうのはやっぱり変わってますか?」
たけし「うん.全然.きれいになったよ」
映像:客席に入るたけし.
たけし「あ〜,よいしょ」(席に座る)
字幕:1972年,北野武はなぜ浅草に来たのか.
松倉久之浅草フランス座支配人
「ふらっときたんだね.ふらっと来て,浅草---,まあ,ふらっと来る前に浅草って所は芸人を作る町だと.まあ,浅草へ行けば何とかコメディアンになれるんじゃないか,コメディアンになって,俺は役者になろうっていうことで,ふらっと来たんですよ」
作家井上雅義(フランス座でたけしと一緒に武者修行)
「最初はエレベーターボーイでしょ.役者になりたかったとかじゃ--.エレベーターボーイやりながら他にも稲荷町とか田原町.あの辺のバイトもやってんだからね.掛け持ちで.その前は,埼玉の家具屋か何かでバイトやってて.分かんない.逃げてきたのかな.どこかからね.そんな感じがしないでもないけど.分かんない.何で来たか.それは本人に聞いて下さいよ」
たけし
「俺はね.やることがなかっただけだね.あの頃,学生運動がすごくて,俺,明治だったんだけど,学校が休みになって,俺,新宿の喫茶店のボーイやってたんだけど,周りがみんな,大学卒業するような年になると,田舎へ帰ったり.学生運動やってたやつだって、実家へ帰って中小企業の社長になったりなんかしたから.ありゃ?何だこれと思って.
俺は何していいか分かんないってなったんだけど.浅草に行こうかなって.浅草って,何かね.楽なんだよね.この町は.やっぱ,浅草なんだよね.渋谷じゃないんだよね.浅草独特の,こう,芸人が酒飲んで体こわして,みたいな感じがあったり.朽ち果てていくというのが,ちょっとロマンとしてあんのかも分かんないけどね.自分も後で考えりゃ,その,浅草を死に場所として選んだのかも分かんないよね〜.
まあ,浅草,遊びに行って,浅草でアルバイトして,何かやるかと思って来たのがフランス座じゃないかな」
字幕:フランス座は,当時ストリップ劇場だった.幕あいにコントが演じられていた.
支配人「当時はフランス座は上だったからね.エレベーターがあって,その横に切符売り場があってね.そこのおばちゃんのとこへ来て,『おばちゃん,俺働く場所ないかね?』って.
『あんた,エレベーターボーイなら,今,あいてるよ』って」
たけし「エレベーターボーイ募集なんて書いてあるから,ふぁっと入ったら,みんな,フランス座のエレベーターをやりに来ると思ってないんで,師匠に憬れたり何かして,コントとか漫才やりたくて来たんじゃねぇかな?」
エレベーターでの深見師匠とたけしさんの出会い
(中略)
「そうするとね.役者もね,全部ね,エレベーターで上がってくるわけ.深見千三郎が,正装してね.あの男がね,ちゃんと背広を着て,帽子をかぶってくるわけですよ.素晴らしい靴を履いてね.来るわけですよ.
この師匠が有名な深見千三郎さんという人か」
たけし「ここで,エレベーターやって,出入りするのが深見の師匠で,エレベーターやってると萩本欽一さんとかが乗ってきて,『師匠いる?』とか言うから,ああ,深見の師匠は偉いんだと思った.
東八郎さんや,萩本さんたちが遊びに来るから,威張ってたわけじゃないけど,向こうが師匠って言ってくるから,ああ,この人すごいんだと思ったけども」
取材者「たけしさんから深見さんに弟子入りを志願したんですか?」
たけし「いや俺何にも言ってないよ.エレベーターボーイやってただけだから.そしたら.ここに出入りしているコメディアンがエレベーターやってる俺を見て,こういうとこでエレベーターやってるのは,絶対コメディアンになりたくて師匠の弟子になりたいんだって,思ったんじゃないかな?師匠もそう思ってたと思うよ.
だから,『おい,お前,タケ』とか言って『タップやれ』とか何か言って,何で俺に,タップやらせんのかな,この人と思ったら,あっ,弟子だと思ってるんだ,と思って」
たけし「その内エレベーターの人が入って,俺がコメディアンで楽屋にいるようになったのね.進行係って,舞台袖にいるんだけど,コントの時は着替えて出ていくんだけど.エレベーター,一日ずっとやってるでしょ.それに比べて,楽屋に寝っ転がったり,テレビ見たりなんかして,出番の時,出てって.
こんな楽な仕事ないな,と思って.いつの間にか弟子になってたね.気がついたら,師匠の横に行ってお茶出したりなんか.競馬買って来たりなんかしてたよね」
たけし「師匠の使ってたコメディアンが遊びに来るんだよね.『たまには,舞台やるか?』なんて,二人でやるんだけど.それ見た時は,うまいなぁと思ったね.
形としては,横山やすしさんに似てるよね.
(横山やすしの映像:「お前,私立とちゃうねんで,この劇場.国立やで.日本国が建てたやつやで」「『日本国が建てた』て」「それが,中卒が出て漫才するいう--」)
たけし「やすしさんのツッコミなんだけどボケツッコミっていうか.深見の師匠も,コントでツッコミやるんだけど,そのツッコミがやたら,おかしいんだよね.ちょっと憬れたね〜.うめぇな〜.と思って.
それだし,他の座付きのコメディアンが同じコントやるんだけど,全然面白くないんだよね.何でこんなつまんねぇ事やってんだと思って,同じコントを師匠がやったら,まあ,面白いんだよな.
落語と同じだよね.同じ落語を,志ん生さんがやるか,前座がやるかの違いみたいな.
師匠のすごいのを見て,松竹演芸場へ行って,意外に面白くないんだよね.やっぱ,深見の師匠が一番面白いなと思って.
だから,芸風が似ちゃうんだよね」
字幕:深見千三郎は,浅草芸人たちに多大な影響を与えた.
南出照夫(元芸人,深見からコントを学んだ)「まあね.浅草のそういうロック座というストリップ劇場のコントのみんな裸を見に来てる人を笑わせる」
深見の代表作「監督のコント」
南出「『監督のコント』っていうのは,間違いなく受けるんだよね.俗に言う監督コントっていうのは,名作をやってそれを脱線して勝手にやるのを監督がちゃんと修正してって,笑いをとりながら,本筋に戻していくというのがパターン.
『瞼(まぶた)の母(昭和初期大流行した大衆演劇)』だって,ここで妹,お登勢が出るって言って,きれいな格好した妹役,オッオッ(鳴き声)って(手を少し広げてパタパタやりながら)出てくるわけ.
『何やってんだ,お前は?』『オットセイが出てくる』『妹の---お登勢っつうんだよ.バカ』『いや,オットセイって言うから,何で,私,こんなきれいな---』」
だから,みんな,脱線しよう,脱線しようとする」
取材者「それを戻す.戻すというか,ツッコむのが深見さんの役?」
南出「そうなんです.『上の瞼と下の瞼をそっと合わせな』っていうのをね.『左の瞼と右の瞼をそっと合わせて見ろよ,コノヤロウ!どうやって合わすんだ、バカ!一番いいとこだろ.コノヤロウ.頼むよ』
二楽「『上の瞼と下の瞼を』って,それをずっと全部自分で言って,『こうやってやるんだ,バカヤロウ!電気消せ〜』何てね.だからそれが,監督,一番かっこいいんだよね.」
南出「あのツッコミの鋭さはもう,天下一品なんだな」
字幕:深見は浅草に来る前,役者として一座を率い,全国を巡業していた.
中野章三(タップダンサー)「深見千三郎一座とか言ってね.子役が一人いるから『じゃあ,ボク行ってくれるか』ってことで,ぼくは嬉しくてね.学校行くよりも,嬉しくて回ったんですけど.芝居と、それからショーがあるんですね.歌ったり劇団員が踊ったり.深見さんもギター弾かれるんですよね.お手々が機械で取ったって,これだけないんですよね.こっから,第1関節から.工場かなんか,機械でほんとにザボンと切ったらしいですね.それでね,こうやって,ギターを押さえて,こっちでこう押さえながら,自分で弾いて歌うんですよね」
たけし「やっぱり,深見の師匠は,指がこう,包帯巻いてやってたんだけど,全然,その障害を持ってるの,全然分かんないもんね.手を包帯で巻いて出ていくんだけど.誰も気がつかないぐらい見せなかったよね.ポケットに,手,入れてるわけじゃなんだよね.
でもあんまり芸がすごくて,面白いから,手,気がついた人は,怪我したのかなって感じだよね」
支配人「そういう男だったから,『俺は地方へは出ない』と.弟子連中は,みんなね.テレビ出たり,映画出たりしましたけど.俺は,こういう男だからね.出ないよってんで.浅草に骨を埋めた男ですね」
「浅草で舞台立って浅草で骨を埋めた」
たけし
「大体,こういうとこでのコントっていうのは,『建設省から来た』とか言って,川が氾濫して---
今の時期なら絶対やってると思うね.
『この長い雨で梅雨で,川が氾濫して,私は建設省の方から来た国土開発なんとか委員です』って言って
『そこのお嬢さん,なにやってるんだ』って,
『うちへ帰る』って『ばか者』って,『そこの川が氾濫してるんだよ』って.
『川が氾濫してるときに,家にどうやって帰るんだ』って.
『いや---』『いやじゃない.私は国土---何とか』って言って.
『大体ね.あんたんち,帰るのには,ちょっと岩が出てるとこがある.そこを飛び乗っていかなきゃいけない,こっちが岩だから,こいつ(横になった相方を指して)が岩で,これを踏んずけて行きなさい.私もここで岩になってるから(横になって』って言って.
下から覗こうと『岩を踏んで行きなさい』と言ってね.スカート女の子はいてるわけ.
『ちょっと待て』って言って.『どうしたの?』.『岩硬くなちゃった』って.
『岩硬くなっちゃったって何?』『岩が腹痛くなってきちゃったからな』って言って.
(中略)
たけし「それが,うまいんだよな〜.『建設省から来た』とか言って」
取材者「権力を笠に?」
たけし「うんそう,笠に着て,スケベなことやろうとして,失敗する.というの,ばっかりなんだけど.
ただ師匠のすごいのは,コントをやりながら教えてんだよね.
俺が『だんな---』ってこうやってると,
『近づきすぎた,コノヤロウ.これ以上近づくな,このやろう.その辺で言えばいいんだよ.てめえは』なんて言うんだよね
芝居の稽古,つけてるんだよな.『立ち位置近づきすぎだ』と言って,『客席から見てちゃんとシンメトリーにちゃんとなんなきゃ,お前も変だろ』って.
コントやりながら,『てめえどこ立ってんだ,このやろう』なんて言うからね.
(中略)
芝居しながら怒って直して,なおかつ笑いをとりにかかるんだよね」
(以下続く