プログラミング教育どう進める 悩む教員 小学校で新年度必修化

西日本新聞 佐賀版 梅本 邦明

 情報通信技術(ICT)時代に対応した人材育成に向け、プログラミング教育が2020年度から小学校で必修化される。ただ、国が示すプログラミングの定義や授業の進め方は曖昧な部分もあり、学習用端末の配備率が全国トップの佐賀県内の教育現場も試行錯誤をしながら準備を進めている。そもそもプログラミングとは何か。なぜ子どもに有益なのか。授業にパソコンは必須なのか。取材した。

 多久市の義務教育学校、東原庠舎(しょうしゃ)中央校の教室に1月下旬、小中学校の教員38人が集まった。情報教育の担当者向けの研修会で、6年2組のプログラミングの授業が公開された。

 クラスは下級生との交流会で楽しんでもらうゲームを作るため、昨年12月から学習用ソフト「スクラッチ」を導入。担任の古川能正教諭(50)は児童27人に「下級生が楽しめるプログラムになるように工夫しよう」と呼びかけた。

 児童は9グループに分かれ、思い通りの迷路や射撃のゲームを完成させようとタブレットを操作。キャラクターの動き方などの指示を出す「ブロック」の組み合わせを何度も変えてプログラムを作り、理想の形に近づけていった。

マニュアルがない

 プログラミング教育の必修化は新学習指導要領が4月から全面実施されることに伴う。要領は「論理的思考力を身に付ける」などとするが、授業内容は現場が考えなければならない。

 県内の公立学校は1台のパソコンやタブレットが何人の児童生徒に割り当てられているのかを示す配備率が1・9人(19年3月時点)で、6年連続全国1位。ところがプログラミング教育はまだ緒に就いたばかり。県教育委員会の担当者は「具体的なマニュアルはなく悩んでいる教員もいる」と語り、18年度から教員向けに授業方法などを教える研修をしている。

 実際、古川教諭も「プログラミングの知識はなく、当初はどう授業をしていいのかが分からなかった。児童に概念を伝えるのにも苦労した」と言う。ICTに詳しい自校の支援員に授業内容を相談し、スクラッチの操作は昨年4月から専門書を読み独学で勉強した。

 公開授業後の質疑では「何を基準に児童を評価すればいいのかが分からない」「(要領にある)プログラミング的思考の定義とは何なのか」などの意見が出た。

 古川教諭は「評価」について「難しくておもしろいゲームを作るのが授業の目的ではない。目標にたどり着くまでの問題を解決する能力を見ていきたい」と説明。「プログラミング教育により一足飛びではなく物事を順序立てて思考する素地をつくれる。育んだ力は他の教科にも生かせると思う」と「プログラミング的思考」を語った。

保護者の関心高く

 必修化で保護者の関心も高まっている。

 佐賀市開成のプログラミング教室「GLOTEC(グローテック)」では昨年末から入会の問い合わせが増えている。同市の神野小3年、右近太羅君(9)を昨春から通わせている母寿子さん(38)は「本人が好きなことだし必修になるなら、なおさら始めさせようと思った」と話した。

 だが、本来プログラミングは学校教育になじむものなのか。同教室の平田雅一代表(42)は「技術や考え方は中途半端なやり方ではなかなか身に付かない。しっかりと学んだ方が将来的に子どものためになる」と懸念を示す。

 「授業」となると成績や評価がどうなるか、ということも気になる。だが、それにとらわれるとプログラミング教育の本来の目的を見誤りかねない。

端末使わず授業も

 プログラミング教育をいかに進めるのか-。そのヒントは、全ての小中学生にタブレット端末を配備している武雄市にある。

 市教育委員会は14年度、IT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)と連携し、山内西小の授業に導入した。「未来の道具を考えよう」という単元の中で、道具の形や使い方、利点を発表する際にプログラミングを活用するなどしてきた。

 だが、同校は19年度、端末を使わずに災害時の避難方法や、分数のかけ算、割り算の解き方を「フローチャート」(流れ図)でノートに書かせることで、筋道を立てて考えてもらう授業も試みた。研究主任の田中大介教諭(36)は「タブレットを使うことが必ずしもプログラミングではない」と強調し、「端末もチャートも学ぶための一つの道具に過ぎず、授業のやり方はいくらでもある。大切なのは育てたい児童の姿を明確にすること」と語る。

 プログラミング教育とは、パソコンの高度な操作技術を身に付けるのではなく、筋道を立てて課題解決に挑む能力を育てることだと感じた。「粘り強く考えることで、よりよい解決方法を探る力、プログラミング的思考を養っていけるのではないか」。田中教諭の言葉が頭に残った。(梅本邦明)

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