サイトカインとは、免疫系が警告を出すために産生する物質で、免疫細胞を召集して感染箇所を攻撃するよう働きかける。指示を受けた免疫細胞は、体の他の部分を救うために感染した組織を死滅させる。(参考記事:「あなたの風邪は寝不足から? 睡眠と免疫力の深い関係」)
人の体を外敵から守っている免疫系だが、体内で暴れ始めたコロナウイルスのせいで、大量のサイトカインを肺へやみくもに送り込んでしまい、大混乱を引き起こす。「銃でターゲットを撃つのではなく、ミサイルを撃ち込むようなものです」と、ラスムセン氏は説明する。すると、感染した細胞だけでなく、健康な組織までも破壊してしまう。
こうした大混乱は、肺にとどまらない。サイトカインは血液によって全身に運ばれ、複数の臓器で問題を引き起こす。これがサイトカインストームだ。
すると、事態は急変する。最も深刻なケースでは、サイトカインストームに加えて全身に酸素を送る機能が低下し、多臓器不全に陥る場合がある。なぜ一部の患者だけが、肺の外でも合併症を引き起こすのか正確にはわかっていないが、心臓病や糖尿病といった基礎疾患と関係しているのかもしれない。
肝臓:巻き添えの被害者
コロナウイルスが呼吸器系の外へ広がると、肝臓が被害を受けることが多い。
「ウイルスは、いったん血液に入ると体のどこへでも泳いでいけます」と、ロク氏は言う。「肝臓は血管がたくさんある臓器ですから、ウイルスは簡単に入り込んでしまうでしょう」
肝臓の主な仕事は、胃から送られた血液を処理して有毒なものを取り除き、体に必要な栄養を作り出すこと。また、胆汁を作って小腸での脂肪の分解を助ける。肝臓に含まれる酵素は、体の化学反応を速める働きをする。
ロク氏によると、通常、肝臓の細胞は常にある程度壊れていて、そのせいで、ある種の酵素を一定量血液中に放出し続けている。だが、壊れた細胞は、すぐに新しい細胞にとってかわられる。この活発な再生プロセスのおかげで、肝臓は損傷を受けても立ち直りが早い。なお、血液中の肝酵素の量は、肝臓の健康度のバロメーターになるため、健康診断に使われている。
したがって、SARSやMERS患者に見られたように、もし肝酵素の値が異常に高くなったら、警戒しなければならない。ただの軽い傷で肝臓が簡単に回復する場合もあるが、肝不全など深刻な症状を起こす恐れもある。
ロク氏によると、呼吸器系に感染するウイルスが肝臓でどのように作用するのかはまだ明らかになっていない。ウイルスが肝臓に直接感染し、増殖して細胞を殺しているのか。または、ウイルスへの免疫反応が肝臓に激しい炎症反応を起こし、細胞が巻き添え被害を被っているのだろうか。
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